ママうみ座談会 第6回 千葉の漁港を訪ねて 漁業関係者からの声

記事 - 2012-11-22
第6回 「安全でおいしいお魚を消費者に提供するために(2)」
 
大野登さん
千葉県南房総市千倉町で水産加工・流通業を行う「スズ市水産」専務取締役。
3.11以降、自社が取り扱う魚介類商品の放射性物質の検査を独自に第三者機関に依頼し、放射性物質が検出されなかった魚介を飲食店などに卸している。
花岡和佳男
グリーンピース・ジャパン 海洋生態系担当
フロリダ州工科大学で海洋環境学専攻。
マナティーやウミガメの保護や、マングローブ林を伐採しないタイガープローンの養殖事業の立ち上げに取り組んだのち、2007年よりグリーンピースの海洋生態系問題を担当。
過剰漁業問題に対する活動や、放射能汚染の海洋や魚介類への影響調査活動の指揮を執り、政府や主要スーパーなどとの交渉に取り組んでいる。
 

 

第5回に引き続き、千葉県南房総市千倉町で水産加工・流通会社を営む大野さんを訪ねに、千倉港に行ってきました。
福島第一原発の事故により海や魚が放射能汚染されてから1年8カ月以上が経ち、千葉県の生産者の生活や消費者の需要がどんな変化を迎えているのか。
現状、そして放射能問題への取り組みなど色々とお話を伺いしました。

ママうみ座談会 第6回
「安全でおいしいお魚を消費者に提供するために(2)」

2012年11月22日

やはりトレーサビリティーは必要

花岡:  消費者の不安を解消するために小売店などが情報提供すべきものの一つが、いつ、だれが、どこで獲ったのか、その魚がどのような流通経路を上ってきたのか、というものだと思います。
既に牛肉では確立されているトレーサビリティー体制を魚介類でも確立するのは、今だからこそ求められているのではと感じますね。

大野さん:  基準値以上の放射性物質が検出された魚が見つかって出荷停止になったりしていますが、出荷停止にして終わりではなく、県や自治体が港で検査をし、汚染されていないものだけ出荷する体制を整えれば、あるいはせめて、基準値以下でもどれほどの汚染が確認されたか、そしてその魚がどこの海域で獲れたものなのかを、消費者に届くように売り場で情報提供すれば、不安はなくなっていきます。トレーサビリティーが確立されれば、産地偽装の問題もだいぶ解消されるでしょう。国は放射能から市民を守る意識が足りないと思います。国民のための国民の政治といった人がいたが、今の政治は国民のために行われているとは思えません。

花岡:  まさに仰る通りだと思います。また放射能汚染だけでなく、安全性や持続可能性を含めた魚介類の「質」をきちんと消費者に伝えるためにも、これから一層大切になってくると思います。今朝は房総半島にあるいくつもの漁港をご案内いただきましたが、漁港にある魚市場では漁船ごとに魚が分けられて売られていて、漁船や漁業者の魚の扱いを考慮して魚が買われていくことに驚きました。

大野さん:  魚の獲り方も、船に上げた後の魚の扱い方も、船や漁業者によって大きく違いますからね。そういう違いを消費者が知って選んで購入できる体制を作ることが、トレーサビリティーの確立により可能になるのだと思います。乱獲され乱暴に扱われた安い魚を買うか、持続性を考え魚を大切に扱う漁業により獲られた魚を買うか、消費者がその選択をできる体制を作ることは、私たちのような沿岸漁業者や加工・流通業者にとってもとても大切なことです。

食卓から魚を奪うのは放射能汚染だけじゃない

花岡:  トレーサビリティー体制が確立されると、いま世界の海で起きている乱獲や違法漁業の問題も大きく解消の道へと進むと思います。

大野さん:  以前は何十隻もの漁船が千倉の港から華々しく出航していき、それは千倉の誇りと伝統でした。私などはその憧れを胸にこの地で育ったものです。お盆にはサンマ、次にサバ、カツオ、イカ。この3つのサイクルで漁がおこなわれていたのですが、今ではすっかり漁が廃れてしまいました。船がいなくなり、漁師がいなくなり、街が寂れていく。私たちが小学校の時は、交通量が多くて危ないから海岸通りは小学生立ち入り禁止でした。それがなくなったのはやはり、サバやカツオが、乱獲で減ってしまったからですね。

花岡:  資源管理をしないと、大量にあると思っていた魚がいなくなってしまうと言うことですよね。あと、それは獲る側だけの問題ではなく、消費者も「いつもどんな魚もあるのがあたりまえ」と思っているので、それも原因の一つですよね? スーパーや回転寿司店などに行くと、毎日豊富なお魚で溢れています。これを見て「魚がいなくなる」とは想像しづらいことですが、全国のお店でこんなに魚が売られていることこそが、海から魚がいなくなっていることの一番の現れだと思います。また報道も「マグロの値段が高騰する」「スーパーの企業努力で品薄のウナギをタスマニアから大量に購入できるようになった」などといった話題ばかりで、なぜマグロやウナギが高価や品薄になったかに触れないことも、一因がありますね。

大野さん:  その通りだと思います。消費者だけでなく流通や小売もその辺りをもっと考えるべきだと思います。しかし漁師も高齢化していて、後継者もいないので、「残さなくてもよい」とおいしくもない育つ前の魚を獲ってきてしまう漁師がいるのも現状です。

次の世代のためにも調査結果のデータは残す

花岡:  今日、漁港を見せていただいて、大野さんは魚を丁寧に扱って、漁港もプライドを持っていて、魚を大事にしていると伝わってきました。

大野さん:  今回の原発事故で不安に思っているのが普通だと思います。安心、安全なものを食べたいというのは、人間として、親として当たり前だと思います。だから、独自検査とグリーンピースの検査を合わせて協力して安心安全を届けていきたい。自分の子どもに対しては、教育の一環でもあるし、放射能の怖さを教えることも大事だと思っています。

花岡:  親の世代がこの問題を終わらせなくてはならない、そして同じ過ちを繰り返さないためにも、きちんと子どもに伝えていかなくてはならないことですよね。 ありがとうございました。

大野さんにご協力いただいて行った放射能調査結果はこちら >>

(ママうみ座談会は、毎週木曜更新です。 )

photo: © GREENPEACE

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