太平洋クロマグロ、次の世代に残せるの?

記事 - 2013-10-01
寿司の主役ともいわれる太平洋クロマグロが乱暴な漁獲・流通・消費により、いま海から姿を消しつつあります。 太平洋クロマグロやその漁業、そして寿司や刺身といった伝統的な日本食を次世代に残せるか、私たちは瀬戸際に立っています。

寿司の主役ともいわれる太平洋クロマグロが、乱暴な漁獲・流通・消費により、いま海から姿を消しつつあります。
太平洋クロマグロやその漁業、そして寿司や刺身といった伝統的な日本食を次世代に残せるか、私たちは瀬戸際に立っています。

資源状態:未開発時の96%が既に海から姿を消した

北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)が出した報告書によると、太平洋クロマグロの資源量は乱獲により過去最低レベルにまで落ち、未開発時(商業規模で漁業が営まれる前)の4%以下にまで減少したとされています。
つまり、全体の96%をここわずか数十年の間に漁獲し消費してしまったということです。

更にISCは、資源量は今後も更に落ち込む可能性が高いことを示唆しています。
いまや太平洋クロマグロは、長期的な資源回復計画を策定・実施し、資源回復の兆しが見られるまでは、一時的に全面禁漁にすべき事態にまで陥っていると、グリーンピースは考えています。

クロマグロには、太平洋クロマグロ、大西洋クロマグロ、ミナミマグロの3つの種類があります。
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)では

  • 世界総漁獲量の約97%が日本で消費されるミナミマグロは、「絶滅寸前」
  • 世界総漁獲量の約80%が日本で消費される大西洋クロマグロも、「絶滅危惧」

に指定されています。

まだ指定されていない太平洋クロマグロも、このままではすぐに絶滅危惧種に指定されるかもしれません。

太平洋クロマグロはなぜこんなに減ってしまったのでしょうか。

総漁獲量の約98%が、海に次世代を残さない成熟前の若いマグロ

太平洋クロマグロは、一本釣りで獲られた何百キロもある巨体がセリにかけられるイメージが強いですが、実は総漁獲量の約98%もが、海に次世代を残す前の、成熟前の若いマグロで占められています。

  • 0~1歳の幼魚(総漁獲量の約90%): 食用および養殖用として主に韓国や九州のまき網船、西日本の曳き網などが漁獲。
  • 2歳魚: 食用や養殖用として主にメキシコのまき網が漁獲。
  • 3歳魚: 食用として主に日本海のまき網漁船が、大量に漁獲。

太平洋クロマグロが初めて産卵をするのは3歳~4歳。
海での産卵経験がない若いマグロが一網打尽にされているのですから、数が減るのは当然です。

太平洋クロマグロ、世界で獲られる80%を日本が漁獲・消費

日本食を代表する寿司や刺身などに使われているマグロのほとんどが、太平洋クロマグロですが、先に述べたように、日本の他にも、メキシコ、韓国、台湾、米国等の漁船により獲られています。

しかし世界の総漁獲量の約80%を世界人口の2%に満たない日本で消費し、そのために大量に、成熟前の若いマグロを漁獲してしまっています。

また太平洋クロマグロだけでなく、日本は世界のマグロ類総漁獲量の3分の1から4分の1を消費する、マグロ消費大国です。

このように日本は、太平洋クロマグロの一大漁業国として、また消費国として重い責任があり、なんとしても資源回復を先導し果たさなくてはならない立場にあるのです。

太平洋クロマグロを次世代に残していくために

1.保護管理:乱獲を実質容認してきた漁業管理

太平洋クロマグロの資源保護・管理は、漁業国で組織する中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)が管轄しています。

しかしこれまで何年もの間、利害関係の対立する加盟国間の意見がまとまらず、また同種の資源評価をまとめるのに予想以上に時間がかかるなど、効果的な対策を打ち出せないままに、乱獲を実質黙認し続けてきています。

グリーンピースはWCPFCに参加し、国際環境NGOとして提言をしています。
しかし、予防原則や科学的根拠に基づいた持続可能性を追求した漁業資源管理をしきれない、現行の進行の遅い漁業資源管理機関に頼るだけでは、次の世代の海や食卓に太平洋クロマグロを残すことはとても難しい状態です。

2.流通消費:乱獲を押し進める薄利多売

乱獲の背景には企業によって作り出された「クロマグロでもなんでも安く気軽に、いつでも食べたい」という、消費者の需要があります。

全国展開するスーパーマーケットや、回転寿司店などが、太平洋クロマグロを安価で大量に取扱うようになったことが、まき網などによる乱獲を進め、大量の成熟前の若いマグロを自然界から奪う養殖ビジネスを拡大させる引き金となりました。

グリーンピースは国内の大手スーパーマーケット5社(イオン、イトーヨーカドー、ユニー、ダイエー、西友)などと持続可能な魚介類の調達方針の策定に向け、対話を続けています。
しかし、短期利益よりも持続性を優先したマグロ調達方法の改善は、まだ見られません。

政府や国際機関による資源管理が十分に機能していない中、グリーンピースは消費者に魚介類商品を直接提供するスーパーマーケットに対して、豊かな生態系と恵みを次の世代の海と食卓に確実に残すため、絶滅危惧種や乱獲されている種の取扱いを中止し、持続可能性が確保されている魚介類を積極的に取扱う、魚介類の調達方針の策定・実施を求めています。

「消費者の声」が、流通を変える

世界有数の魚介類消費国である日本で、スーパーマーケットは家庭で消費される魚介類のおよそ70%を販売し、漁業や消費の持続可能性の確保に大きな影響力を持っています。

みなさん、ぜひオンライン署名「一週間、魚食べずに過ごせる?」に参加して、スーパーマーケットに「絶滅危惧種や乱獲された魚の薄利多売は止めてほしい。」、「持続可能に獲られた魚を買いたい。」という消費者の声を届けてください。

子どもたちの世代、未来の世代に、魚を残してあげましょう!

統計資料出典

  • International Scientific Committee, ‘PACIFIC BLUEFIN TUNA STOCK ASSESSMENT’, December 2012
  • FAO FISHSTAT
  • 水産庁「太平洋クロマグロの資源評価結果と管理強化の対応について」平成25年3月
  • 責任あるまぐろ漁業推進機構(OPRT)

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