福島第一原子力発電所事故Q&A

記事 - 2011-03-20
福島第一原子力発電所事故に関してQ&Aを作成しました。

内容はグリーンピース本部事務所のサイト(2011年3月18日現在)を参考に作成しています。

質問一覧

質問をクリックすると、答えをご覧になれます。

事故について

事故が及ぼす影響について

Q: 今回の災害に関するグリーンピースの見解は?

この度の震災で被害に遭われた日本のみなさまにお見舞い申し上げると共に、懸命に作業をなさっている関係者のみなさまに、心から敬意を表します。
そして、一刻も早く事態が好転することを、心から願っています。

これまで、グリーンピースは、福島第一原子力発電所を含め、長年にわたり原子力発電所の危険性を指摘してきました。
今後もグリーンピースは、世界中の原子力発電所段階的廃止に向けて、声を高めていきます。
また、各国政府に、環境に優しいだけでなく、経済的で継続利用が可能な、再生可能エネルギーへの転換の代替案を示していきます。

2011年3月23日、グリーンピースはドイツの原子力安全専門家Dr Helmut Hirschに依頼し、「福島第一原子力発電所事故-国際原子力事象評価尺度(INES )による評価」を発表しました。

Q: スリーマイル原発事故、チェルノブイリ原発事故と、今回の福島原発の事故はどのように違うのですか。

東日本大震災、津波により起きた今回の福島第一原子力発電所1~3号機の事故について日本の原子力安全・保安院は3月19日、国際原子力事象評価尺度(INES)において、広範囲な影響を伴う事故であることを示す「レベル5」として国際原子力機関(IAEA)に報告しました。
これは、国内の原発事故としては最悪で、1979年に米国ペンシルベニア州で起きたスリーマイル島原発事故と同じレベルです。

一方、フランス原子力安全局(ASN)は、重大な事態である「レベル6」に相当するとの見解を明らかにしています。
今回の事故の影響度の最終的な判断は、今後の正確な解析が待たれます。

INESでレベル4の事故というのは、「施設外への大きなリスクを伴わない事故」、レベル5とは「施設外へのリスクを伴う事故」、レベル6は「大事故」を意味し、チェルノブイリ原発事故はレベル7の「深刻な事故」に相当します。

現状が、これからどのような広がりを見せるかはまだわかりません。
今後、原発がコントロール可能となるまでどのくらいの時間がかかるかによって異なります。
そのときにはじめてこの事故からの復興についての正確な解析ができるようになります。

2011年4月12日、経済産業省の原子力安全・保安院は福島第1原子力発電所の事故の評価を、国際基準に従って最悪の「レベル7」に引き上げることを決めました。

2011年4月20日発表「25年を経て繰り返されたレベル7原発事故 チェルノブイリと福島」で、さらに詳しくレポートしています。

Q: 想定される最悪のケースは?

政府や東京電力から充分な情報が得られていない現状では、明確な答えを出すのは非常に困難ですので、想定されるケースを挙げます。

福島第一原発の1号機、2号機、3号機の冷却がうまく進まない場合:
炉心溶融にいたる危険があります。
また2号機と3号機の原子炉格納容器は、損傷していると考えられていますので、放射能の環境への放出が起こる可能性が非常に高くなっています。

炉心の損傷が少なく爆発が避けられた場合:
放射能が原子炉格納容器内にとどまり、濃縮されます。
しかし、格納容器内の圧力が高まった場合には、容器内の圧力をさげるために放射能を環境中に放出しなければいけなくなります。

Q: 逆に、最良のケースは?また、どの時点で「安全」と言えるようになるのでしょう?

全ての原子炉と使用済み燃料プールの冷却が進めば更なる危険は避けられますが、爆発により2つの原子炉の格納容器に損傷の恐れがあること、使用済み燃料プールがむき出しになっている事から、状態が落ち着き、発電所からの放射能が完全に止まるには、数週間掛かるのではないかと思われます。

よって状態が落ち着いた後も、復旧とメンテナンスには相当の時間を要し、その間周辺の住民や環境が危険にさらされることが考えられます。

Q: 日本政府は、放射線値に関して、充分に情報開示をしていると思いますか?

充分な情報が開示されているとは言えませんが、東京電力と原子力安全・保安院は、放射線値をウェブサイトで公開しています。
この情報で福島周辺の放射線値が分かりますが、これまでにどれくらいの放射性物質が放出されたかなどは不明です。

情報が充分に開示されない理由は、東京電力も、原子力安全・保安院も、計器の故障や、原発付近の放射線値が高く近くで調査できないことも原因かと思われます。

Q: 一部の会社や国では、避難や国外退避を勧めているようですが、グリーンピースはどのように考えていますか?

政府や会社、大使館の指示に従う事をお勧めします。
避難が必要かどうかは、その時の状況によります。

例えば、汚染された雲が近づいている時などは、避難のために外出するより、屋内退避が優先されます。
安全に生活できる場所が確保される場合のみ、その場所への避難をお勧めします。

Q: 放射能は、東京にも到達する可能性がありますか?

はい。すでに微量が検出されています。
そして今後、相当量の放射性物質が放出されたり、天候の影響により、さらに多くの放射性物質が東京に到達する可能性があります。

その際すぐに健康被害の懸念は有りませんが、多くの方が普段より多い放射線にさらされると言うことは、長期的に見て健康被害が増えることが充分考えられます。

Q: どうやって防御すれば良いのでしょう?

最良の方法は、発電所や、放射能に汚染された地域に近寄らないことです。
原子力発電所から半径30km以内の方はすでに避難をされているはずですが、アメリカ政府はアメリカ核安全局の判断で、自国民に80km以内からの避難を勧告しています。

日本政府は、放射線値が高くなっている地域の住民に、窓やドアを閉めて屋内退避すること、外出の後には、着ている衣服をビニール袋に入れて室内に持ち込まない、シャワーなどで体を洗うことなどを指示しています。
放射線値が高くなっている地域では、周辺で生産された牛乳を飲むことを控えたり、農産物をよく洗うことも指示しています。

放射性物質から身をまもるための対応手順

  1. 避難勧告地域、もしくは周辺の方は速やかに避難する
  2. 放射性物質が体内に入らないようにマスク・ぬれタオルなどで口や鼻をふさぐ
  3. 避難勧告地域外の方はなるべく建物の外に出ない
  4. 建物内の全ての窓を閉め、換気扇をとめる
  5. 自治体などの指示に従う(インターネット、テレビ、ラジオなどから)
  6. 車内にいる場合は、空調システムを切りテレビやラジオをつけて情報収集し、指示を待つ

Q: 現在の状況は安定しているようにみえますが、今後悪化することは考えられますか?

福島第一原発はまだまだ予断を許さない状況です。
しかし、現場での制御作業が継続されれば、最悪の惨事は避けられる可能性が高いと考えます。

地震後に停止された3つの原子炉の冷却については深刻な問題があり、燃料棒の溶解と放射能の漏えいを防ぐため、今後も継続して、炉心を冷やし続けなくてはなりません。

また、別の問題は地震の間に作動していた3つの原子炉と、作動していなかった3つの原子炉の中にある6個の使用済み核燃料プールです。
これらのプールには、非常に多量の放射性物質が含まれますので、長時間の冷却がなされなければ、爆発や燃料棒が溶ける事態が生じ、深刻な放射能漏れを引き起こす可能性があります。

Q: 使用済み燃料プールについては?

使用済み燃料プールから放出された放射性物質がどのように広まるかに関して、多くは分かっていません。
もし温度が上昇し、燃料棒がオーバーヒートすれば、爆発が起こる可能性があります。
温度がさらに上昇すると、燃料棒は自然発火する可能性もあります。

Q: 日本の原子炉は耐震構造ではなかったのですか?

日本では、原子力発電所が一定のレベルの地震に耐えうるように設計され、建設される必要があります。
これはいわゆる「設計用限界地震」のレベルに至らなければ、ビル、設備や機械が破損しないことを意味します。
しかし、 問題は3月11日の地震の規模を超える多くの地震が、日本の現代史においてすでに起こっていたということです。

原子力発電所自体の強度とは別に、原子炉が自然災害に弱いと指摘されていた部分があります。
それは、今日世界的で稼働中である軽水炉の大部分(442炉のうちの361炉)の最大の弱点の1つでもありますが、重要な制御部分が電力に頼っているという点です。

電力供給が停止すれば、冷却装置と原子炉制御系が停止してしまいます。
今回の福島のケースも、原子力発電所の浸水によって電力供給の停止が起きたことが主原因です。

しかし、このケースと似た事故もすでに起こっていました(最近もっとも深刻であった例として、2006年スウェーデンのフォルスマルク原子力発電所で起こった事故が挙げられます)。

Q: 福島原発の事故による健康への影響で考えられることは?

健康への影響は、最終的にどれくらいの放射能が放出されるかによって変わりますが、現状では分析のために必要な数値が不足していますので、最終的な判断を下すのは困難です。

まず大量の放射能を浴びた場合ですが、放射能疾患を引き起こし、細胞や臓器に障害がおきて生命を脅かす危険もあります。
特に原発で作業に当たっている方は、状況によっては相当量の放射能を浴びる事が考えられます。

次に低レベルの放射線を浴びた場合ですが、長期的に見てガンや、遺伝性疾患の可能性が高くなります。
また、政府から避難指示が出ている半径30km以内よりも外の範囲でも、放射能値の増加が観測されています。
この数値はすぐに健康被害に至るものではありませんが、長期的に見て発がんの確立が高くなる恐れはあります。

Q: 影響は原発付近だけにとどまるのでしょうか、それとももっと広範囲に及びますか?

今回の原発事故による様々な被害の可能性が考えられます。

健康被害
天候や放出された放射性物質の量にもよりますが、場合によっては被害が広範囲に及ぶ事も考えられます。
放射性物質の放出によって発生した放射性雲は、天候によってはアメリカにまで到達する可能性があります。
しかし、このように遠距離の場合は、放射能レベルが低下していますので、健康被害などの心配はありません。

天候にもよりますが、ほとんどの放射性物質は福島原発の原子炉付近にとどまります。
しかし、この地域はセシウム137などの放射性物質の影響で長期間汚染されてしまうと考えられます。
そして、汚染レベルが一定以上になると、居住不可能になったり、汚染除去が必要になったりします。
また、蓄積された放射性物質が、土壌や農作物に影響し、食品に悪影響が出て、間接的に人体や動物の健康にすることも考えられます。

また、空気中に放出された放射能だけでなく、原子炉や使用済み核燃料プールの冷却に使われた放水により、地下水の汚染も起こります。
調査によれば、微量ながら福島で水道水から放射性物質であるセシウム137がすでに検出されているとの事です。

Q: 放射能は、どのように拡散するのでしょう?

放射性物質を放出してしまうような爆発が起こった場合は、状況により噴煙が上空100mにまで吹き上げられることが考えられますが、1986年に起こったチェルノブイリ原発の事故ほどまで大規模になることはないでしょう。
ちなみにチェルノブイリの事故の場合では、長期間にわたって、高濃度の汚染が数100キロの範囲にまで及んでいます。

上空低い位置への放射性物質放出の場合は、拡散が限られるため、地上に近い大気や土壌が高濃度で汚染され、風に乗って人口が密集した地域などにこの大気が流れると、結果的にはチェルノブイリより悪い結果を招くことが考えられます*。
しかし大気が海側へ流れる場合には、このような事態を避けられます。

*福島第一原発と違い、チェルノブイリでは制御棒が燃えた勢いで、放射性物質が上空高くに放出されたました。
一方、今回の事故についてフランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN:Institut de Radioprotection et de Surete Nucleaire)が発表したシミュレーションでは、高濃度の汚染が、福島第一原発から半径数10キロ圏内に集中していることがわかります。
シミュレーションは、1歳の幼児を例に屋外で吸引するするヨウ素の量を示しており、(吸引量は年齢によって変わり、一般に幼児や子供は高いとされている)5段階に色分けされています。
http://www.irsn.fr/EN/news/Documents/irsn-simulation-dispersion-jp.pdf
文部科学省の調査結果では、福島県、宮城県、茨城県がもっとも影響を受けています。

Q: ヨウ素131を含んだ雲とは?

最悪のケースとして、もし炉心溶融が起こり、その際に格納容器がうまく働かないと、放射性ヨウ素雲が発生します。
この雲は、原発から数10キロに及び放射能の影響を及ぼす可能性があります。

福島原発と似た原子炉を持つドイツのビブリス原発を元にグリーンピースが委託して行ったシミュレーション調査*では、最悪のケースの場合、最初の5時間で25km圏内の人々に吸引すると致命的な放射能の影響があります。
しかし屋内にいれば、その半分から5分の1程度を防ぐことができます。

しかし、屋内でも放射線量は6シーベルト(6,000ミリシーベルト)に達する可能性がります。(年間許容量の基準は1ミリシーベルト)
6,000ミリシーベルトという値は、約70%の人が、急性放射線症で死亡されるとされています。
降雪や降雨の場合は、大部分のヨウ素は地上に落ちるので、吸引によって人々に及ぼす影響は低くなります。

*調査資料
2008年8月 Oda Becker
http://www.greenpeace.de/fileadmin/gpd/user_upload/themen/atomkraft/Biblis_1859828.pdf (ドイツ語)

Q: どれくらい深刻な被害をもたらすと考えられますか?

東京電力が公表しているデータによれば、福島の原子炉付近では、高い時で数100ミリシーベルト/時の放射線が観測されています。
そして、原発から数100キロメートル離れた地域でも、すでに放射性物質が検出されています。(http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303723.htm

放射性物質が原因の健康被害には様々な要因が関係します。
福島原発からの放射性物質の漏れがどの程度かはっきりしていませんが、フランスの放射線防護原子力安全研究所(IRSN: Institut de Radioprotection et de Surete Nucleaire)や、オーストリアの気象地球学中央研究所(ZAMG: Zentral Anstalt fur Meteorologie und Geodynamik)の専門家によれば、2011年3月22日現在までに漏れていると考えられる放射性物質は、チェルノブイリ原発事故のときの10~20%にあたるとされています。 http://www.irsn.fr/FR/Actualites_presse/Actualites/Pages/20110322_evaluation-radioactivite-rejets-fukushima-terme-source.aspx

またこの放射能汚染は、セシウム-137などの半減期が30年もある同位元素(原子力情報資料室資料 http://www.cnic.jp/modules/radioactivity/index.php/13.html)を含んでいます。
セシウム‐137は放射能が完全になくなるまで300年かかります。

2010年3月23日には、東京都が水道局の金町浄水場から、乳児の暫定基準値を超える放射性物質が測定されたと発表し、文部科学省は、福島第一原発から約40キロ離れた福島県飯舘村の土壌から、高濃度のセシウム137が検出されたと発表しました。
また、同日に原子力安全・保安院が行った記者会見では、福島県内で高濃度に汚染された野菜が見つかったことに関連して、セシウムは半減期が長く、場合によっては土壌を入れ替える作業も必要になるかもしれないと発言しました。
そして もし高濃度の汚染が広い範囲に及んだ場合は、土壌の除染が難しく、農業に適さない状態となるかもしれない、としています。

原発周辺の住民や、汚染が広がりつつある地域の住民を健康被害から守るため、また避難している方々が安全に元の場所で暮らせるかを判断するためには、長期にわたる詳細な調査が必要です。

Q: 海側に風が吹き続ければ、心配はありませんか?

今のところ、風向きが功を奏して海側に放射性物質を流しています。
唯一の例外は3/15(火)で、東京方面に風向きが向いていました。(3/21現在の観測データ)
その結果、微量ですが、東京でも放射線レベルが上がったことが観測されています。
ですので風向きによっては、東京が放射能の影響を受けることも考えられます。