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私たちは歴史から何を学んだのでしょう。安保法制がなし崩し的に成立されたことは、日本の平和主義・民主主義がいかに脆弱なものか見せつけました。今、憲法が掲げる原則が揺らいでいます。

ーー8月15日

この日を迎えると、いつも謙虚な気持ちになります。多くの尊い命を奪った残酷な戦争。核爆弾まで持つようになった人類の底知れない破壊能力。そして何よりそのような戦争を起こしてしまった人間の残酷さ。でも、その経験があったからこそ、過ちは繰り返さないという固い決意が生まれ、今の私たちがある。日本にとって、敗戦は今の社会を形作った原点です。

Fukushima Fifth Anniversary in Tokyo

 

戦争が終わっても

過去を清算しきれていないと新しい未来は作れません。私は途上国で開発援助の仕事に長年携わってきました。戦争の歴史を持つ途上国で貧困や格差の問題に取り組んでいると、戦争をつくった権力構造が、表面上は形を変えながらも『戦後』の社会に温存され、新しい貧困や社会問題を生み出しているのを見てきました。

 

クメール・ルージュの残酷な歴史を持つカンボジアに私が赴任したのは2000年。今の一党独裁体制の契機となった97年のクーデターから3年しか経ておらず、一般の人々は、まだ平和になった世の中をどこまで信用して良いか分からず、ビクビクしているような印象を受けました。 

 

カンボジア和平の一番の過ちは、武装解除の前に選挙を行った点といわれています。UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)による『民主的』な選挙が行われた93年当時は、クメール・ルージュは和平プロセスに参加しておらず、まだ戦闘状態にあり、内戦当事者である各派が武装したまま『政党』の看板を掲げました。クメール・ルージュが投降したのは96年になってから。その頃勢力が拮抗していたフンシンペック党とカンボジア人民党の両派は、98年の選挙前に自派の勢力拡大を狙って、クメール・ルージュの勢力を積極的に取り込もうとしました。両派の確執の末、カンボジア人民党がクーデターで権力を掌握できたのは、軍事力があったからです。

 

戦後の和平プロセスで、内戦を起こした権力構造を変えることができなかったカンボジア。国政の行方を左右したのは、選挙で示された民意ではなく軍事力を背景にした権力抗争でした。正義を求めるカンボジア人の熱意に応えられえず、また国連の介入にもかかわらず、クメール・ルージュ裁判がジェノサイドの罪を裁ききれなかったのは、権力構造の中に元クメール・ルージュを残してしまったからです。

 

憲法9条の行方

Peace Doves Hiroshima Atomic Bombing 60th Anniversary

 

過去の過ちにまっすぐ向き合い、戦争を起こした根本的な原因を取り除かないと、新しい未来は切り開けません。戦後、日本社会の基盤となったのは、戦争を起こした軍国主義の体制を根本から変えた平和、民主主義、人権を謳った憲法です。一方で、過去としっかり向き合ってこなかったことが、今でも日本と東アジアの国々の間に影を落とし、日本の平和主義に関する信頼は得られていません。歴史を見つめ直し日本の平和主義に対する信頼を得る努力をせずに、2015年に憲法を拡大解釈して安保法制が強硬に成立されました。本来、私たちにとって平和主義とは何を意味し、国際平和に貢献するとはどういうことか、しっかり議論するべきでした。

 

平和は、あるものではなくつくっていくもの

私たちは歴史から何を学んだのでしょう。安保法制がなし崩し的に成立されたことは、日本の平和主義・民主主義がいかに脆弱なものか見せつけました。今、憲法が掲げる原則が揺らいでいます。言論・表現の自由や知る権利を制限する特定秘密保護法制定や放送法の改定、そして『共謀罪』の新設。地元の民意を無視した沖縄での基地建設や原発再稼働。民主主義の原則にもとる強引な国会運営や閣議決定、強行採決。スキャンダルによって表面化してきた長期政権下での権力の私物化。

 

民主主義が後退していく中で憲法を変える議論が進んでいくことには大きな不安を覚えます。憲法の掲げる原則は、今も私たちの心に訴えかけてきます。変えるべきは、憲法の条文ではなく、憲法を活かしきれていない今の体制ではないでしょうか。

 

平和は、あるものではなく、つくっていくもの、と強く感じます。今こそ、私たち一人一人が、真剣に過去の戦争の歴史に向き合い、憲法を自分ごととして考え、積極的に憲法に関する議論に関わっていくことが求められています。

No War Demonstration in Japan

  

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