シリーズ 「NGOの役割を再考する」

第6回 消費税Up、「消費」より「省費」型ビジネスモデルをブームに

 

第185臨時国会が昨日召集され、安倍首相が所信表明演説を行った。成長の原動力として企業を優遇する一方で、消費税は10月1日に発表した通りに8%に上げるという。

企業を優遇することで景気が回復し、それにともなって「消費」も拡大するという将来像を描いているのだが、本当にそうなるのだろうか。

むしろ消費税が上がることによって、「大量消費」型の社会から、ムダな「消費」を省きながら豊かな生活を目指すという「省費」型社会への変化が加速するのではないかと思う。それにともなって、「省費」型社会に合わせた新しいビジネスモデルの構築こそが一般的になっていくと予測する。

(「省費」については、「『消費』から『省費』へ、アベノミクスは時代遅れ」を参照)

 

そもそも「消費」が増え続けるのは非現実的 

世界自然保護基金(WWF)の「生きている地球レポート2012」によれば、人類の経済・消費活動を支えるためには地球が1.5個必要だという。つまり、人類は地球の資源という貯金を切り崩し続けながら、現状の消費レベルを維持している状態だ。

資源が有限である以上、資源の「消費」を柱とした現在の経済システムにも限界がある。また、人類全体の「消費」が増え続けると予測するのは、地球資源の有限性という現実を直視していないとしか思えない。

 

 

 

「省費」社会のマーケティングは? 

それでは、「消費」から「省費」型社会への移行に企業はどう対応すべきなのか。

私は、以下の図のような視点の変化が必要だと思う。

当初、企業はコストや物流という自社の都合を優先して、商品開発をしただろう。その後、競争が激化するにつれて、消費者のニーズ(必要性)に合わせるマーケティングを中心とした。現在は、消費者の物質的なウォンツ(欲求)に訴えて「消費」を創造している状態と言える。消費者のわがままや便利さという「あったらいいな」の感覚を追求しながら、消費を促すマーケティングだ。

このような消費者の物質的なウォンツが消費税Upにともなって急にしぼみ始めれば、消費を拡大せずに豊かな生活を維持しようとする「省費」が進む。「省費」時代においては物質的な豊かさではなく、人生の幸福度を高めることに重点が移る。そこで、人間同士のつながりやコミュニティーの構築、自然環境保護などの「社会」のニーズを満たすビジネスモデルが求められる。

 

介護施設に対する社会のニーズは、高級リゾート型か地域密着型か 

介護の分野を例にして考えてみる。

「大量消費」型の生活を維持したいという「消費者」の物質的なウォンツに従う場合、憧れのリゾートにある高級介護施設を中心としたビジネスモデルを開発するだろう。実際に、そのような高級リゾート施設型の介護施設の宣伝を良く目にする時期もあった。

しかし、このような施設では、介護が必要な方々が地域社会から切り離されてしまう。また介護における雇用が、地域社会に残らなくなる。むしろ、小規模の介護施設でも家族や友人から近く、介護者も介護が必要な方々も地域社会の一員として生活できることを実現するビジネスモデルが必要だ。これが地域密着型の介護施設が人気になっている理由だろう。「社会」のニーズを満たそうとするビジネスモデルの一例だ。

女性やマイノリティーの社会的地位が低い。花粉症の被害が広がっている。自殺が増加している。過疎化が深刻だ。このように社会問題は身の回りにたくさんある。「消費」を促すだけの経済システムではなく、このような問題を解決することができる新しい経済システムにこそ「社会」のニーズがある。

 

社会問題を解決するためのビジネスモデルとNGOの役割 

社会問題の解決と、ビジネスは関係ないというのは時代遅れの発想だ。消費者の物質的なニーズやウォンツだけを見続けていたら、「消費」の先細りとともに、ビジネスチャンスも消えていく。

これからは消費者のニーズやウォンツから卒業し、社会のニーズを読み取りビジネス化する力が求められていくと思う。これが社会企業家が注目されている要因でもあるだろう。

大手企業も「地域社会」「コミュニティー」「レンタル」などの言葉の重要性を意識し始め、ビジネスをより柔軟にカスタマイズしはじめていると感じる。スマートシティーやカーシェアリングなども「社会」のニーズを意識し始めているからだろう。

ここで、NGOや市民団体の役割も重要だ。企業も社会課題のアンテナを張り巡らせるためにNGOや市民団体との情報交換が必要となってくるからだ。地域社会のニーズをしっかり把握している中小企業にも大きなチャンスがある。

企業とNGOや市民団体が、ある社会問題を解決するという明確な目標のもとに協働し、きめ細かな多様性のあるビジネスモデルを創造できるかが「省費」時代の成功要因になるだろう。

 

スーパーが絶滅危惧種のウナギ販売を中止

つい先日、西友、ユニー、ダイエーが絶滅危惧種のヨーロッパウナギの販売を中止した。

これは、グリーンピースが消費者とともに、スーパーに「未来に魚たちを残すためにも、持続可能な魚介類を販売してほしい」という声を届けた結果だ。

「持続可能な魚介類」という「社会」のニーズを、企業が聞きやすい「消費者の声」として届けて成功した事例だろう。

この進展をきっかけに、スーパー各社は「持続可能な魚介類を販売する」というビジネスモデルをグリーンピースなどのNGOとともに積極的に構築してもらいたい。

このような動きこそが「省費」型社会の企業の役割を示す具体的かつ良い事例になる。

社会のニーズに応えることは、持続可能なビジネスモデルの構築でもあるのだ。

(ヨーロッパウナギに関するスーパー各社の決定については、以下をクリック)

 

「NGOの役割を再考する」は、日本のNGO(非政府組織)やNPO(非営利団体)などの市民セクター、またグリーンピースの役割について事務局長の佐藤潤一の意見をシリーズ化しているものです。

 第1回  「会社人から社会人」へのシフトを  (2013年4月3日)

 第2回 アベノミクスが破壊するもの (2013年4月22日)

 第3回 “成長”が目的化する社会の危険性 (2013年5月24日)

 第4回 「ねじれ」が嫌な方へ、「創造的対立」のすすめ (2013年7月3日) 

 第5回  「消費」から「省費」へ、アベノミクスは時代遅れ (2013年7月30日)

 第6回 消費税Up、「消費」より「省費」型ビジネスモデルをブームに (2013年10月16日)