海洋生態系問題担当の花岡です。

5月3日、東京電力は福島第一原子力発電所近郊(福島県南相馬市‐原発から約15キロと、福島県樽葉町‐原発から約20キロ)の海底の土から、通常の100~1000倍の濃度の放射性物質を検出したと発表しました。

東京電力は「高い濃度だ。環境への影響は、魚介類を採取して分析、評価したい」とコメント。調査や発表が遅いだけでなく、この発言も相変わらず緊迫感に著しく欠けています。海面の流れに乗ることなく海の底に沈んでいる核種は、半減期が約30年と長いセシウム137や、より深刻な被害をもたらす重金属系の核種である可能性が高いです。

更に、先の記者会見でも指摘しましたが、日本政府が定める水産物の放射能調査規定は、対象生物(魚)の頭部や内臓を取り除いて可食部(身)だけを調査するという、とても中途半端で不完全なもの(ただし高数値が検出されているコウナゴは、個体が小さいためか、頭部や内臓を取り除かないまま検査されています。ちなみにコウナゴは漁をする際は海面近くで獲れますが、海底の土に潜る性質のある魚です)。これまで基準を上回る数値が検出されていないから安心とされていたヒラメやカレイ、アイナメといったこの海域に生息する底生生物の内臓には、何が入っているでしょうか?またこの海水を吸収する海藻や貝類への影響はどうなのでしょうか?

私は震災後、何度も宮城、福島、茨城の漁業関係者を訪ねましたが、彼らのほとんどが、漁業を復興させ自身と家族の今後の生活を立て直すために、更なる海洋調査の強化を県や日本政府や東京電力に求め続けてきました。漁師の方々は、調査をすれば高濃度の汚染が検出されることを危惧しながらも、このまま漠然とした不安と風評被害に悩まされる状態が続くことに耐えられない日々を過ごしてきています。

漁業復興に力を入れる茨城県の漁師は、底生生物から基準値を上回る放射能度が検出されないことを理由に、海面近くの魚を獲る漁法をあきらめ、底引き網の操業を始めたばかりです。今回の海底の土の調査結果発表を受けて「思った通りだ」「海に生きる人間をなんだと思っているんだ」と嘆き怒る漁師の声が、聞こえてきそうです。

東京電力がこの海底の土を採取したのは4月29日。グリーンピースがオランダ政府を通じ、調査船「虹の戦士号」を用いた福島第一原子力発電所近郊海域での底質(海底の土)の調査を柱の一つとする海洋調査許可を申請した9日後、「虹の戦士号」の領海内への入船が拒否されたわずか2日後のことです。

ちなみに25日に文部科学省が発表したモニタリング強化案も、私たちが日本政府に提出した海洋調査規格と酷似しているものです(相変わらず全く不十分ですが)。私たちが調査計画を提出しなければ、東京電力や日本政府は海洋調査の強化を行ったでしょうか?

この地域の漁師、加工業者から流通業者、そして全国の水産物消費者が先に一歩を踏み出すためにいま切望していることは、放射能汚染水の流出による海洋生態系への影響の正確な把握です。そのためには、日本政府や東京電力が更なる調査の強化を行うと同時に、第三者機関による調査の実施が不可欠です。

ぜひ、みなさんもグリーンピースの虹の戦士号による沿岸域での調査許可をもとめて、ワンクリックアクションにご協力ください。