こんにちは、事務局長の佐藤です。

先週末掲載したブログ「調査捕鯨船団、早期帰港の本当の理由」には、大きな反響がありました。そしてこのブログを掲載した当日の2月18日、財団法人日本鯨類研究所(鯨研)が直近の平成21年度の事業報告書を新たに掲載しましたので、その財務諸表についても分析を記します。

■調査捕鯨によるクジラ肉販売の「副産物収益」が18.1%も減少

鯨研が2011年2月18日に同研究所ホームページ上で公表した平成21年度事業報告書(平成21年10月1日から平成22年9月30日)(注1)によると、鯨研の収益の柱であり、調査捕鯨で捕獲したクジラ肉を販売して得る「副産物収益」は前期比18.1%減の54億7000万円となりました。クジラ捕獲頭数は減少傾向にあるにもかかわらず、クジラ肉消費への需要そのものが低迷し続けて在庫がだぶついています。

■経常収益は32.9%減、経費を削減してかろうじて黒字

国などからの補助金収入は同10%減の7億9400万円となり、研究所事業の通常の収益を示す経常収益は同32.9%減の68億1800万円でした。この事業年度の損益を示す当期一般正味財産増減額(通常企業の当期損益に相当)は45万円の黒字です。

前々期は3億2800万円、前期は1億6700万円と赤字決算が続いていました。しかし、前年度までの人件費の削減効果が現れたほか、調査捕鯨への理解促進など国際活動事業の削減で、この期はかろうじて黒字決算を確保したようです。

■クジラ肉の在庫が増加、消費低迷とデフレの影響と鯨研は説明

「捕獲調査物副産物の販売状況」、つまり調査捕鯨で得たクジラ肉の販売状況を見ると、この期の南極海での捕鯨頭数は当初、クロミンククジラ850頭プラスマイナス10%、ナガスクジラ50頭、そしてザトウクジラ50頭を予定していました。だが、IWCの交渉プロセスの影響でザトウクジラを捕獲対象から除外したことなどで、クジラ肉販売などを目的とした調査捕鯨頭数はクロミンククジラ506頭とナガスクジラ1頭となっていました。このうち正規ルートで販売したクジラ肉はクロミンククジラ2024.8トン、ナガスクジラ20.8トンです。

社団法人漁業情報サービスセンターが公表する直近の水産物流通統計(注2)によると、2010年12月末のクジラ肉在庫は5093トンと同月期として初めて5000トンを超過しています。近年のクジラ肉在庫量は毎年平均約1000トン、ミンククジラ頭数に換算すると約1250頭分の増加傾向です。過去2年間の南極海でのクジラ肉捕獲量は約4735トンで、現在5000トンを超過するクジラ肉在庫量は2シーズン以上の捕獲量という計算になります。

この在庫量増加について鯨研は、リーマンショック以降の景気低迷とデフレ圧力による価格低下が原因としています。またこの対策として、クジラ肉の販売促進のため、早期割引販売やナガスクジラを対象とした入札販売を導入したということです。

■「商業捕鯨の再開」、すでに非現実的な状況

このようなクジラ肉販売不振に対して、調査捕鯨船の運航を担当している共同船舶株式会社の山村和夫社長が「前期は(クジラ肉の)年間販売額が30%落ち込んだため、運営上、変革を余儀なくされた」(みなと新聞 2011年1月24日)と発言するなど、現在も調査捕鯨事業の運営は厳しい状況です。

調査捕鯨事業は「商業捕鯨の再開」を目指していることになっています。しかし、日本人のクジラ肉離れが顕著である現在、「商業捕鯨」の再開は非現実的となり、「調査捕鯨」の意味がそもそもなくなっていることについて、私たち日本人が冷静に考え直してみる良い機会だと思います。


(注1)日本鯨類研究所 平成21年度事業報告書
(注2)水産物流通統計