こんにちは。海洋生態系担当の花岡和佳男です。第9回WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)年次会合に参加するために、フィリピン・マニラに来ています。

日本は世界の約3分の1のマグロが各地から運ばれる、世界最大の消費国。大量のマグロが量販店や飲食店チェーンに溢れている日本での日常では、海から魚が消えていくと言われてもピンときませんよね。私は先日、漁業者のお話を伺いに、フィリピンの最大のマグロ水揚げ漁港ジェネラル・サントスを訪れてきましたが、そこで見たものは、乱獲による負の連鎖。海から魚がいなくなることを強く感じてきました。

遠のく漁場:

近海にキハダマグロの豊富な漁場があったジェネラル・サントスは、「マグロの首都」と呼ばれるフィリピン最大のマグロ漁港。朝5時半頃に私が漁港を訪れると、一本釣り(手釣り)で獲られたキハダマグロが一匹ずつ、船上から市場へと次々に作業員に担がれて運ばれていました。港も市場も活気にあふれていましたが、かつてに比べて今では、水揚げされるキハダマグロはサイズも小さくなり量も減ってきたと、漁業者は口をそろえます。確かに、大きな魚が人の肩に乗せられ次々と運ばれていく風景は圧巻ですが、どの魚も従業員が肩に乗せて運べるサイズ。キハダマグロは成長すると100キロにも200キロにもなる魚です。

サイズや量だけでなく、漁場にも大きな変化があるようです。かつては近海で漁をしていた漁船は、乱獲がたたり近海のキハダマグロが減ったため、いまは遠くインドネシアやパプア・ニューギニア近辺まで行って漁をしているとのこと。船の大型化への投資や燃費がかさむ一方で漁獲高は上がらず、乱獲により苦しんでいるのは漁業者さん達でした。ちなみにこのキハダマグロ、市場でお会いした日本人の業者の方は、大手回転寿司店チェーンなどに卸していると仰っていました。

小さすぎるカツオやマグロ:

一本釣り(手釣り)漁船よりも幾まわりも大きな運搬船がこの漁港に運んできたのは、まき網で獲られた小さなカツオ。日本のスーパーで売られているアジ程度のサイズのカツオが入ったプラスティックの箱やかごで、市場は溢れていました。一度も海で産卵したことのない、言わば子ガツオばかりが、日々大量に水揚げされているのです。

この子ガツオの箱やかご、よく見ると乱獲が深刻視されているメバチマグロやキハダマグロなどの幼魚もたくさん混ざっていました。卸売会社の経営者は「体に横線があるのがカツオ、縦線があるのがマグロ類」と教えてくださり、その混獲率の多さにため息をついていました。こんな小さな魚を対象にこんな乱暴な漁業があちこちで行われていたら、残念ながらマグロもカツオも、海からも食卓からも姿を消していくのも無理はありません。

 

FAD+まき網=大問題:

子ガツオや子マグロなどは大海を回遊する中で、海中を泳ぐジンベエサメやマンボウなどの大型魚や、海面に浮かぶ海藻や流木などの周りに群れる習性があります。この習性を利用して魚を一か所に集めるのが、FADと呼ばれる人工集魚装置。効率的に魚を獲ろうと、洋上には何十万個ものFADが浮かべられていること、知っていましたか?そしてこの漁具に集まった魚の群れを、大人マグロも子マグロも、サメもカジキもウミガメも何でも、巨大な網で囲んで一網打尽にしてしまうのが、まき網という漁法です。世界で獲られるマグロ類の60%以上がまき網により獲られており、その多くがFADを用いて行われています。

またジンベエザメを生きた集魚装置として利用するまき網漁船もあります。ヘリコプターでジンベエザメを見つけると漁船がそのポイントに向かい、ジンベエザメについた全ての生き物やジンベエザメ自体を巨大なまき網で巻いてしまいます。もちろんジンベエザメには大きな負担がかかりますし、その混獲率が高いのも問題です。

海洋生態系や漁業を守り、次の世代がマグロのお寿司やお刺身を楽しめるためには、乱獲による個体数の激減が深刻視されている中西部太平洋におけるメバチマグロの漁獲量を半減させる必要があります。グリーンピースはその手段として、WCPFCが管轄する全ての海域におけるFADを用いたまき網漁の禁止、ジンベエザメを集魚装置とするまき網漁の禁止、そして管理が行き届かず違法漁業が後を絶たない4つの公海ポケットを海洋保護区にすることなどを求めています。