海洋生態系問題担当の花岡です。

福島第一原発の事故から約40日が経ちました。報道にもあるように、これまでにこの原発から大量の放射性物質が、大気だけでなく海洋にも流出されています。三陸の漁業は日本全体の水揚げの約1/4をまかなう一大産業。このたびの惨劇は、地域の暮らしや漁業に壊滅的打撃を与え、また日本および世界の魚食にも大きな影を落としています。

グリーンピースは独立した第三者の立場から、海中における放射性物質の拡散や底質調査を行い、被害を受けた方々が正当な補償を受けられるように、情報を公開する必要があると考えます。現在、海洋調査に必要な機材を乗せた調査船「虹の戦士号(オランダ船籍)」が福島原発沖へ向けて航行中です。4月27日の調査開始を目指し、4月19日には日本政府にこの調査に協力してもらえるよう「虹の戦士号」による海洋放射能汚染調査のお知らせと協力要請」を送付しました。

グリーンピースは、被害を受けた住民の方々や消費者の安全確保を最優先と考え活動しています。現在までに2度にわたり、福島県に放射線調査チームを派遣して放射能汚染の実態をモニタリング調査し、日本政府に科学的データに基づいた避難指示範囲の拡大などを提案してきました。

このたびの海洋調査についても、先日南相馬市の桜井市長と面会し、その必要性を再認識し実施することを決定したものです。面会をした同市長は「市民と地域の生活と漁業の復興のめどをたたせるためにも、一刻も早い実態の把握が欠かせない。政府にも調査を要請しているが、第三者機関であるグリーンピースにもぜひ調査を実施してほしい」とおっしゃっていました。

放射性物質のうち海水に溶け込んだものは海流で広く拡散し、また微粒子の形で海中にとどまる物質は海底に沈み、長期間汚染が続く可能性があります。中でもセシウム137は約30年にわたって海中にとどまるとして、フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)も「沈殿が疑われる日本の海岸地域では、長期にわたる調査が必要だ」と指摘しています。実際に福島沖で獲れた魚から、国の暫定基準値を上回る放射性セシウムが検出されています。

南相馬市では50隻以上あった漁船がいまや7隻しか残っておらず、養殖施設や定置網などもすべて流されたとのことです。家を失った70歳代の漁師は、「地震と津波に追い打ちをかけるように、今度は放射能被害。放射性物質がいつまでも海の底にたまるのではないか、食物連鎖を経て人間の口にも入るのではないか」と不安を口にし、「私たち老人はいいが、これから漁業を引き継いでいく若者や、子供を産もうとする親のことを考えると、たまらない。本当に、えらいことになってしまった」と、目頭を押さえていたのが印象的でした(写真:「漁業施設があった」と漁師の方にご案内いただいた場所。跡形もありませんでした)。

現在、海水においては、原発施設周辺では東京電力、沖合30㎞では文部科学省が、それぞれサンプリング調査を行っています。また水産物においては、各漁協が水産庁などと協力をして検査を行っています。ただこれら単独の調査は、生態系アプローチの観点が抜け落ちており、放射能汚染の全体像を掴むにも、地域の漁業従事者や全国の水産物消費者が納得する十分な情報を得るにも、依然として至っていません。特に、対象海域の底質状態の情報公開が皆無なことや、ヨウ素とセシウム以外の核種における調査結果が発表されていないことは問題です。

グリーンピース 「虹の戦士号」による海洋調査概要

目的

福島第一原子力発電所から放出されている放射性物質の海洋生態系への影響調査を目的とした海水、底質、海棲生物のサンプリングをし、放射能濃度の測定と核種分析を行います。また、第三者の立場で、水産業が放射能汚染により受ける影響を把握し、被害を受けた方々が正当な補償を受けられるように情報を公開します。

作業日程

第1部: 平成23年4月27日~平成23年5月15日

  • 使用船舶:「虹の戦士号」(オランダ船籍)、他ゴムボート数隻(オランダ船籍)、チャーター船(日本船籍)

第2部: 平成23年4月27日~平成23年5月31日

  • 使用船舶:チャーター船(日本船籍)

調査場所

  • 福島第一原子力発電所周辺海域を中心に、宮城県石巻港から千葉県銚子港までの沿岸から沖60kmまでの範囲。

作業方法

  • 海水:作業船より海水サンプラーを用いて調査対象海域内で海水をサンプリングします。また海岸からもサンプリングを行います。サンプルは、ベクレルモニターを用いて放射線量を計測し、ガンマ線スペクトルメーターを用いて核種分析を行います。また調査期間中、自律系潜水型ガンマ線スペクトロメーターを定点設置し、放射性核種の濃度をモニターします。
  • 底質:作業船よりコアサンプラーを用いて調査対象海域内で底質をサンプリングします。また海岸からもサンプリングを行います。サンプルは、ベクレルモニターを用いて放射線量を計測し、ガンマスペクトルメーターを用いて核種分析を行います。
  • 海棲生物:作業船より調査対象海域内で海棲生物をサンプリングします。また海岸からもサンプリングを行います。サンプルは、ベクレルモニターを用いて放射線量を計測し、ガンマスペクトルメーターを用いて核種分析を行います。
  • その他