こんにちは。海洋生態系を担当しています、花岡和佳男です。

 ワシントン条約締約国会議

3月3日~14日、タイのバンコクにて「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(通称「ワシントン条約」)の第16回締約国会議が開かれています。この条約は、国際貿易によって生存を脅かされている又は絶滅してしまう恐れのある野生動植物を保護することを目的とした条約で、日本をはじめ世界の177カ国が加盟しています。

2010年に開かれた前回の会議では、世界の総漁獲量の約80%を日本が消費する大西洋クロマグロを貿易規制の対象とするかが話題となり、日本でも広く報道されました。今回の会議では、日本が多く消費するクロマグロやウナギについての議論は見送られたものの、フカヒレ目当ての乱獲が原因で個体数が激減しているアカシュモクザメ、ヨゴレ、ニシネズミザメなどのサメ種の貿易規制について、注目が集まっています。

 海や食卓から魚を奪うのは「貿易規制」ではなく「過剰漁業」や「違法漁業」

ワシントン条約の会議の結果について、日本ではしばしば「貿易規制の対象とならなかったのでまだ食べられる」と言った、貿易規制を敵とする内容の報道がなされてきました。しかしワシントン条約は、生存を脅かされている又は絶滅してしまう恐れのある野生動植物を保護することを目的としたもので、海においていえば、種を絶滅危惧にまで追いやる「過剰漁業」や「違法漁業」に歯止めをかける効果があります。このまま過剰や違法な漁業が続くようでは、サメだけでなく、マグロもウナギも他の生物も、貿易規制のリストに乗るのは時間の問題とも言えるでしょう。

生物を絶滅危惧に追いやる「過剰漁業」や「違法漁業」って? 

過剰漁業は世界中の海で後を絶ちません。FAO(国際連合食糧農業機関)は、世界の海洋漁業資源の約32%は乱獲状態、約53%は持続的生産を超えた開発が進んでいるとしており、合わせて85%がピンチな状態です

違法漁業も世界中で大規模に行われています。インド洋でで獲られる魚の約43%、中西部太平洋で獲られる魚の最大で34%アフリカで獲られる魚の4匹に1匹が、違法に獲られているとされています。世界で違法にに水揚げされている魚は、年間1兆円~2.4兆円相当にものぼります

このうちどれだけが、私たちの住む日本の日々の食卓に流れてきているのでしょうか。日本は、一人当たりの魚介類消費量が世界平均の約4倍にもなる魚介類消費大国。この国の家庭で消費される魚介類の約70%は、スーパーマーケットで販売されています。年中いつも同じような種類の魚を同じ値段で大量に調達したいスーパーの需要に応えようと、海で魚を獲る船は次々と漁獲能力を上げ、一つの海域で魚を獲り尽くすと次の海域に移動してまた同じ行為を繰り返す…という焼畑的な漁業を世界中の海で行なっているのです。

 貿易規制や漁業管理だけでは間に合わない!

貿易規制や漁業管理の枠組みができるのを待つだけでは、過剰や違法に行われる漁業のペースに追い付くことができず、未来の子どもたちに魚を残せそうもありません。私はこれまで、政府間の利害が噛みあわずいつまでも国際合意に至らない不毛な国際会議に何度も参加してきました。「政策」だけではなく「市場」そのものをダイレクトにシフトさせることしか、未来の子どもたちに魚を残す道は残されていないと感じます。

日本のスーパーマーケット大手各社は、グリーンピースからの質問に対して、「持続可能性を担保するに十分な調達方針は持っていない」とする内容の回答をしています。自らが販売する商品の持続可能性について責任を持てないまま、また消費者が選択購入できるだけの商品情報の公開も行わないまま、大量の魚を販売し続けています。未来の子どもたちの食卓に並ぶべき魚が平然と商品棚に並ぶ状態、このままでいいのでしょうか。

私たち消費者にできること

スーパーは、激しい競争の中にあり、消費者が作り出すニーズを敏感に察知し、それに適した商品やサービスを提供します。なので、スーパーに対して私たち消費者が、「違法に獲られていないことを証明して売ってほしい」「持続可能な魚だけを売ってほしい」「自分で選んで買い物ができるように、十分な商品情報を公開してほしい」などと伝えましょう。ぜひ、スーパーに消費者の声を届けるオンライン署名「一週間、魚食べずに過ごせる?」にご参加ください。