海洋生態系担当の吉野良子です。COP21の影で、太平洋クロマグロを含むマグロ類の重要な国際会議が開催されていたこと、ご存じですか?

2015年12月3日から8日まで、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)の第12回年次会合がインドネシアのバリで米国、韓国、台湾など26カ国・地域の参加するなか開催されました。

 

何が決まった?

結局のところ、何も具体的に決定できませんでした。手詰まりで終了、です。(※1)

これほどまでに危機的な状況に直面してなお、マグロ類の保全に対して実効的な対策を講じられなかったのは、一体全体、どういうことなのか、と頭を捻らざるを得ません。

日本は、太平洋クロマグロの資源枯渇を防ぐための「緊急ルール」を2016年までに策定することで正式合意した、とその成果を主張しています。この「緊急ルール」、日本が今年9月の北小委員会で提案したもので、マグロの赤ちゃんが生まれる量が急減した場合、加盟国・地域が漁獲削減に踏み切るなどの対策を含むものですが、その具体的な規制内容や発動条件などは今後約1年かけて検討することになっています。(※2)

…これって、こういうことではありませんか?

もうすでに息も絶え絶えな人を目の前にして、「あなたを助けるための緊急ルール、合意されましたから、安心ください!え?その具体的な内容?どういうふうに助けてもらえるかって?それはこれから1年かけて検討します!大丈夫、大丈夫!まだまだいけますってば!」…

しかも「緊急ルール」は、昨年のWCPFCで策定されるはずのものが持ち越されたものです。こんな悠長なことをやっていて良いのでしょうか?

 

WCPFCとは?

ところで、WCPFCって何だと思います?

マグロ類はその多くが絶滅危惧種に指定されています。このWCPFCはその名の通り、中西部太平洋地域で漁獲されるマグロ・カツオ類の資源を管理する国際機関です。世界で獲られるマグロ・カツオ類のうち約70%が太平洋産であることを考えると、WCPFCがとても重要な機関であることが分かります。

出典:農林水産省「国際交渉官が語る 世界の中の日本の役割」(※3)

特に、今回のWCPFCではメバチ・キハダ・カツオの保存管理措置に加え、太平洋クロマグロの保存管理措置を主要な議題とするものでした。(※4)

なかでも太平洋クロマグロの資源量は約4%。極めて危機的な水準です。今すぐにでも実効的な対策が講じられなければ、本当に絶滅してしまうかもしれません。来年9月のワシントン条約締約国会議で、太平洋クロマグロの輸出入規制強化が採択されるかもしれない、というのは何も理不尽な話ではないのです。

今回のWCPFCは、太平洋クロマグロに関する実行可能な対策を決められる最後のチャンスとも言える、重要な会議でした。

 

私たちにできること

グリーンピースも、この重要な国際会議にオブザーバー資格で参加。資源量が16%にまで減少しているメバチマグロのための新資源回復計画の策定やシャークフィニングに関する規制強化等、8点の具体的要望を含む提案書を環境NGOの立場から提出しました。(※5)

でも、今見たように、国際会議にまかせておくだけでは、改善されません。今こそ、消費者である私たち一人一人が、その権利を行使する時です。

遠回りなように思えるかもしれません。私だけが権利を行使したって何も変わらないと思うかもしれません。

でも、決してそんなことはありません。一人の力は小さくとも、一人ひとりの力が集まれば、それは大きな変化の波を生み出し、各方面にプレッシャーを与えることができます。市場を変え、ルールを変えることにつながります。

ぜひ私たちと一緒に、あなたの生活のなかで、最初の一歩を踏み出してください。それが美しい海と美味しい魚と大切な地球の生態系を守る一歩となり、子どもたちに伝え残していくことができるのです。

小売業界を変えるために、あなたのお力をお貸しください。皆様の一歩を集めて、大きな声にして届けます。まずは一番身近なスーパーマーケットから変えていきませんか?

スーパー・デパートにお客様の声を届けるキャンペーン「Save My Baby」へのご参加はこちらから。

 http://bit.ly/1IUdMs5

 

グリーンピースの立場と要望

最後に、ちょっと専門的な内容ですが、グリーンピースが今回のWCPFCの提案書にも入れた太平洋クロマグロの保全に関連する主要点をご紹介します。

1)洋上転載完全禁止の合意を

洋上転載はIUU(違法、無報告、無規則)漁業の温床となっています。洋上転載すると、その魚がいったいどこで獲られて、どの船によりいつ漁獲されたのかといったトレーサビリティに関する情報も追跡不可能となります。

マグロ漁業において太平洋で操業する巻き網漁船に関しては、洋上転載はすでに禁止されていますが、延縄漁船も非合法化されるべきです。(※6)

グリーンピースは2006年から2015年にかけて、太平洋に調査船を派遣し、その実態を記録してきましたが、今年の調査でも台湾船籍の延縄漁船の違法行為を発見しています。

 

2)太平洋クロマグロ漁の一時禁止(モラトリアム)を

汎太平洋管理計画が合意・実行され、資源量の回復に関する確証が得られるまでの間、太平洋クロマグロ漁を一時禁止すべきです。

太平洋クロマグロは繁殖力が高く、数年間の禁漁期間さえあれば、資源量は必ず回復すると言われています。わずか数年の我慢で、将来世代に貴重な食文化と生態系を残すことができるのです。

 

3)規制に従わない業者とIUU漁業に対する委員会の対応強化を

漁業データを提供しない、繰り返し規制に従わない、FAD(集魚装置)禁止期間を守らない、過剰漁業、洋上転載するなどの業者や漁業には、厳しい措置を課すべきです。

マグロ漁の規制を求めるのはもちろん、わたしたち消費者の声が届くよう、たくさんのひとに「Save my baby」をひろめてください!

 http://bit.ly/1IUdMs5


 

参考資料

※1)Greenpeace Australia Pacific, “Key Pacific fisheries meeting fails to stop overfishing” 
http://www.greenpeace.org/australia/en/mediacentre/media-releases/Key-Pacific-fisheries-meeting-fails-to-stop-overfishing/
※1)"WCPFC improves observer safety, but Pacific tuna remain unprotected" undercurrent news, December 8, 2015,  
https://www.undercurrentnews.com/2015/12/08/wcpfc-improves-observer-safety-but-pacific-tuna-remain-unprotected/
※2)水産庁「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)第12回 年次会合の結果について」
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/151208.html
※3)農林水産省「国際交渉官が語る 世界の中の日本の役割」
http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1001/spe1_05.html)
※4)水産庁「中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)第12回 年次会合の開催について」
http://www.jfa.maff.go.jp/j/press/kokusai/151202_1.html
※5)Greenpeace briefing paper, "Western and Central Pacific Fisheries Commission Twelfth Regular Session of the Commission (WCPFC12) Bali, Indonesia, 3–8 December 2015",
https://www.wcpfc.int/system/files/WCPFC12-2015-OP16%20Greenpeace%20position%20Statement%20for%20WCPFC12.pdf
※6)グリーンピース・ジャパン「マグロ漁が抱える問題〜グリーンピース事務局長のブログご紹介」http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/blog/staff/blog/53783/