ホエール・ウォッチングで考える(その1)



今回のオーストラリア訪問の最終日には素敵なイベントがありました。



(c) Greenpeace

私のプレゼンテーションに参加された中の一人にホエール・ウォッチング業界では有名な方がいらっしゃったのですが、私のプレゼンにいたく共感していただき、「ぜひシドニーのホエール・ウォッチングに!」と招待してくれました。

実は私、ホエール・ウォッチングははじめての体験。ドルフィン・スイムは和歌山で一度経験したことがありますが、日々の活動で捕鯨問題に深く関わっていながらも実際にクジラを見たことがなかったのです。

まあそれはそれで、私にとって反捕鯨活動の最たる動機が「政府と捕鯨業界の腐敗の究明」であるという証拠だと思いますが、オーストラリアの皆さんは「クジラを見たことがないのに、そこまで自分のリスクを犯して反捕鯨活動をするなんて!」と、私からしてみれば意外なアングルで感動されていました。そんなところからぽっと出てきたオファー。乗らない手はありません。

「ビグルスBiggles」という愛称で呼ばれているホエール・ウォッチング専門家ピーター・ハリスさんのアレンジにより、たくさんの観光客と一緒にホエール・ウォッチング専用(!)の大きな船に乗り、専門家から「プライベート講義」をしてもらいました。



(c) Greenpeace

「クジラはなにしろ野生の生き物だから、必ず会えるとは期待しない方がいいよ」と聞かされて出発したので「そんな簡単にいないよな~」と思いつつ、ホエール・ウォッチングの現場を見られるだけでもいい勉強になるからと気楽にかまえていたのですが、シドニー湾を出てなんと20分後には数頭のザトウクジラに囲まれることになるなんて、出発のときは想像もつきませんでした。

シドニー湾を出て外海へ。映画『ファインディング・ニモ』で有名になったEAC(東オーストラリア海流=日本でいう黒潮)に船を向けると、あっというまに水平線手前にクジラの潮吹きを確認。近づいていくと3頭のザトウクジラ(こちらではハンプバックと呼ばれています)たちがゆったりと優雅に泳いでいました。

ホエール・ウォッチングの基本ルールとして、船はクジラの100m以内に近づいてはならないのですが、そこで船を止めたあと勝手にクジラが寄ってくる場合は問題ないのだそうです。なので、100m手前でひとまずストップ。

ビグルスさん曰く、「クジラには三種類いる。まったく我々に関心を持たないマイペースなタイプ、避けていくタイプ、そして好奇心旺盛で寄ってくるタイプ。こればかりは見つけて近づかないかぎりわからない」

今回はラッキーにも三番目のタイプに当たったようです。



(c) Greenpeace


ビグルスさんが見るところ、一番大きいのが14~5mくらい。ほんの少し小さいのがもう1頭と、さらに小さい1頭。彼らはとても好奇心旺盛で、手を伸ばせば届きそうな距離で、静かで優雅なショーを繰り広げてくれました。水上に姿を現すたびに船からは大きな歓声が上がります。ただただ単純に、自然への畏怖と敬意を抱く瞬間でした。これだけ大きな海洋性野生動物が自分たちから好奇心で寄ってきて、しばらく船と戯れる姿を見て、感動しない人なんていないでしょう。

ザトウクジラはホエール・ウォッチングでもっとも人気のあるクジラです。オーストラリアでは多くの人たちにとって、一番に浮かぶクジラのイメージはやはりザトウクジラなのです。

一昨年、日本が南極海調査捕鯨でザトウクジラを捕獲対象にすると発表して国際世論で大騒ぎになりました。結局、アメリカをはじめとする各国の反対を受け、IWC(国際捕鯨委員会)の正常化を進めることと引き換えにザトウクジラの捕獲計画を取りやめたもの。私は、捕鯨推進派はその話を出せば騒がれるのをちゃんと知っていて、確信犯でザトウクジラを引っ張り出したと理解しています。この件ひとつとっても、クジラが政治的なカードとして使われていると思える節があります。嘘で塗り固めた調査捕鯨がそんな形で国際世論における日本人のイメージをつくっていく――まさに「国を一部の受益者に売り渡している」のが調査捕鯨なのです。つくづく、調査捕鯨の不正を許せないと思いました。(Photographer:Jonas Liebschner)

ホエール・ウォッチングで考える(その2)につづく