シリーズ 「NGOの役割を再考する」

第1回  「会社人から社会人」へのシフトを

 

東日本大震災直後、NGO(非政府組織)やNPO(非営利団体)などの市民セクターの役割の重大さが認識された。

震災から2年が経過し、日本社会に市民セクターが本当に根付くためにはこれからが重要だと思う。だからこそ、よりよい社会を実現するためにNGOがどのように貢献できるかをこの機会に再考してみたい。

第1回目は、「社会の利益を優先できる人=社会人」を育てることがNGOの役割の一つであることを、自ら感じたことや経験をとおして紹介する。

 

社会の利益を優先できる人=社会人 

いよいよ新年度。スーツ姿の新入社員を駅などで見かけると、「社会人がんばって!」と応援したくなる季節だ。

ごく普通の応援に聞こえるが、ここで意味する「社会人」は「会社に就職する」という意味ではない。「社会の利益を優先できる人」を「社会人」ととらえて、「社会に貢献できる人になろう」という呼びかけだ。

 

「会社」が「社会」を意味していた

いつだったか、日経新聞のテレビCMを目にした。

そのCMは、先輩会社員が、後輩に「社会人なら日経を読むべき」という趣旨のアドバイスをしているものだった。

「社会人なら日経」という少々突飛な日経のイメージ戦略にも驚いたが、このCMで再認識したのは「会社や組織に就職すること」が「社会人になる」と同義で使われていることだ。

農業、林業、水産業などの第一次産業に新しく従事する人に対して「社会人」になるという言葉をあまり使わないことを考えると、「社会人」ということが会社や組織に所属するという極めて狭い意味で使われているのだろう。

「社会人研修」と言っても、会社人としてのマナーを学ぶ「会社人研修」に過ぎないのが実態ということもある。

「社会人」の意味を考えれば考えるほど、「会社」が「社会」と同等に扱われている現状が日本の様々な問題を引き起こしているのではとも思い始めた。

 

元NHKの堀さんは「会社人」それとも「社会人」?

先日ツイッターでNHKのアナウンサーの堀潤さんが、所属するNHKの原発報道をめぐって異議を唱えているのを見た。公共放送であるNHKの使命を考えれば、原発事故後の放射能拡散情報をいち早く伝えられなかったその報道姿勢には問題があるという趣旨だ。

しかし、NHKが堀さんの問題提起にしっかりと応えた様子はない。この対応は、会社や組織の利益を優先してしまう「会社人」的対応の典型例に感じる。

一方で、「組織の利益」に忠実なのではなく、公共放送である「NHKの使命」と「社会の利益」に忠実な行動をとって問題提起していたのが堀さんだ。そういう意味で彼は、立派な「社会人」だ。結局、堀さんはNHKを離れ、「オープンジャーナリズム」という新しいジャーナリズムを国内で広げていく道を選んだそうだ。

 

 

「社会人」を増やすこともNGOの役割

「会社人=社会人」とされてきたのは、これまでの日本において会社の成功が経済的成功と密接につながっていたからだと思う。しかし、物質的な成熟度の高い社会が実現された後「会社の発展が、社会の発展」という時代は終わりつつあるのではないか。

東日本大震災直後に、多くの個人や企業がそれぞれの利益や都合よりも、社会性を重視してその復興に協力した。「絆」という言葉がもてはやされたのも、「社会人」的な行動をとった人が多かったことに希望を感じたからだろう。この時期に「会社人」的な対応をした政府や組織は痛烈に批判された。

これまで「会社人」を育てるのが社会の目標だったのかもしれないが、これからは「社会人」を増やしていくことが豊かな個人、そして社会を築いていくことにつながると思う。

 

企業内でも「社会人」は成長できる

ここで断っておくが、もちろん企業に就職することを否定しているわけではない。会社に就職し、企業活動を通じて社会性を追求したり、地域の社会性のある活動に参加したりすることも「社会人」だと思う。

企業内でも「社会に貢献できる人」という意味での「社会人研修」を行ったり、「社会企業家」を育成したりすることもできる。理想は、企業の社会的な役割を再考し、企業の利益がそのまま社会の利益になるように方針を転換していくことだ。

 

社会全体のシフトのために「社会人」を増やしていきたい

NGOであるグリーンピースは、その使命であるグリーンでピースフル(生態系豊かで平和)な社会の実現を目指すにあたって、スタッフはもちろん、サポーターやボランティアさんに問題解決への働きかけに参加してもらうことで「社会の利益とは何か」という問いにそれぞれが答えていく機会を作りたいと思う。

そのような体験を通して、社会問題に真剣に取り組む「社会人」を増やしていくことに貢献していくこともNGOの使命だと思うからだ。

冒頭で「社会人がんばって!」という新入社員へのエールを紹介したが、それは新入社員だけに向けられるべきものではない。自分自身も含め、多くの人が「会社人から社会人に」のシフトを心にとめておくことができれば、社会全体のシフトも実現できると信じている。

 

「NGOの役割を再考する」は、日本のNGO(非政府組織)やNPO(非営利団体)などの市民セクター、またグリーンピースの役割について事務局長の佐藤潤一の意見をシリーズ化しているものです。

 第1回  「会社人から社会人」へのシフトを  (2013年4月3日)

 第2回 アベノミクスが破壊するもの (2013年4月22日)

 第3回 “成長”が目的化する社会の危険性 (2013年5月24日)

 第4回 「ねじれ」が嫌な方へ、「創造的対立」のすすめ (2013年7月3日)