国際司法裁判所が南極での調査捕鯨に違法判決を下してから、調査捕鯨がニュースでとりあげられることが多くなった。

そのニュースでは、この判決によって「鯨肉がたべられなくなるのでは」とか、「日本の伝統が消えてしまう」というストーリーが繰り返し伝えられている。

日本はノルウェーの捕鯨技術を輸入して、1930年代に南極海の商業捕鯨を開始した。当時は、戦費を稼ぐための鯨油目的だった。南極海の捕鯨をやめることが伝統をあきらめることにはならないのだが、「伝統をまもれ」という感情的な議論は、読者や視聴者の受けが良いのか繰り返され続けている。

アイスランドから鯨肉2000トンが到着

そんな中、昨夜、大阪港に、アイスランドから絶滅危惧種であるナガスクジラの鯨肉約2000トンを積んだ貨物船がコソコソと到着した。東京港に入港予定だったが、急きょ大阪港に入港した。

鯨肉の輸入としては、過去最大となる規模だ(注1)。鯨肉の年間の消費量が約3000トンと言われている(注2)から、年間の消費量の3分の2となるような量でもある。

しかも、アイスランドの輸出統計を見ると1キロあたり700円程度と格安だ(注1)。これが日本の末端価格で、部位にもよるが1キロ1万円から2万円にもなる。

アイスランドで行われているナガスクジラを対象にした捕鯨は日本への輸出用で、アイスランド国内ではナガスクジラ肉の需要がないことをご存じだろうか?

「伝統?」のわりに知らないことばかり

「文化だ」「伝統だ」という言葉は、反論することを許さない雰囲気を作る効果がある。だからこそ、その言葉が事実を反映しているのかを疑う目が必要だ。

ちなみに、ナガスクジラなどの鯨類はワシントン条約で規制対象種である。よく、空港などでガラスケースに展示されている「輸入が禁止されている動植物など」にあたるのだ。ところが、日本がこのワシントン条約の鯨類規制を留保(認めていない)しているため、鯨肉の輸入が可能となっている。

象牙などの商業目的での輸出入が禁止されていることは良く知られているが、それと同様に世界の大多数の国々では鯨肉も規制されていることを多くの人が知らない。

そして、国際司法裁判所の判決の裏で、こっそりとアイスランドから絶滅危惧種であるナガスクジラの肉を格安で輸入している現状があることも知られていない。

ましてや調査捕鯨の運営会社の借金返済に復興予算23億円が使われたり、毎年税金50億円が調査捕鯨に使われていることも知られていない。

「伝統」と叫ばれるわりには、知らないことだらけではないだろうか?

 

(注1) アイスランド貿易統計より

(注2) 「土俵際の調査捕鯨 国際司法裁、31日判決」2014年3月26日 朝日新聞