<最初の投稿は9月20日ですが、12月19日に記事内容をアップデートしています>

9月20日、ロシア連邦保安局が北極海を保護区にと抗議活動をしたグリーンピースのアークティックサンライズ号を28人の乗組員と2人のジャーナリストごと強制的に連行した。

それから3か月が経過した12月18日、ロシアの現行憲法の20周年を記念しプーチン大統領が提案した恩赦案にグリーンピースの28人の乗組員と2人のジャーナリストが含まれた。それをロシア下院が承認したことで、30人は自由の身となる見込みだ。

しかし、この恩赦の背景には、そもそも30人の逮捕や2か月以上にも及ぶ勾留自体が過剰な反応であること、ロシアの無謀な北極開発に対して高まる国際的な批判を避けようとしたのが実情だろう。

実際に、ポール・マッカートニーも日本からプーチンに書簡を送ったり、マドンナも自身のFacebookで30名の解放や北極保護を訴えてくれていた。

 

 

日本のニュースを読んでも、なかなかわからないこの問題の背景を説明する。

 

ロシアの“半国営企業”ガスプロム

ロシアの“半国営企業”であるガスプロム。日本では業界の人を除いてあまり知られていない企業だが、時価総額で世界有数の巨大エネルギー企業だ。

そのガスプロムが威信をかけて進めているのが北極海での石油掘削事業だ。気候変動で北極の氷がとけているため、掘削が可能になってきたというわけで、2014年に世界で初めて北極圏で石油を掘削しようとしている。


北極海は、世界で唯一残された手付かずの海域

これまで北極海は、氷で覆われていたため人間の開発から逃れてきた。しかし、気候変動で氷がとけて海底に石油や鉱物があることがわかると各国が競って開発にのりだしている。

9月27日に発表されたIPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)も、将来的にさらなる気候変動が起こるとの予測を発表し、北極の氷も毎夏、小さくなり続けるとされる。

しかし北極海は、生物多様性の宝庫だ。ガスプロムが掘削を始めようとしている海域も、ホッキョクグマやセイウチなどの生息地に近い。石油掘削事業というのは、非常に危険な事業であって、万が一原油漏れ事故などが起これば厳しい気象条件の中で汚染は取り返しのつかないことになる。

石油メジャーである仏トタル社のクリストフ・ドマージュリー最高経営責任者も北極海の石油掘削には手を出すべきではないと発言している。

 

原油流出事故なんて起こらない?

国策事業には安全神話がつきまとうことを、私たちは東電福島第一原発の事故で学んだ。今回のガスプロムの石油掘削プラットフォームの安全性も同様だ。

まずは以下のビデオをみてほしい。

ロシアの石油開発は、陸上でもパイプラインのメンテナンス不備などによる原油流出が頻繁に起こっている。グリーンピース・ロシアの調査によれば、1万件以上、合計500万トンの原油漏れが毎年起きているという。

この量は、2010年に大問題となったメキシコ湾での原油流出事故の7倍の原油に当たるというから驚きだ。

さらにこちらのビデオをみてほしい。

これが北極海で2014年に掘削をはじめようとしているガスプロムのプラットフォームの現状だ。非常アラームは壊れたまま、北極海の荒れた波でプラットフォームの非常階段が流されるシーンまで記録されている。

メキシコ湾で起きたような流出事故が北極の海上石油掘削基地で起これば、厳しい気象条件においての作業は困難であることから、北極海の脆弱な生態系は取り返しのつかない被害を受けることとなる。


グリーンピースは、抗議活動を通して世界中の人たちにこの現状を知ってもらいたいと、北極海のガスプロムのプラットフォームに向かった。そして、半国営企業の国策事業の現状を知られたくないロシア政府が過剰に反応したという構図だ。

 

ロシア政府のダブルスタンダード

ロシアの資源開発で日本企業がかかわったケースがある。それは、サハリン2と呼ばれるサハリン州における石油、天然ガス開発プロジェクトだ。

実はこのときには、グリーンピースを含む環境保護NGOの指摘をロシア政府は歓迎していた。その指摘を利用して結果的に外資有利な条件を、ガスプロムに有利な開発条件に変更できると考えたからだろう。

しかし、同様に原油漏れなどの危険性を指摘をしている今回のケースでは、ロシア政府の姿勢は180度違う。結局、国益に反する場合は強硬手段にでるというダブルスタンダード(二枚舌)外交なのだ。

北極で原油流出事故があったとしても、環境保護よりも国益を優先する姿勢が容易に予想できる。

(写真は、グリーンピースのボートドライバーにナイフを突きつけるロシア沿岸警備隊)

 

非暴力直接行動は社会への警鐘

「グリーンピースの行動はやりすぎだ」という方も日本では多いだろう。しかし、石油プラットフォームによじ登ったりの抗議は行うが、決して他人に危害を加えたり、暴言を吐いたりなどの抵抗をしない。

これは、非暴力直接行動というガンジーがおこなっていた抗議活動と同じだ。抗議の意思を示すために、破壊の現場に行って静かに居座る。非暴力直接行動に参加する人は、ナイフを突きつけられても、銃を向けられても決して暴れたり抵抗しないトレーニングも受けている。それは、抗議活動を見る側の人たちの潜在的な良心にメッセージを届けたいからだ。

本来、ないに越したことはない抗議活動だが、このような抗議がなければまったく知られないままに環境破壊がすすんでしまうことも事実だ。原発事故でも学んだように、巨大な産業事故は一度起きたら取り返しがつかない。何らかの事故が起きてから怒りを覚えても元には戻らない。

今回に限らず、あらゆるグリーンピースの非暴力直接行動による抗議活動は、社会に警鐘を鳴らそうとしているものだ。そして実際にこのような非暴力直接行動が環境保護において多くの成果をだしてきた。

グリーンピースの抗議活動に関するニュースを聞いたときには、その活動の背景にある問題にこそ目をむけてほしい。そして、今回はロシア政府の都合の良いダブルスタンダードにも気がついてほしい。

(写真:ロシアの国策事業に反対することの危険性を十分に理解しながらも、北極をまもるために行動したアークティックサンライズ号のクルー・ボランティアたち。写真は抗議活動に向かう前の出航時のもの。)

* 10月9日、ロシア当局はアークティック・サンライズ号から麻薬が発見されたと発表しました。ロシア当局が発見したというモルヒネなどは、オランダ船籍であるアークティック・サンライズ号が、船に積むことを義務付けられている医療用のものだと思われます。(グリーンピース・インターナショナルによる詳しい反論はこちらから

 

『北極を保護区に』キャンペーンについてもっと知りたい方は、過去の事務局長ブログをお読みください。

「北極を保護区に」壮大なキャンペーンがはじまる (2012年6月22日)

北極海の氷面積が最少 – 北極での石油開発を考える (2012年8月28日)

抗議活動はご自由に - オランダで驚きの判決 (2012年10月16日) 

シェルが2013年の北極圏開発を中止 (2013年3月4日)

I Love Arctic - 北極の海底に300万人の声 (2013年4月20日)

トム・ヨーク、ダリル・ハンナ、アニー・レノックスも応援、女性6人が欧州最高層ビルによじ登った理由とは? (2013年7月12日)

北極海でロシアがグリーンピースの船を連行した本当の理由。ロシアのダブルスタンダード外交 (2013年9月20日)