こんにちは。グリーンピース事務局長の佐藤です。今回も、前回のブログの続きでダムの話題です。

前回紹介したサンルダムの工事現場を訪れた後に、北海道沙流郡平取町にある二風谷(にぶたに)を訪れました。

もともと私は米国とメキシコでネイティブアメリカンの文化や抑圧の歴史を学んできたこともあり、先住民族である北海道のアイヌ民族の歴史に興味があったことと、そこに建設されている「世界最悪のダム」(注1)と呼ばれる二風谷ダムを訪問するのが目的でした。

水ではなく、土砂がたまる危険ダム

二風谷に到着すると、アイヌの伝統的な住居を展示している二風谷アイヌ文化博物館が見えてきます。博物館内には、アイヌ民族が使用してきた道具や舟などがならび、その自然を敬い、自然とともに育んできた豊かな文化と生活を知ることができます。

その博物館を出て遊歩道を抜けていくと、アイヌ文化とは対照的な巨大人工物の二風谷ダムが現れます。

「ダム湖が干潟みたいになっている…。」

それが、最初の印象です。湖になっているダム湖の様子を予想していると、その姿の違いに驚きます。ダムには水ではなく、泥がたまっていて、その上にたくさんの草が生えているのです。水のある場所も明らかに浅く、湖とは程遠い状況でした。

博物館のスタッフに、この状況について質問したときにも「土砂が貯まってしまって、大変なんですよ」と、当たり前に話していました。

二風谷ダムが完成した1997年には100年間で550万立方メートル土砂が堆積すると予想されていたのが、10年後の2007年には1268万立方メートルが堆積したと言います。当初の試算で230年で堆積するといわれた土砂が、10年間で堆積してしまったことになります。

土砂が堆積しているために、当初予定していたダムとしての役割をそもそも果たしていないのです!


取り壊すべき二風谷ダム

二風谷ダムは、1982年に「沙流川総合開発事業」の一部として苫小牧東部工業地帯へ工業用水を提供することを主目的に建設が開始したダムです。総工費741億円を費やして1997年に完成しました。しかし、当時の北海道庁が苫東開発を中止したため利水の必要性が減り、主目的を「洪水対策」などへと変更して無理やり建設を進めたそうです。

二風谷ダムの建設地は、アイヌ民族の人口密度がもっとも高かった場所でした。しかも、そこは「チプサンケ」と呼ばれるサケ捕獲のための舟下ろしの儀式が行われていた場所でもあります。

つまり、土砂に埋まる役立たずのダムの底には、貴重なアイヌ文化が眠っているのです。

このダムをめぐってはアイヌの方々が強行に建設反対活動を行い、アイヌ文化を無視した土地の強制収用は違法だとして裁判も起こしました。1997年に裁判所は「工事のための土地取得などはアイヌ民族の文化保護などをなおさりにして行った」と、強制収用は違法との判決を下します。しかし、裁判中もダム建設が続いていたため、完成していたダムの撤去は求めず、ダムの使用は認められてしまいました。

「悲しいですよね。ダム建設前には、魚がたくさんのぼってきた川だったのに。今となっては土砂がたまりすぎてすっかり役立たず。それどころか危険なダムだって言われています。今、この上流にもうひとつ新しいダム(平取ダム)が建設されようとしていますが、そのお金があるなら、この二風谷ダムを取り壊してもとの環境に戻してほしい」と、地元の方は、名前や写真は出さないという条件でお話をしてくださいました。

その話を聞いた後に、奇妙なデザインのゲートを見ると、無駄なところにお金を使い、そしてアイヌ文化、さらには地域コミュニティを壊したことに対する憎たらしさがたまるばかりでした。これは、すぐにでも撤去すべきダムです。


米国でダム撤去を実現した人たちのストーリーが映画に

米国では、不必要になったダムの撤去が始まっています。そして、このダム撤去を実現したのは、多くの市民の力でした。その市民たちのストーリーを映像としてまとめたのが、「ダムネーション」という映画です。市民が力を合わせてダム撤去を実現し、川が息を吹き返す状況はまさしく映画にふさわしいものです。

 

私も、公開前の映画を観させていただきましたが、「日本でもダム撤去ができる」と希望を抱かせてくれる映画です。

この映画「ダムネーション」は11月22日公開です。「ダムネーション」の映画サイトで、私もコメントを寄せさせていただきました。ぜひご覧いただき、日本でまだまだつづく無駄なダム建設を考えるきっかけにしてください。

また、同じ北海道のサンルダム建設について書いた前回のブログもぜひご覧ください。

「北海道のムダなダム建設現場で見た、驚愕の“魚道”?!」

(注1) 参考文献: 「ダムが国を滅ぼす」 今本博健+ 週刊SPAダム取材班 扶桑社