SPEEDI検証シリーズ(2)


前回、SPEEDIをリスクコミュニケーションのツールとして使うことを提案したが、今回はSPEEDIがどのように実際に避難訓練に使われていたのかを紹介したい。


お役所仕事の避難訓練


平成22年度に作成された避難訓練用のデータを見ると、これまで原発立地自治体がいかに事故を過小評価して避難訓練を行っていたかがわかる。

例えば、以下は福井県が大飯原発で事故があったと想定して作成した昨年10月(原発事故前)のSPEEDIデータだ。



放射性物質の拡散予測と、それに基づく避難区域(赤斜線)と屋内退避(青斜線)を示している。

このデータは、風向、風速、事故規模、放射性物質の放出量などの条件を県が国等と決めて計算する。つまり、「仮定条件」次第で訓練のサイズをカスタマイズできるのだ。

もちろんカスタマイズできることは当たり前で問題はないのだが、平成22年度に作成された他自治体の訓練用地図を見てみても、どれも小さい事故を想定していることわかる。

上で示した福井県のシミュレーションで避難区域に指定されているのはほぼ同心円状の3キロ圏内のみ、屋内退避区域に指定されているのは7キロ圏内にすぎない。

これが福島第一原発の事故の実態とまったく合わないということは説明の必要もないだろう。

 

放射性物質の放出量は2400分の1で計算

詳しく予測図を見てみると、ヨウ素の放出量がきわめて低く、小規模の事故を想定していることがわかる。

福島原発事故でのヨウ素放出の積算量は後に説明する滋賀県のデータによると、2.4 ×10 ^16 (16乗) Bqで福井県の予測図に使用されている条件1.0×10^13(13乗) Bqの約2400倍だ。

つまり、単純に考えても、福島原発規模の事故の2400分の1サイズの事故を想定して避難訓練をしていた。

これは昨年に行われた福島第一原発での避難訓練用シミュレーションでも同様で、最悪規模のシミュレーションに基づいて避難訓練をしていれば、事故直後にSPEEDIのデータがなくともある程度は適切な措置がとれたと思うと、残念でならない。

SPEEDI予測が過小評価されていたのは、おそらくEPZ(防災対策を重点的に充実すべき範囲)が8から10キロの範囲として定められていたから、その範囲に避難訓練が収まるように逆算されて事故の規模を決めていたのではないかとさえ疑う。

つまり、他の都道府県に影響があるようなシミュレーションをして避難訓練を行えないというお役所仕事の結果だ。

その証拠に、SPEEDIは23キロ四方の地図だけではなく、100キロ四方の地図に基づいて予測を発表することもできる。しかし、避難訓練のために100キロ四方の地図が使われることは文科省の担当者によると「ほぼない」そうだ。


琵琶湖が汚染される、滋賀県の独自シミュレーション

実は、SPEEDIの使用権限は原発立地自治体16と、隣接自治体3(京都、長崎、鳥取)の合計19道県のみにある。

これも原発事故が10キロ以上及ばないという前提で防災計画が立案されていたことによるものだ。

よって、現状では福井県の美浜原発から30キロしか離れていない滋賀県は、美浜原発や大飯原発などが事故を起こした場合のシミュレーションをSPEEDIを使用して作成することができない。

そこで、滋賀県は独自に放射性物質の拡散シミュレーションを行った。

自治体が住民の安全をしっかり考え、このようなシミュレーションを行ったことは高く評価できる。

しかし、結果は衝撃的なものだった。


(滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの試算を滋賀県の資料から抜粋)


このシミュレーションは、福島原発の事故と同等規模の事故が起きたとして計算している。

被ばく積算量が50ミリシーベルトになる地域(緑)が、原発から80キロ離れたところにも広がっており、100ミリシーベルトになる地域(黄色)も琵琶湖に迫る勢いだ。

福島原発事故がいかに広範囲に汚染を拡散したかを考えれば、驚くようなことではないかもしれないが、実際のシミュレーションにおいて、琵琶湖が事故発生後24時間以内にすっぽりと汚染される可能性を見ると、背筋が凍る。

このシミュレーションはまだ滋賀県のHPに掲載されていないが、グリーンピースが独自に入手しているので、全文をこちらにPDFで掲載する。

第3回 滋賀県地域防災計画の見直しにかかる検討委員会 (平成23年11月25日開催議事録)

 

再稼働は国民全体の問題

原発の再稼働問題は「自分とは関係ない」と考えている人が多くなっているようだ。

特に関西圏ではその傾向が強いと思う。それが「電気が足りないから再稼働は仕方がない」と言うのんきな言葉につながるのかもしれない。

そもそも電気は足りている。

しかし、百歩譲って足りないというのであっても、数%の電力不足のために琵琶湖が放射能汚染されるリスクを関西圏に住む人たちは許容できるのか。

事故が起きてからでは取り返しのつかないことは、福島原発事故で学んだはずだ。

読者の方々はこのブログを地方議員などに転送してほしい。

議員は、首長にSPEEDIを使って福島原発事故と同等のシミュレーションをし広く住民に公開すること、SPEEDIを使えない都道府県はすぐに使えるようにすることをそれぞれ都道府県、国に要請してほしい。

 

参考: グリーンピースは、昨年からSPEEDIをリスクコミュニケーションに使うべきと考え、全自治体での利用とデータの住民への公開を求めてきました。SPEEDI検証シリーズ 、ぜひご覧ください。

(0)グリーンピースの要請受けて、全原発SPEEDIデータ 文科省がウェブに公開 (2011年11月25日)

(1)「SPEEDI」をリスクコミュニケーションに使う (2011年11月30日)

(2)SPEEDIの過小評価と滋賀県の独自シミュレーション (2011年12月9日)

(3)初公開! 玄海原発事故SPEEDI、1時間で有明海・佐賀市・福岡市汚染の可能性 (2011年12月22日)

(4)京都府がSPEEDIデータを活用へ 大きな一歩 (2012年2月3日)

(5)大阪、滋賀は今こそSPEEDIを使え (2012年3月17日)

(6)大飯原発でも隠されるSPEEDIデータ (2012年3月27日)

(7)高浜原発事故で、京都が放射能汚染地域に?! (2012年4月3日)

(8) 3か月も隠ぺいされ続ける大飯原発SPEEDIデータ (2012年5月18日)

(9)初公開、大飯原発事故で、京都観光地も汚染の可能性 (2012年5月25日)

(10) 大飯原発:福井県が黒く塗りつぶした放射性物質拡散予測図 (2012年6月19日)


 

 

このブログは、事務局長の佐藤潤一が書いています。

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