こんにちは、エネルギー担当の関根です。

原発の下にほんとは活断層があるのではないか、とか。石油や石炭がどんなに値上がりしても火力発電のために大量に輸入が必要だ(だから電気料金を値上げしますよ)、とか...。もうそんなことに振り回されたくない、と思いませんか?電力会社だって、振り回されない方が良いはず。

グリーンピースでは、電力会社やその株主に向けた報告書『ポスト原子力の3大課題 --国際事例から考える電力会社再生8戦略』を発表しました。この報告書では、原発を早くやめて、自然エネルギー中心の発電に積極的に変わっていくことが、実は電力会社の経営にも好ましい、ということを提言しています。

著者は、これまでに「原発—21世紀の不良資産」(注1)「日本生命と原子力産業」(注2)で日本の電力会社や株主への提言報告書を書いてきたグリーンピース・インターナショナルのギョルギー・ダロスです。米国のコンサルティング会社ボストン・コンサルティング・グループでエコノミストとして国際エネルギー事業(電力、天然ガ ス、石油)の業務を担当し、企業向けのコンサルティングを行ってきた経験を踏まえ、この報告書を執筆しました。

以下、内容の概要をご紹介します。

電力会社をめぐる環境の激変

 1.原発は経済的にも不人気に

福島原発事故のあと、脱原発を決めたドイツをはじめ、世界中で原発に対する評価が下がっています。それも、環境や生活の視点で危険だという意味だけでなく、投資リスクが多き過ぎるとか、既存の原発の安全対策を強化するための投資が求められるといった理由で、経済的・資産的な評価が下がっているのです。

 2.競争が始まる:

今、送電線をこれまで持っていた電力会社から切り離す発送電分離や、一般家庭も電力会社を選べるようにする電力システム改革の検討が大詰めに入っています。一連の改革が進んでいけば、これまで全国10の供給エリアに分割され、ほとんど競争がなく、安定した収入を得てきた電力会社にとって、ビジネス環境は激変します。

 3.自然エネルギーが大きく成長する

原発が縮小していく一方で、いま、世界中で自然エネルギーが目覚ましい成長を続けています。投資も大きく伸びていて、2011年の新規の自然エネルギー発電設備に対する年間投資額は新規の原発の約20倍にもなっていました。自然エネルギー発電によって、既存の原発や火力発電所の役割が圧迫されていくことになります。

 

変化の波を乗り切る戦略

報告書では、いまの日本とよく似た状況にあった20年前のドイツの電力会社の経験を分析し、積極的な対応ができずに自然エネルギー市場でシェアをとれなかったドイツの電力会社と、積極的なビジネス戦略を立てて優位な立場を築いたスペインの電力会社の事例を紹介しています。そして、上記の三つの変化を日本の電力会社が乗り切るために必要な、8つの戦略を次のように提案しています。

①    石炭火力及び原子力発電への投資を削減すること、

②    全国的な送電網の一本化

③    火力発電の熱効率改善

④    石炭/石油の価格変動の影響を受けにくくする工夫

⑤    自然エネルギーへに積極的に投資し、主導権を握る

⑥    電力会社にも適用される固定価格買取制度導入

⑦    ピーク発電の必要性を減らすための分散型エネルギー利用

⑧    自然エネルギー設備導入コストを削減することによる日本の製造業の改善、

 福島原発事故を経験した日本の電力会社には、今こそ環境と社会の持続可能性と、経営の合理性を併せ持つ「統合的視点」が求められています。この報告書ではそうした統合的な視点に立った戦略を提案しており、電力会社や株主、そして地域で電気のことを考える消費者の方々に是非読んでいただきたいと思います。

(報告書のご紹介は以上。報告書へのリンクはこのページの下にあります)

 現政権の政策について

「2030年代に原子力発電所の稼働ゼロを目指す」とした野田前政権の「革新的エネルギー・環境戦略」は、上記のような電力会社の再生戦略を後押しできるものでした。これを「ゼロベースで見直す」と述べて覆そうとする安倍政権の方針は、電力会社が変化に対応しようとするインセンティブを絶ち、再生を阻害するものといえます。

安倍首相が「自由民主党も(原発事故の)責任を逃れることはできない」とし、「責任あるエネルギー政策を構築する」(注4)といっていますが、そうであればこそ、原発ゼロ目標を堅持し、自然エネルギーの着実な発展を促す政策の導入が不可欠なのではないでしょうか。

 

 

注1:新報告書「ポスト原子力の3大課題 --国際事例から考える電力会社再生8戦略」(日本語)

       英語版はこちら

注2:「原発—21世紀の不良資産

注3:「日本生命と原子力産業

注4:2013年2月1日参議院本会議 福島みずほ社民党党首による代表質問に対する安倍首相答弁