こんにちは、海洋生態系担当の花岡和佳男です。

最近スーパーなどでよくワラサという魚が安価で売られているのを見かけます。過剰漁業問題が深刻ないま、ワラサはここ4~5年、資源増加傾向にある「嬉しい」お魚の一つ。先週訪れた千倉港にも、ワラサが日々定置網にかかっていました。しかし漁業関係者は喜ぶどころか、「このままだとワラサもまたすぐにいなくなる」「もったいない……」と曇り顔。一体どういうこと?何がもったいないの?

もったいない-その1:食べるなら旬がいい

ワラサとはブリの若魚のこと。この魚は成長に伴い名前を変える成長魚で、年齢でいえば3~4歳、サイズで言えば60~80cm程度のものが、関東でワラサと呼ばれています。「寒ブリ」で知られるようにブリの旬は冬で、ワラサは晩秋辺りから脂が乗るそうです。今は産卵期を終えたばかりで脂が落ち身質は悪く、スーパーなどに並ぶ切り身に使われるのは、お腹まわりと背骨の上にあるほんの一部分(残りの部分は生臭い血合いが凄い)だそうです。今若い魚を無理やり獲ってしまうよりも、もう少し成長させて海で十分に産卵もさせて、食べ頃になってから獲ればいいのに、もったいない。

もったいない-その2:資源管理をするなら今のうち

ワラサは千倉港の定置網にもかかりますが、銚子港などの桁違いに大規模な水揚げの大部分は、巨大な網で群れを一網打尽にする、効率性を追求した「まき網」という漁法で獲られます。政府は資源増加傾向にあることをいいことに、ワラサ漁業に漁獲制限を設けていません。つまり獲れるだけ獲ってもお咎めのない中で、「自分が獲らなければ隣の漁船に獲られる」状態にあるまき網船は、競うように群れを探し一網打尽にしています。

千倉港の漁業関係者が顔を曇らせる理由はここにあります。かつて千倉港はサバ漁業の一大基地で、多くの漁船が競うようにこの港に水揚げしていました。しかしその漁業規模の大きさが自然界のサイクルを超えると、漁場からはサバが一気に姿を消し、千倉港はすぐに衰退していってしまったのです。ワラサだって、いま一時期的にたくさん泳いでいるからと言って限界まで獲り尽くす漁業を続ければ、すぐにサバと同じ道を辿ってしまうでしょう。

宝くじが当たって大金を手に入れたとして、それを計画性なく毎日思いつくまま浪費しているようなものです。計画や管理を作れるのは資源状態のいい今なのに、もったいない。

 

もったいない-その3:獲れば獲るほど儲からない

需要に合わせて漁獲量を調整すれば魚の価格は安定しますが、一度に大量に同じ種類の魚を水揚げすると、市場はその魚で飽和し、価格は一気に暴落します。実際に今各地で需要を超えて大量に水揚げされているワラサは、旬の価格の数十分の一でしか取引きされていません。地域密着の小規模漁業にとっては、獲れば獲るほど儲からない状況で、千倉港の漁業関係者は「中期的に見て今は網から逃がす決断も大切」と言うほど。一方でまき網に代表される産業的で大規模な漁業は、単価の低さを量でカバーしようと漁獲に一層の力を入れます。そしてこのように大量に獲られ安く購入できる魚を一手に買い取るのが、全国の店舗で年中同じ種類の魚を同じ価格で大量に販売する、流通網の発達した大手スーパーマーケットや回転寿司チェーンなどです。実際、この日に千倉港に水揚げされたワラサのほとんどが、スーパー業界最大手であるイオンの仲買人に買われていきました。限りある資源を薄利多売するなんて、もったいない。

 

スーパーの鮮魚コーナーは、まるで過剰漁獲魚のコレクション・ケース

マグロやウナギなど、年中同じ種類の魚を同じ価格で大量に販売しているスーパーの鮮魚商品棚は、まるで過剰漁業により獲られた魚介類の陳列ケース。海の中がどうなっているかなんてお構いなしに、安く大量に仕入れることができる種に次から次へと手をつけていきます。消費者が家庭で食べる魚介類の約70%は、スーパーを経由しています。私たちの毎日の食卓は過剰漁業を、知らぬうちに後押ししてしまっていないでしょうか?

政府の漁業資源管理が甘く遅いいま、海の生態系と食卓に上るお魚を次世代に残すため、グリーンピースは世の流れに合わせて比較的速く順応するスーパー業界に対して、持続可能で安全な魚介類の調達方針を作るよう呼びかけています。今回のワラサのように今管理をはじめれば持続性に獲り食べていけそうな種が、もう千倉のサバのように乱獲されてしまわぬよう、皆さんも消費者として私たちと一緒に、大手スーパーに「過剰漁業により獲られた魚は売らないで」「持続可能な魚だけを売って」などと言った「消費者の声」を届けませんか?ぜひオンライン署名「一週間、魚食べずに過ごせる?」にご参加ください。