こんにちは、関根です。

食と農業チームでは昨年、化学農薬の代わりに天敵昆虫の利用が全国一進んでいる高知県を訪ねました。

黒潮の海と山に囲まれたの高知県では、昔から施設園芸(温室での栽培)が盛んです。狭い平地面積を最大限活用して、全国一の生産を誇る野菜がいくつもあります。

ナス、米なす、みょうが、しょうが、ししとう、 にら。
この中にも、天敵となる昆虫を活用することにより、化学農薬をほとんど使わずに生産されている野菜があります。

高知県農業振興部環境農業推進課の古味さんに天敵を利用する農業のあゆみと展望についてお話しをきき、高知県安芸農業振興センターの新田さんに天敵とハチたちが活躍するナスの温室を案内していただきました。

農薬を使うのは、農作業の手間を省くため、というイメージがありませんか?

高知県の発想はその逆。
労力をカットするための試みとして、受粉をするハチや天敵たちの活用が始まったそうです。

1.ナスの受粉のため、昆虫の活用が始まった

最初に昆虫の活用を始めたのは1992年、高知県安芸市の温室栽培のナスをマルハナバチに受粉してもらうというものでした。それまでは、ホルモン剤をナスのひと花ひと花に手動ポンプで散布していたそうです。マルハナバチやミツバチのおかげで年間の労働時間の15-20%を占めていた作業がカットできたそうです。

 

高知県庁の古味さん。天敵を導入した経緯から最近の農家さんの様子まで、チャレンジの連続を聞かせていただきました。

2.天敵の登場

ナスには、実から汁をすって実に傷つけたり、排泄物で汚したりする、いわゆる「害虫」がたくさんいます。
一方、ハチが活躍してくれる温室では、いままでどおり農薬(殺虫剤)を使うことはできない…。
そこで1997年から、「害虫」を食べてくれる天敵昆虫の活用への試みがはじまりました。
全国初の挑戦には、試行錯誤がいっぱいだったそうです。

最初は購入してきた天敵*1を購入して使い始め、やがて、高知の土地にもともといた天敵*2の販売が始まり、そちらを使うようになったそうです。
[*1 ククメリスカブリダニ, *2 タイリクヒメハナカメムシ]

下の表は、高知県のナスのデータです。

昆虫たちを使い始めてから4年で、総コストが25%下がっています。
農薬の使用回数が1/5近くにまで減り、農薬を散布するのにかかる時間も1/3に減ったそうです。

(高知県資料より)

さらに、化学合成農薬のコストはマイナス73%となり、ハチたちを上手に長生きさせて使えるようになったのでハチ(受粉昆虫)のコストも減り、天敵を養う工夫も効果がでてきたことで、購入する費用は横ばいになっています。
その結果、全体のコストもなんと35%にまで減ったそうです。

天敵に活躍してもらうほか、物理的には、防虫ネットをはって、外から「害虫」が入ってくるのを防いだり、黄色蛍光灯をつけて、夜行性の蛾が(昼間と勘違いして)入って来なくなるようにしたり、いくつもの工夫を組み合わせています。

これでもうまく行かなかったときは化学合成農薬を使うこともあり、そういうときは、天敵に影響がなく主に「害虫」に効くという対象の狭い殺虫剤をつかって、「害虫」をコントロールする手法を組み立てていったのだそうです。

 

高知県安芸農業振興センターの新田さんにナスの温室を案内していただきました

3. 農薬に頼らなく(頼れなく)なったもう一つの理由とは

施設ナスの手強い「害虫」のひとつは、東南アジアから来たミナミキイロアザミウマ。
高知県には1979に入ってきたと言われていますが、そのときからすでに農薬に耐性があり、従来の殺虫剤が効かなかったと言われています。

この「害虫」退治に、新しく使われるようになったネオニコ系の農薬のイミダクロプリド*3が最初はとても効果があったそうです。けれど、3年後にはもう効かなくなってしまったそうです。
後から発売された同じネオニコ系のアセタミプリド*4、やニテンピラム*5は、先のイミダクロプリドと同じ系統のため、最初から効きが悪かったとのこと。

この他にも2002年頃に従来の殺虫剤が効かないタイプの害虫*6が入ってきて、大変困ったこともありました。

[*3 商品名:アドマイヤー1992年に農薬登録、*4 商品名:モスピラン、*5 商品名:ベストガード、*6 タバココナジラミの新しい系統]

温室のナスの花。その間をマルハナバチが飛び交っていました。

このように抵抗力のつきやすい「害虫」の防除にとても苦慮していたところ、それらを高知県にもともといる天敵*7が食べてくれるということがわかり、また他の「害虫」(アブラムシ、ハモグリバエなど)にもそれぞれに天敵がいて、だんだん天敵活用が軌道に乗っていったそうです。

[*7 タバコカスミカメ]

現在、もう基本的にネオニコチノイド系農薬は使わないそうですが、一年に一回限りで使ってしまうケースがあるそうです。

このグラフは、高知県の、ナスとピーマンで天敵をつかった農業を行っている面積の割合を表したもの。

(高知県資料より)

このグラフは平成23(2011)年までですが、2014年秋にはナスも97%に達したそうです。

4. 虫たちとともに解決していく、労力、コスト、農薬抵抗問題

県が農家の方へアンケートをとったとき、一番しんどい作業は「殺虫剤を散布すること」だったそうです。
暑い温室の中で、マスクをしてカッパを着て、殺虫剤をまくのは重労働。高齢の方には危険さえある作業です。

化学農薬のみに頼ったままでは解決できなかったこの「労力」や、「害虫の抵抗性」、「コスト」の問題。天敵昆虫の力を利用する農業でこれらの問題に挑戦し、試行錯誤を繰り返しながら、高知では次第に克服していっています。

そして、農薬では手に負えなかった、東南アジアから来た害虫が、最終的には実質ゼロ(探しても探しても見つからない)になったそうです。

 

 (高知県安芸農業振興センター資料より)

5.農家さんにも消費者にもwin-winに

昆虫による受粉と天敵を使う「エコシステム栽培」さらに農薬を最小限にした「特別栽培農産物」はこんなマークをつけて売られています。
今では出荷される高知ナスの97%で天敵農法ということですから、このマークがついているか、見てみてください。

今、農家の皆さんは、真夏のように暑い温室で農薬をまく重労働から解放され、代わりに天敵や受粉のハチの働き具合を毎日見て確かめたり調整したり、天敵を野山に採集にいったり、夏場には空いたハウスで天敵を養ったりしています。

農家さん同士で情報交換して詳しくなって、みなさんどんどん天敵の専門家になっているそうです(天敵を素早く見つけるために動体視力を養おうとバドミントンを始めた農家さんもいるとか)。

昨年秋には、高知大学発のベンチャーで、土着の天敵を育てて農家さんに届ける地元のビジネスもスタートしています(注1)。

ハチや土着の天敵たちの力をかりて、化学農薬の支配を離れていく農業。
それは消費者にとってもうれしい方向です。化学農薬の使用をさらに減らしていけることを期待しつつ、こうした取り組みを応援していきたいですね。

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 なお、国内各地でも、無農薬の栽培はマークをつけて消費者にわかるようにしているところがあります。
全国の農産物エコラベル一覧はこちらをご覧ください。

注1) 高知新聞 2014年5月7日朝日新聞2014年9月21日

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