クジラ肉裁判「知る権利はゆずれない」
© Jeremy Sutton-Hibbert / Greenpeace
2008年にグリーンピース職員2名が多額の税金が投入されてきた調査捕鯨におけるクジラ肉の不正を告発して、その不正を改善させたにも関わらず、逆に逮捕されてしまった事件を聞いたことがありますか?
「不正そのものを厳しく罰することと、不正を指摘した人を厳しく罰すること、どちらが民主的な社会につながるのでしょうか?」と問いかけ続け、グリーンピースは3年間にわたり市民の権利を裁判所で争いました。
2010年には、水産庁がクジラ肉の不正を認め謝罪しましたが、2011年7月12日仙台高裁は、不正を指摘したグリーンピースの職員に対して青森地裁の懲役1年・執行猶予3年の判決を維持する決定を下しました。
グリーンピースは、この判決を不当なものと考えますが、調査捕鯨の不正が認められたこと、さらに裁判所が判決に至るスピードでは市民社会の形成や環境問題の解決にはつながらないことから、国際環境NGOとして限られた資金や人材を有効に活かすべく、環境破壊の現場での活動に集中することにし、最高裁への上告をしない決定をしました。
事件の経緯
2008年1月、捕鯨船の元船員さんからグリーンピースに内部告発がありました。
内容は
© Stevi Panayiotaki / Greenpeace
- 大量のクジラの肉を捨てている
- かなりの量の肉を船員さんが個人的に盗み、横流ししている
そこで、クジラ肉の横流しを証明しようと、捕鯨船が日本に帰ってきたときにグリーンピースが調査をしたところ、船員たちが隠すように自宅に送っていた大量の高級クジラ肉入りの箱を発見。
そのうちの1つを証拠として確保して捜査機関に捜査を依頼したところ、それが窃盗だとして、逮捕・起訴されたものです。
2009年9月に青森地方裁判所で結審した裁判では、税金で行っている調査捕鯨においてクジラ肉の不適切な扱いがあったことを認めながらも、クジラ肉を横流ししていた船員を罪に問うこともなく、グリーンピース側に、懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を下しました。
その後水産庁は2010年12月22日に記者会見を開き、調査捕鯨船の運航会社である共同船舶株式会社から水産庁の職員が無償でクジラ肉を受け取っていたとして謝罪するとともに、関与した職員5名を懲戒処分としたことを発表しました。
2011年7月12日、仙台高裁はグリーンピース側の控訴を棄却。
2011年7月26日、最高裁に上告しないことを決定
グリーンピースの主張
- 市民、NGO、ジャーナリストの公共の利益にかなう行為(税金事業における不正の指摘など)は、やむを得ずに刑法に触れることがあっても、厳しく罰すべきではない。
- 公共の利益にかなう行為を罰することによって、社会は不正を見逃すことを「良し」としてしまう。
罰すべきは、不正そのもの。
青森地方裁判所の主張
- 調査捕鯨船内の鯨肉の扱いに不適切な部分があった事は認める。
- しかし、いかなる行為であっても、刑法に触れる行為は違法。
世界の反応
このクジラ肉裁判に対して、国連機関や著名人からも多くのコメントが寄せられています。
-
© John Cobb / Greenpeace
国連人権理事会の作業部会
「市民は公務員の不正が疑われる場合にはこれを調査し、疑惑を裏付ける証拠を明らかにする権利を有している。(中略)佐藤潤一氏及び鈴木徹氏両名の身体拘束は恣意的で、世界人権宣言第18ないし20条、並びに日本も批准国である市民的及び政治的権利に関する国際規約第18条及び19条に違反するものであり、…」 日本語訳全文を読む(PDF) >>
- 伊藤真 (弁護士・伊藤塾塾長)
日本の裁判システムの質が問われる事件です。
事件を矮小化させて収束させることなく、問題の背景と全容が裁判をきっかけに国民の前に明らかにされることを期待して応援しています。
私たちは権力の監視こそが民主主義の本質であることを忘れてはなりません。
この他、数多くの著名人が世界中からこの裁判をサポートしています。
一審判決後の各メディアの報道
「裁判は、形式的には違法な行為が、公益目的のNGOによる調査活動では表現の自由としてどこまで正当化されるのかに注目が集まっている。(中略)
調査捕鯨は国際社会の理解を得ながら行うべき事業。
1審の審理で明らかになった疑念の解明が、控訴審では求められる」
(毎日新聞 2010年9月20日 時流底流 鯨肉疑惑 2審で解明を)
「目的のために手段は正当化されるのか。
この裁判は、古くて新しい問題を社会に投げかけている」
(朝日新聞 2010年9月7日 鯨肉持ち出し有罪 青森地裁判決 「告発のため正当」認めず 「公益のための触法」許される余地は? 欧州では有罪取り消し例も)
他、多くのメディアで同様の趣旨の報道がされました。
資料
告発レポート第1弾「奪われた鯨肉と信頼―『調査捕鯨母船・日新丸』での鯨肉横領行為の全貌」
日新丸関係者からグリーンピース・ジャパンの事務所へ入った一本の電話。
それは、調査捕鯨という国営事業の裏で、船員や水産庁関係者を巻き込み毎年のように行なわれているクジラ肉横流しの情報でした。
その情報をもとにグリーンピースがはじめた調査、横領の証拠となるクジラ肉の確保、そして東京地裁に対する告発までのレポートです。(2008年5月15日発行)
PDFダウンロード >>
告発レポート第2弾「塗りつぶされた鯨肉横領スキャンダル―『調査捕鯨』の利権構造に迫る」
2008年5月、調査捕鯨船団乗組員によるクジラ肉横流しの疑惑が明らかになった後、水産庁と捕鯨関係団体はどのように対応したか――。
前後で矛盾する説明や、水産庁が真っ黒に塗りつぶしたクジラ肉販売の実績表から、水産庁が官僚の既得権益である「調査捕鯨」をやめられない理由をレポートします。(2009年3月発行)
PDFダウンロード >>
告発レポート第3弾「クジラ肉裁判」
クジラ肉裁判の過程をまとめたものです。順次更新していきます。
クジラ肉裁判
PDFダウンロード >>
「クジラ肉裁判」関連のビデオ
http://www.youtube.com/user/greenpeacejapan#grid/user/4D2A50881400556F