ママうみ座談会 第5回
「安全でおいしいお魚を消費者に提供するために」
2012年11月15日
お魚の放射能調査は継続
花岡: 大野さんと初めてお会いしたのは、今年(2012年)の6月初めに安全な食の提供を目指す飲食店などが立ち上げた「飲食セーフティーネットワーク」の第1回シンポジウムの会場でしたね。そこで大野さんは漁業者や流通の立場から徹底した安全性を追求するプレゼンテーションを行い、私はグリーンピースとして、政府が機能不全な中で生産者と消費者を守ることができるのは小売や飲食店であり、それを動かすのが消費者であることを話されました。お互いのプレゼンテーションが終わった後ですぐに歩み寄り、意気投合したのを覚えています。そこから話が進み、8月からは千葉県で水揚げされるお魚を対象としたグリーンピースの放射能調査のサンプリングにご協力いただいています。
大野さん: 千葉県の漁港では県の職員がサンプリングに来るのが2カ月に一度だけというところも多く、その際の検体数もたった1サンプルだけという始末です。また、安全基準100Bq/Kgにし ても、信憑性がまるでない。国や県の取り組みは明らかに不十分ですよ。震災以降グリーンピースが続けている海洋調査や活動や主張には一貫性があり、地場産業である漁業や流通業に携わる者として、また小さな子どもを持つ親として、深く同意できる部分がたくさんあり、ぜひ協力したいと思いました。
花岡: 大野さんにご協力いただき調査を始めてから3カ月が経ち、既に4回分の調査結果を発表し、いまは第5回調査結果の発表に向け準備をしているところですが、大野さんから提供いただいたサンプルからは放射性物質が検出されたケースはこれまでゼロ件ですね。
大野さん: :放射能には、においも味もなく見分けがつきません。検査を続け数値を公表し続けていくことでしか、消費者の魚へ対する安心感を取り戻し、漁業者や加工・流通業者の職を守ることはできないと思っています。国や県が行う場当たり的な調査だけではなく、グリーンピースが主張するような生態系全体を対象とする調査を強化する必要があると思っています。
花岡: 大野さんは、グリーンピースでの調査に協力していただいているほか、ご自身でも第三者機関を通して検査していますよね?
大野さん: ただ漠然とサンプリングして検査するのではなく、獲られた場所、種類を考慮して検査に出しています。検査は月に10検体を目標に、少ない時でも6~7検体。平均8検体ですね。あと、本当に闇雲な検査でなく、ムール貝、さざえ、アワビなど、ほとんど動かないものを検査することで、その周辺の汚染を知ろうとしています。
花岡: そこが県や自治体主導の検査と違うところですよね。どの海域を泳ぐ魚が何を食べているか、その餌となる魚はどの時期にどの海域を泳いでいたか、そういうことを考えて検査するお魚を選ぶ。漁業に携わる方ならではの観点ですよね。
大野さん: 房総のおいしい魚を多くの方に味わってほしいし、グリーンピースのような第三者機関が検査してくれることが大事だと思っています。正確な情報を公開することで風評被害をおさえていきたいという強い思いもあります。
次の世代のためにも調査結果のデータは残す
花岡: 大野さんは独自検査をして、産地表示もしっかりしているので、これこそ消費者が求めている「安心して選んで買える」ことだと思います。でも民間企業が検査を続けることは、負担も大きく大変なのでは?
大野さん: そうですね。民間で調査を継続するのが難しいので、国や県に主導していただきたい。でもそのような体制が整っていないので、自分たちのような民間が、あるいはグリーンピースのような第三者機関が、検査し続けているんですよね。うちは、ISO9001を取得しているし、トレーサビリティーは工場内にカメラをつけるほどの徹底ぶりです。そういう会社が放射能検査をしないで、食の安全を確保していると言えるのかと感じたため、社長にも協力してもらって、今の検査体制を確立しました。自分がここにいる限りは、放射能検査は続けていくし、引退しても後輩には伝えていくつもり。国や県は、放射能への市民の不安が自然消滅すると思っているのだと思います。この放射能汚染は1年、2年で終わらないだろうし、子、孫の代まで関わる問題なので、その世代のためにもデータをきちんと残して、産地や汚染の記録をしっかり残したい。
花岡: 大野さんのように、検査をして、結果を公表し、どこでとれたかがはっきりしている魚が、どこのスーパーでも買えるようになるといいですね。
大野さん: 自分は放射能検査をして卸先に情報を伝えていますが、これからはレストランやお店にだけでなく、一般消費者の方に検査結果をウェブサイトで発表したり、グリーンピースが調べたものを公表して、個人宅へ安全な魚を届けることを始めようとしています。
消費者の不安を解消
花岡: 数値を公表し続けて、風評被害を減らす、つまり消費者の不安を解消することが、漁業復興の実現に必要不可欠ですよね。
大野さん: 自分のところにも消費者から多くの声が寄せられますよ。内容は、「食べたいけど怖くて食べられない」、「子どもに食べさせられない」とか。
花岡: グリーンピースにも同じような声が届きます。大野さんはどのようにアドバイスしていますか?
大野さん: 何が怖いのか」をまず聞くようにしています。そのうえで、各家庭で放射能の安全基準値を決め、(例えば大人なら5Bqまで、子供は0Bqなど)何が怖いのかはっきりさせて、そのルールに沿って食べ物を選ぶのが最良ではないかと。ルールを設けずにただ怖いと言うのは、魚屋にも漁師にもある意味失礼じゃないかと思います。
花岡: 僕にも5歳になる息子がいて、息子には放射能汚染の心配がないものを食べさせたいと思うのですが、逆に僕の両親は「ある程度の数値が出ていても食べるので、子どもや孫たちには、なるべく低いものを食べさせたい」と言っています。政府が示す安全基準の信憑性がないいま、基準は消費者それぞれ違っているのが現状。だからこそ、スーパーなど消費者が魚を購入する場での食品表示の強化が求められますよね。
大野さん: 私も花岡さんのお子さんと同じ年の子どもがいるので、日々不安があります。この辺りの地元の魚屋さんやスーパーでは、ベクレル数は表示していませんが、県名だけでなくどこ地区の港でとれた魚かまで、はっきりと書いてあるので、うちの魚なら検査がされていると言うことが分かるようになっていますよ。
花岡: 僕もここに来る前に地元のスーパーに寄って、魚売り場を見てきたのですが、漁港名まで表示されていて驚きました。そういうのって、大手スーパーだと難しいんですかね?
大野さん: そうですね。少なくとも東日本で水揚げされる魚は、全ての地域でしっかり詳しい表示をするべきだと思います。
花岡: その通りですね。
大野さん: 政府や自治体が主導してやれば、すぐにできることですよね。
花岡: 私も政府への交渉を続けてきましたが、実際は政府は驚くほど腰が重いので、市場を消費者や生産者が動かせたらと思うのですが、スーパーや小売店がどうすれば変わるでしょう?
大野さん: 小売店が怖いのは、それを発表して自分の商売が出来なくなったらということです。そこで私が、「そうやって食べさせたもので、お客さんが病気になったらどうするんですか?」と聞くと皆さん黙ってしまいます。安心、安全は一つのビジネスだと考えるべき。安全なものを売る。これが一番大切です。
花岡: スーパーなどが、安心安全をビジネスとすることができるようになるためにも、消費者も普段お魚を買うスーパーなどに、もっと自分の求めている商品やサービスがどのようなものであるかを、声を上げてくことが重要ですね。それは決してバッシングや苦情などといったネガティブなものではなく、お気に入りのスーパーの成長を支えるポジティブな活動です。
大野さんにご協力いただいて行った放射能調査結果はこちら >>
(ママうみ座談会は、毎週木曜更新です。 )
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