世界中で多くの市民が穀物の価格高騰に悲鳴をあげ、私が把握しているだけでもすでに22カ国で食糧不足が引き金となって暴動が起きた。この世界的な「食糧危機」に対処すべく世界食糧機構(FAO)がこれまで事務官クラスで話し合っていた各国間会議を、今回、首脳を呼んでの食糧サミットとしたことは現在の問題の深刻さを語っている。
 


日本から福田首相も参加して6月3日から5日まで開かれたこの会合だったが、残念なことに、利権がからんだ各国の主張が続き、問題を解決するに足る強い合意を得られることなく終わった。
 

先進国は緊急援助をすでに開始している。そのほとんどが資金的な援助だが、アメリカ主導で議論を巻き起こしているのが「遺伝子組み換え」による援助。バイオ燃料と食糧危機の関連性について、サミットの席上で、アメリカは「たくさんある要因のなかのたったひとつにしかすぎない」と直接の因果関係はないと主張を続けたが、その国際的立場は苦しい。
 
 




実は、「遺伝子組み換えによる援助」は今にはじまったことではなく、過去にアメリカがメキシコに向けて行ったFOODAID(食糧援助)で遺伝子組み換えトウモロコシをばら撒き、問題になった。
 


このとき、遺伝子組み換えトウモロコシを粒上ではなく、植生が不可能なように挽いてほしいというメキシコ側の要求に、アメリカはNOと言っている。アメリカは、どうにかしてこの遺伝子組み換え種子を地球上に蔓延させたいらしく、あの手この手を使ってその種子の推進策のチャンスをうかがっている。
 


粒で輸出された遺伝子組み換えトウモロコシは、食べものであると同時に種子であるため、日本でも見られるような、こぼれ落ちによる自生などのおそれがある。食べものが十分に手に入らないところでは、一部は食べ、そして一部は農業用に使おうと思うのは自然なことなのだが、それが遺伝子組み換え種子であると事態は異なる。 
 


この遺伝子汚染がいったいどの位広がっているのか、現在まで世界には国際的な監視システムがないため、その全貌がわからないというのが遺伝子組み換え汚染の実態だ。(グリーンピースはGene Watch UK(NGO団体)と一緒にこれまでに世界で広告された遺伝子汚染の総合サイトを3年前に立ち上げている。このサイトが世界で唯一、遺伝子汚染状況の実態報告を行う:ウェブサイト
 
 




ここではっきり伝えておきたいのは、遺伝子組み換え作物の導入、普及は食糧危機を救わない、ということだ。遺伝子組み換えは過去10年、一部の国(アメリカ、カナダ、ブラジル、アルゼンチン)で大規模にすすめられ、「飢餓を救う」または「収量が上がる」との謳い文句がまことしやかに喧伝されたが、それは世界の飢えを止めるどころか、今回の食糧価格高騰の間接的原因にさえなっている。
 


また作物は収量があげるだけでは飢餓の、問題は解決ない。問題は世界の食糧の公平な配分にある。現在のところ、遺伝子組み換え作物は世界の貧富の格差を助長しているとしかいいようがない。
 

また、モンサント社が開発したラウンドアップレディという除草剤耐性の特性を持つ遺伝子組み換えダイズは非組み換えダイズよりも10%収量が下がるという数年のデータをまとめた研究結果もでている。(注1)
 


今回のFAO主催の食糧サミットは世界の飢餓と食糧安全保障を話しあうべき場であって、遺伝子組み換えを話し合う場ではなかったはず。遺伝子組み換え作物を生産する巨大企業の思惑に惑わされることなく、問題の本質を見つめる必要がある。
 


この世界的食糧危機を回避するために遺伝子組み換え技術は必要なく、いま、この危機に際し、私たちに必要なのは、飢えを引き起こしている世界に広がる不平等性をなくすような世界共通の方針だと私は思う。
 
 



注1)There has been concern regarding yields ever since RR soya was first commercially planted in the US in the late 1990s’. Scientific analysis, published in 2001, clearly shows that yields of RR soya are suppressed by 10 % ((1) Elmore, R.W., Roeth, F. W., Nelson, L.A., Shapiro, C.A., Klein, R.N., Knezevic, S.Z. & Martin A. (2001) Glyphosate-resistant soybean cultivar yields compared with sister lines. Agronomy Journal, 93: 408-412. )  studies demonstrated that “a 5% yield suppression was related to the gene or its insertion process and another 5% suppression was due to cultivar genetic differential”. They conclude that “the yield suppression appears to be associated with the Roundup Ready gene or its insertion process rather than glyphosate itself” (1).