鳴り物入りの洞爺湖G8サミットが終わった。300億円とも600億円ともいわれる巨額な経費をかけた主要国家首脳の合コンは、大山鳴動してネズミ1匹どころか、自分の足元のハエも追えない(京都議定書第1約束期間の削減目標6%の達成にさえ苦戦)日本がリーダーシップを気取ろうとして、未来に二つの大きな禍根を残した。

一つは、原子力が地球温暖化対策の切り札だという妄想を、これまでにない強さで追認したこと。原因の一端は、気候変動を否定し続けて体面を保てなくなったブッシュ政権の破れかぶれな原発新造路線にある。トウモロコシ原料のバイオエタノール大増産を国策にして世界的な食料危機の引き金を引いたのと同じ、政権末期の場当たり的な愚行だ。

しかし、米国の原発建設に日本国民の税金から保険を貢ぐ日本政府の後押し[*]がなければ、そんな愚策も成り立たない。むしろ、世界を出口なき原子力の隘路に引きずり込もうとしている本当の元凶は、六ヶ所再処理施設や高速増殖炉もんじゅに代表される隘路で身動きが取れず(エネルギー研究開発予算の6割以上がプルトニウム利用に回る)、それがゆえに真の温暖化対策も進められない日本である。幸いサミットでは合意に至らずにすんだが、「原子力ルネッサンス」は「大東亜共栄圏」と同じくらい有害な妄想として、これから日本と日本人の責任が問われるだろう。唯一の実戦被爆国が、なぜここまでなし崩しの国策に引きずられてしまうのか――「過ちは繰り返しませぬから」というヒロシマの誓いが泣いている。

大手電力10社でつくる電気事業連合会はサミット前、日経新聞の地球温暖化特集にクイズ形式の大広告を出して、温暖化対策に効果的なのは、1) 原子力、2) 石炭火力、3) せきゅうかりょく、4) 原子力のうちどれかと問い、正解は答えが2つ出ている原子力だと主張した。G8諸国を含む多くの国で、エネルギー供給の数10%をまかなう計画が着々と進む自然エネルギーは、選択肢にすら入っていない。子どもでも吹き出しそうな低次元のプロパガンダが主力経済紙を飾るこの惨状こそ、第三、第四の敗戦を招きつつあるし、若者が未来に希望を持てない原因の一つでもあると思う。

▼参考資料『原子力は地球温暖化の抑止にならない』日本語ブックレット
http://www.greenpeace.or.jp/campaign/enerevo/
news/files/booklet.pdf


もう一つの害悪は、同じく気候変動と食糧危機を理由に、遺伝子組み換え作物の栽培を大々的に広げようという方針だ。最悪なのは、気候変動と食糧危機を招いている張本人たちが、遺伝子組み換え技術の利権を握り、火事場でひと儲けをたくらんでいる点。まず第一に、遺伝子組み換え作物の栽培は、アメリカを中心とするごく少数の巨大バイオテクノロジー企業から毎年、種子や専用農薬を買わなければ成り立たない。自家採種で続いてきた世界各地の伝統的な農の営みが崩壊し、家族単位などの小規模農業は消え去るだろう。しかも、遺伝子組み換え作物は当初の効能(農薬の使用回数が少なくていい、など)や収量が持続しないため、温暖化も食糧危機も根本的には解決してくれない。おまけに、その栽培による生態系への悪影響は、意図せざる種子の飛散や遺伝形質の伝播に見られるとおり、一度パンドラの箱を開けてしまうと取り返しがつかない。そして最後に、そのような作物からつくられた食品は、人間の食べ物や動物の飼料として本当に安心できるものなのか、長期間摂取した場合の影響評価データもなく、まだ確証が得られていない(アレルギーその他の健康被害を指摘する研究報告もある)。

せっかくこれまで遺伝子組み換え作物の商業栽培を認めてこなかった日本が、なぜアメリカの尻馬に乗って「温暖化と食糧危機解決の切り札は遺伝子組み換え!」の音頭を取るのか、理解に苦しむ。いま日本に必要なのは、地産地消をはじめ、食料自給率を思いきって向上させることのはずだ。そこに遺伝子組み換え作物の出る幕はない。逆に、米国産のトウモロコシや大豆が知らぬまに日本の食卓にのぼる原因となった穴だらけの食品表示制度を改正し、遺伝子組み換え食品まみれの現状を改善していく努力こそが求められる。

▼参考資料『モンサント社7つの大罪』日本語版
http://www.greenpeace.or.jp/campaign/gm/
documents/monsanto.pdf


火事場泥棒を見破ろう!

[*] 日本貿易保険は対外取引の発展という政策的見地で創設された公的な保険で、資本金は100%政府出資、つまりは税金。途上国向け貿易を対象としていたが、米国への原発輸出を見込み、先進国向けも利用できるように「改悪」されようとしている。