飯嶋和一著『出星前夜』(小学館)は、なかなか読めないでいるうちに大佛次郎賞を受賞してしまった。休暇に入ってすぐ読了。期待にたがわぬ手ごたえだが、惜しむらくは女性が描けていないと思った。審査員のだれひとり、この点を指摘していないのは不思議だ。

人の言わないことが気になるのは歳のせいか――。今年の思い出ふたつ。

10月に開催した「国際海洋環境シンポジウム2008」で[*]、日本の漁業をめぐる問題点にざっと触れたあとのパネルディスカッションで、司会者が「危機的な事態の打開に向けてだれが何をすべきか」質問したところ、日本からのパネリストはNGOにまったく言及しなかったのに対し、海外からのパネリストは口を揃えてNGOの役割を強調した。いまなお、日本社会がいかにNGO市民セクターを軽視しているかを痛感させられた。

元自衛隊航空幕僚長の田母神俊雄氏が在籍中に書いた“愛国”論文について、本人は「いまのような歴史観では自衛隊員が誇りを持てないから」というような動機を述べている。これに対してしっかり釘を刺すコメントを聞いたことがない。民主社会の軍隊(自衛隊は正式には「軍」ではないが、政府が独占する最大最強の暴力装置として軍隊に準ずる)は憲法をよりどころとする以外、アイデンティティも誇りも持ちうるはずがない。それこそが文民統制の根源であり、民主社会にそこから外れた国営武装集団など存在してはおかしい。

イラク戦争前夜、友人たちと招いた米海兵隊員で元国連大量兵器査察官のスコット・リッター氏は、「軍人としてのよりどころは米国憲法だし、憲法にもとづいて政府の過ちを正さなければならないときもある」と明言していた。かつては同じく日本国憲法を規範とし、言動にタガをはめる自衛隊関係者の矜持(きょうじ)が見られた。

2009年を、いろいろな意味で日本社会の(再)民主化元年にしよう!


[*] シンポジウム報告サイトwww.greenpeace.or.jp/campaign/oceans/susea/event_html