年が改まる前にぜひご紹介したい本が2冊。

●『冬の兵士――イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』

反戦イラク帰還兵の会+アーロン・グランツ著/TUP訳(岩波書店、1900円+税)

http://www.iwanami.co.jp/cgi-bin/isearch?isbn=ISBN978-4-00-024651-4

副題どおり、9.11事件に逆上したブッシュ政権による大義なき2つの戦争に駆り出された米軍兵士たち自身が、魂の苦悩の中からしぼり出すように、そして賞賛すべき勇気をもって語った証言集。題名の「冬の兵士」(Winter Soldier)とは、米国の独立戦争時、13の植民地を率いて英王国に反旗をひるがえしたジョージ・ワシントン将軍(のちに第1代アメリカ合州国大統領)の軍隊が、生死と勝敗を分けた1777年の辛い冬越しにくじけそうになったとき、名高い檄文『コモンセンス』で独立革命の精神的支柱の一人となったトマス・ペインが、「いまこの試練に耐えて戦い抜く“冬の兵士”こそ本物の愛国者」と激励した故事にならう。

本書は、ベトナム戦争が泥沼化した1971年に、やはり帰還米兵たちが行って戦争の終結を決定づけた「冬の兵士公聴会」にちなんで、2008年3月、数百人のイラクおよびアフガニスタン帰還米兵が参加して開かれた体験証言集会「冬の兵士 イラクとアフガニスタン」の記録だ。

2001年のアフガン侵攻前夜、坂本龍一さんや枝廣淳子さん、田中優さんたちと2週間で『非戦』(幻冬舎)をまとめ上げ、2003年のイラク侵攻前夜には、国連の大量破壊兵器査察官として長年イラクの調査に従事した米海兵隊員スコット・リッターの『イラク戦争』(合同出版)を訳したり、池田香代子さんたちと力を合わせてリッター氏を日本に招いたり、本書の翻訳を担当したインターネット配信グループTUP(Translators
United for Peace=平和をめざす翻訳者たち)[*]を創設したりした私にとって、残念ながら本書の内容に大きな驚きはない。

力づくの間違った戦争で他国・他民族の征服者となった占領軍が、それと知らずに兵役に就いた人間にどれだけの不条理を強いるものかは容易に想像がつく。その意味でむしろ私が驚かされるのは、現在もなお2国の事実上の占領状態が続いていて、それを是とする人びとがいることと、従軍した兵士たち自身の中からそれを否とし、赤裸々な罪状と惨禍を語る人びとが出てくる米国民主主義の奥深さである。同じ占領の一端を担い、あるいは戦闘に赴く米兵を空輸した日本の自衛隊員の中から、一人でも内部告発者が現われただろうか。

とにかく、本書に収録された55人の証言(イラクの一般市民や戦死米兵の父母を含む)をぜひご一読いただきたい。かつて私たちの国も同じ過ちを犯したし、油断すればまたいつ犯すかわからないのだ。それに、本書で告発された罪状を、日本国内の米軍基地と日米同盟が支えてきた側面も忘れてはならない。

本書の刊行直後には、米兵の一人を招いて日本各地で証言集会が行われた。TUPを引き継ぐ友人たちから本を送られていたのに、このブログで紹介する余裕がなかった。タイムリーな協力ができなかったことをお詫びする。

[*] TUP速報

http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/

TUP 冬の兵士プロジェクト
http://www.tup-bulletin.org/

●水越武写真集『熱帯の氷河』(山と渓谷社、5400円+税)

http://www.yamakei.co.jp/products/detail.php?id=550020

日本を代表する自然写真家の一人である水越武さんは、環境危機に直面するロシアのバイカル湖をテーマとした作品などでグリーンピースに協力してくださった。このたび、10数年がかりで完成された力作が本書。タイトルどおり、地球温暖化によって激変する熱帯地方の自然と氷河に焦点を合わせ、気候変動の科学でも見逃されがちな“南”からの視点を提供してくれる。