ベアリングウィットネス‘目撃者として立ち会う’-非暴力行動を通して



じつに7000キロ、15日間にも渡り日新丸を追跡することになりましたが、この間南極海クジラ保護区では捕鯨は一切行われず、保護区は本来の機能を取り戻すことができました。
この15日間の間、日本では捕鯨問題に関する報道がほぼ連日のようにあり、この問題を知っている人はかなりふえたのではないでしょうか。

この私たちが行った追跡活動は、ベアリングウィットネス‘目撃者として立ち会う’と呼ばれる非暴力行動の一つで、問題が起こっている現場に直接立ち会いそれを目撃し、さらにグリーンピースはその状況を記録し、世界に伝えるという方法で今までも様々な環境破壊から地球をまもってきました。

古くはアメリカやフランスの核実験に反対し、グリーンピースの船がその実験海域に乗り入れ、この行動が大きく報道され反対運動が高まり、予定されていた核実験の一部を中止へと導きました。

1993年には旧ソ連が日本海で核廃棄物を捨てているところを、グリーンピースの船とそのクルーが‘目撃者として立ち会い’その衝撃的な映像は日本のお茶の間にも届き、覚えている人も多いかもしれません。(この約一ヶ月後の条約会議で核廃棄物海洋投棄の国際的全面禁止が決まりました)

今回の南極海でエスペランサ号は、この‘目撃者として立ち会う’という原則に徹しました。

国際的に決められた‘南極海クジラ保護区’という海域で、絶滅危惧種を含むクジラを捕殺する日本の捕鯨船団は、グリーンピースの船が現れるとすぐに捕鯨を中止し、予定捕鯨海域から退去していきました。
クジラを捕殺しているところを私たちに撮影、記録されるのは免れた捕鯨船団でしたが、追跡のあいだエスペランサ号から世界中に配信した日新丸の動向は、大きなニュースとなり捕鯨に関する世の中の関心を高めていくことになりました。

この‘目撃者として立ち会う’ときに重要なのは非暴力をつらぬくことです。
たとえ相手が危険で暴力的なことをしようとしてきても、その場から離れず‘目撃者’であることに徹します。暴力で対抗しては解決には至りませんし、世間の関心も暴力的な事柄に向いてしまい、解決したい問題の本質をずらしてしまいます。

またいかに透明性のある正しい情報を世界に向けて発信するか、というのも重要な点です。
今回エスペランサ号には中立のジャーナリストが乗船し、独自の取材をしてもらいました。このBBCの特派員は水産庁にも連絡を入れ、日新丸に乗船しての取材を申し入れましたが断られてしまったそうです。
また船にとりつけた複数のウェブカメラからはインターネットを通じて、撤退していく日新丸の姿を見ることができました。
一つのカメラは常にエスペランサ号の操舵室をうつし、私たちが無線で日新丸に呼びかけているところなども見ることができたはずです。
これも起こっていることをあるがままに伝える取り組みの一つです。

このように‘目撃者として立ち会った’私たちの活動の成果もあり、この捕鯨問題は今までにないほど日本で議論されるようになってきました。今こそ建設的な議論を行い、私たち日本人の手でこの問題を解決していけたらよいとおもいます。

最後に‘エスペランサ’はスペイン語で“希望”という意味です。

エスペランサ号の活動に触発されイギリスでは14歳の少女が日本大使館に抗議行動を行いました。
圧倒的な国際世論の反対にも関わらず、南極海での捕鯨に固執する日本に絶望している人も多いかもしれませんが、まだ‘希望‘を持っている人も多くいます。

そして今まで日本ではタブーのように扱われてきた捕鯨問題に対して、反対意見を聞くことはまれでしたが、最近新聞などでだんだんと反対の声を聞くようになってきました。
この反対の声に共通する一つの思いは、日本政府には世界に胸をはれるような政府になってもらいたいという‘希望’の思いではないでしょうか?

このような人々の‘希望’がある限り、‘エスペランサ- 希望号’は環境破壊を止めるためにどこまでも航海していきます。