シリーズ 「NGOの役割を再考する」

第2回 アベノミクスが破壊するもの

4月22日はアースデイだ。

しかし、今の日本では「地球」のことよりも、「景気」を気にする人の方が多いのが現状だろう。

特に「アベノミクス」という言葉が踊るようになり、景気に一喜一憂する傾向は強まっている感がある。

アベノミクスをさまざまな観点から危惧する人は多い。私もその一人だ。

そこで今回は「経済とNGO(非政府組織)の関係」について再考し、私がアベノミクスを危惧する理由と、なぜグリーンピースが大企業に働きかけているかを述べたい。

 

デヴィッド・スズキ氏の話

カナダで「最も偉大な人物」に選ばれた環境問題の専門家で科学者であるデヴィッド・スズキ氏と食事をする機会があり、そこで「経済と環境破壊」についての話となった。

スズキ氏は、ペンと紙をとりだし、3重の円(A)を描き、少し声を強めて「現状は経済がすべてに優先している」と説明を始めた。 

その上で、3重の円(B)を描いた。そして「地球環境の中に社会が存在し、その社会をよくするために経済が存在する。これが大原則だ」と言う。(A)と(B)は同じ3重の円だが、全く反対の構造になっていることに気がつく。

さらに、(B)の地球環境と社会の輪の間に、たくさんの円を描きはじめた(B’)。「ここに生態系という人間社会以外の社会も相互に関係しながら存在する。これも私たちは忘れがちだ」と追加する。

 

経済成長の目的は何か? 

私もこの(B)や(B')の図を見て共感した。

その後、よく考えれば極めて自然なルールを図式化したにすぎないものだと気付き、新しい発見をしたと思った自分にもどかしさも感じた。しかし、今の社会が圧倒的に(A)の状態に近いためにこの当たり前のルールが異常に感じるのだろう。

物質的な成熟を迎えた日本では、経済成長そのものが目的化している。GDPの増減に翻弄されるのもその証拠だ。

私がアベノミクスを危惧するのはこの点からだ。アベノミクスは、(A)の構図をさらに強化していくものに感じる。

 

第一次産業を軽視してはいけない

原発再稼働にしても、TPP(環太平洋連携協定)にしても、社会や地球環境よりも経済利益を優先しているとしか思えない。

致命的だと思ったのは、TPP加入によって第一次産業は大ダメージを受けるが、総合的にGDPはプラスだという試算を政府が発表した時だ。

消費、投資、輸出が増えることでGDPを0.66%押し上げるという。金額にすると3兆2000億円程度だそうだ。一方で、安価な農産品が入ってくることで、農林水産物の生産額は3兆円程度減少するらしい。

第一次産業(エネルギー生産業を含めて)を持続可能にしなくては、生活の根幹である食やエネルギーを遠くに依存しなければいけなくなる。そのような不安定な社会では、あらゆる局面においてより閉鎖的かつ攻撃的な姿勢をとらざるを得なくなるだろう。

第一次産業が不安定な社会は、環境問題だけではなく、格差問題、平和問題などあらゆる社会問題を引き起こすと思う。

 

経済は「成長」よりも「最適化」

NGOなどの市民セクターの役割は、経済優先社会からのパラダイムシフトを起こしていくことだろう。つまりスズキ氏が話していたような(B)の社会を取り戻すことだ。特に物質的な成熟を果たした国では、それは責務に近い。

私は、経済活動を否定しているのではない。また経済発展が現在の物質的に成熟した日本社会を築いたことも否定しない。

しかし今後の日本では、経済を「社会や地球環境のため」に「最適化」していくべきだと思う。そこに市民セクターとしてのNGOやNPOの役割があるのではないか。

私たちグリーンピースが、大企業に働きかけて環境保護への方針転換を迫る理由もここにある。

ちなみに、前回のブログで「会社人より社会人に」と呼びかけたが、その理由もこの図(B)に基づいたものだ。その上で「社会人から地球人」としての視点も忘れないようにしていきたい。

 

※デヴィッド・スズキ氏からは、現在グリーンピースが実施中の「原発にもメーカー責任を」署名にも賛同コメントをいただいている。

 

「NGOの役割を再考する」は、日本のNGO(非政府組織)やNPO(非営利団体)などの市民セクター、またグリーンピースの役割について事務局長の佐藤潤一の意見をシリーズ化しているものです。

 第1回  「会社人から社会人」へのシフトを  (2013年4月3日)

 第2回 アベノミクスが破壊するもの (2013年4月22日)

 第3回 “成長”が目的化する社会の危険性 (2013年5月24日)

 第4回 「ねじれ」が嫌な方へ、「創造的対立」のすすめ (2013年7月3日)