今、このブログを書いている最中にも、フランスでグリーンピースが原発に入ったというニュースが飛び交っている。

日本でも時事通信が「仏原発侵入に成功=『安全神話』打破狙う-グリーンピース」というタイトルで記事を配信したため、Twitterなどでも話題になっているようだ。

しかし、記事が短くその全体像をとらえていないことや、「社会の不正」を訴える手段としての市民やNGOの平和的な直接行動が一般的ではない日本では、「侵入」という言葉だけが先行し、その背景にあるものを理解できないだろうと思う。

そこで、簡単ではあるが、この行動の背景と市民の直接行動の意味について説明したい。

最初に断わっておくが、グリーンピースのこのような直接行動はすべて「非暴力」で行っている。平和的に原発に入り、警備に見つかった時点で、もちろんその指示にしたがう。

 

フランス政府の原発安全プロパガンダ

2012年に大統領選挙を控えたフランスでは、福島第一原発の事故を受け、将来の原発政策をめぐる議論が高まってきている。

しかし、原発を国策として推進しているフランス政府や欧州最大の電力会社であるEDFは「原発の安全対策は万全である」と繰り返すばかり。

今回は、そのフランス政府が「安全だ」と胸を張る原発にグリーンピースが“侵入”できることを示すことで、フランス政府のプロパガンダに挑戦したという構図だ。


原発ストレステストに「テロ攻撃」を含む、含まない?

日本では、原発の「地震」によるリスクが注目される一方で、「テロ攻撃」のリスクはほとんど検討されていない。しかし、欧州では違う。

ドイツが脱原発を決定した背景には、原発の「ストレステスト」でテロリストからの攻撃に耐えられるかどうかを真剣に検討したという事実があるのだ。

結局ドイツは、原発の安全が国民に対して担保できないことを理由に脱原発路線を強めていく。

これは、原発大国フランスにとって、大きな問題だった。

例えば、2011年6月7日版の日経ビジネスオンラインには以下のようなことが紹介されている。

「原発推進側と脱原発側の争点は、原発施設へのテロ攻撃を、審査対象に含めるかどうかだった。想定するテロ攻撃には、米同時多発テロ『9・11』のような航空機を使ったものも含む。テロ攻撃も含めるべきと主張したドイツなどに、反対したのがフランスだった。

ストレステストに不合格となった原発を停止するかどうかなどの最終判断は、各国政府に委ねられている。だが、不合格となった原発には、国内外から不信の目が向けられることは必至だ。フランスとしては、そうした事態は極力、避けたかったはずだ。」


グリーンピース・フランスは、そんなフランス政府が「避けられない形」で対応を迫られる活動として「原発への平和的な“侵入”」を選んだのだと思う。

(フランスでも多くのニュースで取り上げられている)

 

「侵入」と「侵入される原発を安全と国民に宣言」のどちらが社会的に非難されるべきか?

今回グリーンピース・フランスは、大統領選挙という国の政策を決める重要な決定の前に、「原発の安全対策が万全かどうか」は市民の「知る権利」であり、その議論が重大だと判断して直接行動に訴えている。

「原発に平和的に“侵入”すること」と「侵入されてしまうような原発を安全だと国民に伝えること」どちらが社会的に問題なのかという判断をドラマチックに市民やメディアに投げかけている。

この後「グリーンピースへのバッシングが起きるのか」「政府の安全対策へのバッシングが高まるのか」に注目するとフランスの「市民社会の成熟度」がわかるだろう。

最後に、このような行為について欧州人権裁判所は「公共の利益に寄与する市民の表現の自由」として国が市民やNGOを罰することを欧州人権条約違反だと判決を下すことが多いことも日本人には新鮮かもしれない。

それは、このような平和的な直接行動こそが、これまでも多くの歴史を変えてきたことに由来する。

 

さあ、原発大国フランスは、どのように対応するのか、注目だ。

グリーンピース・フランスのWebで、現地の様子が実況中継されている。

 

このブログは、事務局長の佐藤潤一が書いています。

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