昨日、東京で行われた日隅一雄さんを偲ぶ会に出席した。

日隅さんは、大手新聞社の元記者という経歴を持つ弁護士だった。

自らNPJ (News for the People in Japan)という市民メディアを立ち上げ、ジャーナリスト活動も続けていたが、6月12日、癌のため49歳という若さで他界された。

東電福島第一原発事故後、東電と政府の合同記者会見にフリーの記者として参加すること110回、弁護士で記者という厳しい目で、政府や東電への追及をやめなかった。

東電が放射能汚染水を海洋に投棄した際に厳しい追及を続けたのも彼だった。その様子がIWJやニコ生などで生中継されたことで、日隅さんの質問力、追及力が話題となる。

彼の追及がなければ判明していなかった事実も多かったのではないか。

 

日隅さんとの出会い -- クジラ肉裁判

私が初めて日隅さんにお会いしたのは、2008年5月のことだ。

私と同僚(当時)の鈴木徹が税金の投入されている調査捕鯨におけるクジラ肉の横領・横流しを告発し、逆に逮捕・起訴されたいわゆる「クジラ肉裁判」で、「表現の自由」「知る権利」などの観点から弁護をお願いしたことにさかのぼる。

日隅さんが最初に会議室にいらした時のことを今でも鮮明に覚えている。大きめのズボンにサスペンダー、そしてスリッパを引きずりながら優しそうな笑顔で接してくれる日隅さんが、「表現の自由」「報道の自由」を語りだすと目つきが一瞬で変わった。

クジラ肉裁判は、政府の関与する不正に対して、市民やNGOがどこまで不正を追及できるかを問うものだったが、日隅さんが常に強調したのは「主権者はだれか」という視点だった。

「政府が関与する不正よりも、それを追及する市民やNGOが厳しく調査され、さらに報復的に罰せられるというのは、民主主義の社会ではない。主従の関係が日本では逆になっている」と訴え続けた。

<参考: クジラ肉裁判の詳しい経緯などについて

 

日隅さんの主張こそ、国際的なスタンダード

2009年9月、国連人権理事会の作業部会が日本政府に対して私たちの逮捕が「表現の自由」「市民が政府の不正を追及する権利」を保障した世界人権宣言に違反するとして是正勧告を決議した。

日本政府が、この種の警告を国連機関から受けたのは初めてだったため、大きなニュースになるかと期待したが、マスコミの扱いは小さいものだった。 

いずれにしても国連機関が、日隅さんの主張と同様の内容を日本政府に警告していたことは、彼の主張こそが国際的なスタンダードであることを示している。

「政府の不正を見過ごすことが得になるような社会を許してはいけない」と日隅さんが語っていたことをよく覚えている。

<参考:「佐藤と鈴木の逮捕・勾留は世界人権宣言に違反」2010年2月8日

 

合同記者会見での追及は、主権者である市民のため

話を東電と政府の原発事故合同記者会見に戻すが、日隅さんがなぜあそこまで厳しく東電や保安院を追及してきたのか?それには「主権者が市民だ」という強い意識があったからだろう。

合同記者会見において、「主権者である市民のために質問をする」という意識が強かったのは日隅さんを含むフリーのジャーナリストたちだけだったように思える。

大手のマスコミ記者は、むしろ「主権者は政府」という潜在意識が強く、記者会見で発表される内容に対して厳しく追及しなかった。

 

「民主主義」「主権在民」の意味を考え直す

原発に対するデモや米軍オスプレイ配備に関する抗議集会などが頻繁に行われるようになった。また、政府や議員に対して意見を述べる人も増えてきた。しかし、まだ政府や議員に「お願い」するという意識が市民に強いように感じる。

私たちが日隅さんに教わったのはぶれてはいけない「主権者は市民だ」という軸だ。

議員、政府閣僚、官僚は、主権者である市民が税金をだして雇っている人たちだ。市民が彼らに雇われているのではない。

この主従関係を間違わなければ、議員や官僚たちにも積極的に意見を言えるはずだ。もし市民の意見を聞かない議員や官僚がいたら、「主権在民という意味をご存知ですか?」と迫る必要がある。

市民が自分たちに主権があることをしっかりと意識しなおすことこそ、本質的な社会の改革につながると信じてならない。

日隅さんが残したメッセージ「主権者は誰か?」というメッセージはこれからその重要性を増していくだろう。

 

最後に、日隅さんの著書を読んでみることをお勧めする。

 

*日隅さんの敬称を「さん」とさせていただいた。これは、生前、日隅さんが「さん」と呼んでくださいと繰り返しおっしゃっていたことによる。

 

<参考: 徹底分析 日隅一雄 2012年3月30日 映像IWJ>


Video streaming by Ustream

2012年3月30日に、「徹底分析 日隅一雄」というイベントが開催され、私も日隅さんと対談をさせていただいた。映像の42分30秒ぐらいから私と日隅さんの対談です。

 

 

このブログは、事務局長の佐藤潤一が書いています。

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