SPEEDI検証シリーズ(1)

 

先週の金曜日、文科省がSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)データをウェブサイトで公開した。

10月にグリーンピースが情報公開請求していたものだが、公開されたデータには全原発の過去データも含んでおり、非常に興味深い。

これについて昨日、文科省の担当者とも直接話を聞くことができた。

せっかくなので、なぜグリーンピースがSPEEDIにこだわるのか、その理由を文科省担当者から得られた情報もふまえて何回かのブログに分けて説明していきたいと思う。


全原発ですでに使われていた「SPEEDI」

これまで、SPEEDIは原発事故が起きた後にのみ使われるものだという印象があった。

事故後に原発から放出される放射性物質の拡散状況を予測し、住民の避難指示を決定するためのシステムだという認識だ。

しかし、今回公開された過去データをみると、実際に事故が起こるまでSPEEDIが使われないのではなく、これまでも避難訓練実施にともなう事故シミュレーションツールとして使われてきたことがわかる。

つまり、SPEEDIは平常時においても、日本のすべての原発において、事故が起きたと想定し、どの程度の被害がどの範囲に及ぶのかを予測できるという機能も持つのだ。

しかも、計算自体は1回、15分でできるという。

SPEEDIで事故シミュレーションができるということは、専門家であれば何も新しいことではないかもしれない。しかし、一般市民にはまったく知られていない。

ましてや福島原発事故当時の首相や官房長官がSPEEDIの存在を知らなかったと答弁するのだから、一般の人が知っていたことはないだろう。

(図は、今回公開された福島第一原発の事故シミュレーション。昨年行われていた)

 

今も130億円のシステムが無意味に使われている

SPEEDIの開発にはこれまで約130億円の税金が使われてきたという。

また、グリーンピースが情報公開した資料によれば、平成23年度については、約8億円の税金が費やされている。

この高価なシステムが福島原発事故でその役割を果たすことができなかった。機能していれば多くの住民の被ばくを低減できたと思うと非常に残念だし、批判を浴びるのも当然だ。

それではSPEEDIが今何をしているかというと、福島第一原発からの放出放射性物質の拡散予測を毎時間ごとに発表している。

しかし、すでに汚染が広がり、周辺住民が避難している状況で、どの程度の人がこのデータを必要としているのだろうか。アリバイ作りと予算消化的に無意味なデータを供給し続けているとしか思えない状態だ。


「原発リスク」を市民に告知するツールとしてのSPEEDI

これらのことを考えると、SPEEDIの役割を変えるべきだと思う。

SPEEDIで、日本のすべての原発において様々な風向、風速、事故規模(最悪ケースも含む)でどのような被害が予測されるのかを計算し、公表することも役割として認識させるのだ。

つまり、「原発のリスク」を視覚的に住民へコミュニケーションするツールとして使う。

今回の福島原発事故で日本中の市民の放射能への関心は上がっている。市民も十分にそのリスクを把握できるようになっている。



「技術的なストレステスト」ではなく「住民のストレステスト」

再稼働で注目されている「ストレステスト」は、原子炉がどれだけの地震などに耐えられるかというものだ。

しかしこの「技術的なストレステスト」はまったく意味がない。結局、事故の可能性は常にあるからだ。

むしろ必要なのは「原発の周りに住む」ということで住民が受けるストレスをテストすることだと思う。(広範囲に影響が及ぶので、住民とは結局国民全員となる)

原発のためにどこまで周辺住民がリスクを受け入れなければいけないのか、これがわからなければ判断材料不足で説明責任を果たしたとは言えず、フェアではない。

SPEEDIによって最悪の事故をシミュレーションし、その結果に基づき影響の及ぶ住民に対して、リスクをしっかりとコミュニケーションすることが何よりも先ではないか。

そもそも計算が15分でできるシステムを持ちながら、再稼働の議論の前にシミュレーションが行われていないこと自体が隠ぺい体質を象徴している。

原子力行政の姿勢がここにも表れている。


福井県の大飯原発で時間ごとの最悪事故をシミュレーション

そこで提案がある。

すでに再稼働の議論がはじまっている福井県の大飯原発において、福島原発規模のシビアアクシデントが起きたとしたらどうなるかを毎時間、実際の気象条件にあてはめて3か月ほど公表し続けてみてはいかがだろうか?

これによって、周辺の住民は今この瞬間に事故がおきたらどうなるかを実感することができ、原発を再稼働することの本当のリスクを知ることができる。

再稼働の是非が、このようなリスクコミュニケーションなしで進むのはまったくフェアではない。

SPEEDIを事故発生後の拡散予測にだけ使おうとするのではなく、「原発と隣り合わせに暮らすこと」のリスクをコミュニケーションするツールとして使うことこそ、今すべきことだ。

 

次回以降は、過去の避難訓練で使用されたSPEEDIデータの問題点、滋賀県が独自に行ったシミュレーション、玄海原発で最近行われたという避難訓練などについて紹介したい。

 

参考: グリーンピースは、昨年からSPEEDIをリスクコミュニケーションに使うべきと考え、全自治体での利用とデータの住民への公開を求めてきました。SPEEDI検証シリーズ 、ぜひご覧ください。

(0)グリーンピースの要請受けて、全原発SPEEDIデータ 文科省がウェブに公開 (2011年11月25日)

(1)「SPEEDI」をリスクコミュニケーションに使う (2011年11月30日)

(2)SPEEDIの過小評価と滋賀県の独自シミュレーション (2011年12月9日)

(3)初公開! 玄海原発事故SPEEDI、1時間で有明海・佐賀市・福岡市汚染の可能性 (2011年12月22日)

(4)京都府がSPEEDIデータを活用へ 大きな一歩 (2012年2月3日)

(5)大阪、滋賀は今こそSPEEDIを使え (2012年3月17日)

(6)大飯原発でも隠されるSPEEDIデータ (2012年3月27日)

(7)高浜原発事故で、京都が放射能汚染地域に?! (2012年4月3日)

(8) 3か月も隠ぺいされ続ける大飯原発SPEEDIデータ (2012年5月18日)

(9)初公開、大飯原発事故で、京都観光地も汚染の可能性 (2012年5月25日)

(10) 大飯原発:福井県が黒く塗りつぶした放射性物質拡散予測図 (2012年6月19日)


 

このブログは、事務局長の佐藤潤一が書いています。

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