こんにちは。海洋生態系担当の花岡和佳男です。

夏は丑の日もありウナギの枯渇が話題となりましたが、次はとうとうマグロです。特に、日本食を代表する寿司の主役とされる太平洋クロマグロが、続いてきた乱暴な漁獲・流通・消費により、いま海から姿を消しつつあります。

太平洋クロマグロやその漁業、そしてお寿司やお刺身を次世代に残せるか…。本日2013年9月2日から5日まで、太平洋クロマグロ等の保護・管理について話し合う中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)第9回北小委員会(NC9)が、日本・福岡で開催されています。加盟国は今年こそ、短期利益よりも持続可能性を重視した対策を打ち出し合意できるでしょうか。私は今回、2010年以来3年ぶりに、このWCPFC-NCに参加しています。現場からこのブログで、会議の流れをレポートしていきます。

そもそも、太平洋クロマグロはどれ程減ってしまっているのでしょうか。

資源状態:未開発時の96%が既に海から姿を消した

北太平洋まぐろ類国際科学委員会(ISC)が出した報告書によると、太平洋クロマグロの資源量は乱獲により過去最低レベルにまで落ち、未開発時の4%以下にまで減少したとされています。つまり、残りの96%はここわずか数十年の間に漁獲し消費してしまったということ。更にISCは、同種の資源は親魚量も加入量も双方が減少している恐れがあると報告しており、資源量は今後も更に落ち込む可能性が高い状態にあります。いまや太平洋クロマグロは、長期的な資源回復計画を策定・実施し、資源回復の兆しが見られるまでは一時的に全面禁漁にすべき事態に陥っていると、グリーンピースは考えます。

クロマグロには、太平洋クロマグロ、大西洋クロマグロ、ミナミマグロの3つの種類がありますが、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)では、世界総漁獲量の約97%が日本で消費されるミナミマグロは「絶滅寸前(CR)」、約80%が日本で消費される大西洋クロマグロも「絶滅危惧(EN)」にリストされています。日本で乱暴に流通・消費される魚が、次々と絶滅に追い込まれていく実態があります。今や最後の一種となってしまった太平洋クロマグロも、このままではすぐに絶滅危惧種に指定されるかもしれません。

では次に、太平洋クロマグロ資源はなぜこれほどにまで減ってしまったのでしょうか。

保護管理:乱獲を実質容認してきた漁業管理

太平洋クロマグロの資源保護・管理は、漁業国で組織する中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)が管轄しています。しかしこれまで何年もの間、利害関係にある加盟国間の意見がまとまらず、また同種の資源評価をまとめるのに予想以上に時間がかかったりして、効果的な対策を打ち出せぬままに、乱獲を実質黙認して続けてきたのです。私も何度もWCPFCにグリーンピース代表団の一員として参加してきましたが、会議室の外では乱暴な漁獲・流通・消費が日々続く中、会議室の中ではコンセンサスを得らえず何も決められないでいる国際会議に、毎回もどかしさを感じてきました。

今回のWCPFC-NC9でこそ、予防原則と科学に基づいた保護・管理措置に加盟国が同意し、協力して実施に移すときです。また同種の消費及び漁業大国である日本の政府代表団はその議論を先導し、自ら最も厳しい保護・管理を提案・実施していくことが求められています。

 流通消費:乱獲を押し進める薄利多売

保護管理を管轄する機関の機能不全だけが乱獲の原因ではありません。そもそも乱獲の背景には「クロマグロでもなんでも安く気軽に食べたい」という作り出された需要があります。全国展開するスーパーマーケットや回転寿司店などが太平洋クロマグロを安価で大量に取扱うようになったことが、まき網などによる乱獲を進め、大量の未成魚を自然界から奪う養殖ビジネスを拡大させる引き金となりました。クリーンピースは国内の大手スーパーマーケット5社(イオン、西友、ダイエー、ユニー、西友)などと持続可能な魚介類の調達方針の策定に向け対話を続けていますが、そのマグロ調達に短期利益よりも持続性を優先した改善は、まだ見られません。

WCPFC関連の会議に来るといつも思うのですが、漁業資源管理の策定・実施を待つだけでは、魚や水産業や魚料理を守るには到底間に合いません。まだ先は遠く歩みは遅いにしろ、行政や漁業関係者は現状打開に向け動き出しているにも関わらず、その一方で乱獲の背景にある流通サイドは、相変わらず資源枯渇を見ないふりをしたまま。日本の食卓に並ぶ魚の約70%を販売するスーパーマーケットは、自らが消費者に提供する商品の持続可能性を確保する責任を果たす必要があり、その履行のためにより積極的に働くことが求められます。

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