海洋生態系問題担当の花岡です。

福島第一原子力発電所の南30~60㎞圏内にある、久ノ浜漁港や勿来漁港の沖で獲られたシラスから、日本政府が定める暫定規制値を超えた放射性セシウムが検出されました(水産庁発表)。これまでは各地でコウナゴから高濃度の放射性物質が検出されていましたが、シラスで検出されたのは今回が初めてです。

シラスってどんな魚?

生シラス丼や釜揚げシラス丼にたっぷり乗っている、半透明の小さな身体と黒い目が特徴的な、甘くて美味しいあのお魚。チリメンジャコでもお馴染みですね。通常であれば、今頃からコウナゴに代わって、三陸や東日本沿岸で漁のシーズンを迎えます。シラスは、主に海水面を泳ぐカタクチイワシの幼魚です。

漁師さんにとって、これはどういう意味?

私が沿岸域の海洋調査を行った際に出会った地域の漁師さんは、「コウナゴが寒流系(冷たい潮に乗って北から来る)なのに比べて、シラスは暖流系(暖かい潮に乗って南から来る)。放射能汚染の心配はきっとないに違いない」と、これまで2ヶ月以上も漁に出ず耐えてきたうっぷんを晴らすかのように、語っていました。「これ以上陸にいたら、船も網も俺も干上がっちまうぞ」と、何がなんでも船を出そうと頑張っていました。

今回、高濃度放射性セシウムがシラスから検出されたことは、コウナゴ漁に続いて、またしてもその期待を裏切り、漁師さんたちから職を奪い、更なる終わりの見えない我慢の生活を押し付けることになってしまったことを意味します。

政府や東京電力には、こういったケースに対する補償をきちんと定め、基準値以上の数値が出たらすぐに補償を実施する制度をつくってほしいです。

海洋生態系にとって、これはどういう意味?

ある漁師さんは、「カタクチイワシは近場の漁港などの海藻に卵を産みつける。(シラスが卵から孵った)時期は、原発事故発生時かその直後くらいではないか」と言います。このシラスがサンプリングされた海域は、福島第一原子力発電所の南30~60㎞圏内にあり、グリーンピースが先週まで行っていた調査で、高濃度の放射性物質が検出された海藻類をサンプリングしたエリアと重複します。

福島第一原発沖を回遊し汚染された魚がたまたまこの海域で獲られたわけではなく、この海域の海洋生態系が、すでに放射能に汚染されているとも考えられます。たとえばこれからこの海域で漁期を迎えるこの海域のウニやアワビなどからは、いつ高い数値が検出されてもおかしくありません。

漁師さん達に不要な負担と心配をかけないためにも、漁を始める準備をする前に、早く調査をして結果を公表し、汚染があれば補償する必要があります。

消費者にとって、これはどういう意味?

震災後、これまで東日本沿岸海域で高濃度の放射性物質が検出された水産物は、コウナゴ, シラスの2種類です。この2つに共通しているのは、どれも個体が小さいため、頭や内臓を除かずに、魚体丸ごと検査されているということ。

一方で、ヒラメやカレイ、ウマズラハギやアンコウ、イカやカツオなど、検出数値が暫定基準値以下であった水産物に共通していることは、分析部位が「筋肉部」だけということです。頭や内臓を全部取り外してから、身の部分だけを検査をしているのです。

でも、食卓に出る魚料理を考えてみると、私たちが口にするのは「筋肉部」だけとは限りませんよね?ヒラメやカレイのように頭や骨が身と一緒に調理されたり、ウマズラハギやアンコウのように内蔵が美味しかったり、塩辛や酒盗などイカやカツオなど内蔵が不可欠な料理だって、たくさんあります。

この海域ではもうすぐ、頭も骨も内臓も一緒に調理され、内臓を身と一緒に味わう、サンマの漁も始まります。都道府県が実施し水産庁がまとめる、「筋肉部」のみを対象とする現行の調査方法は、無意味とは言いませんが明らかに不十分。事実の矮小化でなく安全性の確保を目的とするのであれば、ぜひ大型の水産物であっても、頭や内臓も含めて調べてほしく思います。