こんにちは、海洋生態系担当の花岡和佳男です。

魚が大好きなみなさん、美味しく食べながらも子どもたちの海と食卓にも魚を残したいみなさん、持続可能性や環境負荷を考慮したお魚選びが簡単にできるこのお魚アプリ、もう使っていますか?

「さ」くっと検索できて、「か」んたんに読めて、「な」っとくしてお魚を選べる、内容だけでなく使い方まで「さ・か・な」なこのアプリ、まだの方はぜひこちらからダウンロード!無料です。

さて、日本で初めてとなる持続可能性や環境負荷を考慮したお魚選びができるこのアプリは、どのように誕生したのでしょうか。

 

 

「うーん...」から生まれたお魚お買い物ガイド・アプリ!

昨年はウナギやマグロが乱獲され激減したことが大きなニュースになりましたね。世界の漁業は今、持続可能なレベルの2.5倍もの規模で行われていると言われています。海から魚を獲りつくせば、当然私たちの食卓からも魚が姿を消すことになるのですが、握り寿司のネタが肉や野菜ばかりになってしまうなんて、土用の丑の日の食べ物がうしやうずらやうりやうめ等に代わっていくなんて、お味噌汁や煮物に出汁(ダシ)が使えなくなるなんて、想像できないですよね。

でも、いざ「乱獲されていない魚を買おう」と思ってスーパーやレストランに行きラベルやメニューを見ても、どの魚が海から獲られすぎているのか、どの魚なら今食べても大丈夫なのか、消費者には正直言って「さっぱり」分からなくて悩みますよね。このアプリは、「家族で食卓を囲んで美味しく食べられる魚はどれ?」という、スーパーで二つの魚を手に取り選びきれずに悩む「うーん…」から生まれました。日本初の、持続可能性や環境負荷を考慮したお魚選びができるお買い物ガイド・アプリです。

 

 

動かないスーパーを消費者の『選ぶ力』で動かす

みなさん、スーパーマーケットって凄いんですよ。日本の家庭で消費される魚介類の約7割もを、スーパーマーケットが販売しています。そんな凄いスーパーの店舗の商品棚を見ると、絶滅危惧種のウナギ、乱獲が止まらないマグロ、激減したアジ・サバ・イワシ…お客さんが魚を選べずに「うーん...」となるのも当然です。

私はここ数年間、このスーパーマーケット業界の大手各社に、絶滅危惧種や乱獲されている魚を取扱わないよう、その代わりに資源管理がされた魚を積極的に取扱うよう、交渉を続けています。確かに、グリーンピースと面会することすら頑なに拒否していた数年前と比較すると、今はどのスーパーも問題意識は格段に育ってきたとは感じますが、それでもまだまだ各社とも、問題解決のための効果的な実行にはうつせていません。

ならばせめて、売る魚の資源量や資源管理に関する情報を店頭でお客さんに伝えてほしいと求め続けていますが、スーパーはそれにもいつまで経っても及び腰。「いつまでも待っていられない。消費者がほしい情報をスーパーが出さないなら、僕たち消費者側から出そう。私たち消費者の『選ぶ力』で、海と食卓の魚を子どもたちに残そう!」 そうやって、グリーンピース・ジャパンに「日本初のお魚アプリ」チームが誕生しました。

 

 

海外にはいくつもあるサステナブル・シーフード・ガイド・アプリ。日本ではこれが初!

2013年5月、私たちはアメリカ・カルフォルニアにあるモントレーベイ水族館の“Cooking for Solutions”というイベントに招待されました。モントレーは、かつてはイワシ漁で賑わいを見せ、海は漁船で溢れ海辺は缶詰工場で埋め尽くされていましたが、乱獲の末イワシが急に姿を消し街が一気に寂れた歴史を持ちます。その後、街は大きく変わり、今では缶詰跡地にはサステナブル・シーフードを売りにするレストランが軒を連ね、美味しく持続可能な魚介類を求めてきた観光客で街中が賑わいます。次世代に海を残すことを優先する人たちが美食を求めて集まるこの街、ゆとりというか余裕があって、高いモラルと安心感があって、とても清々しく前向きは雰囲気に包まれています。そんな街の周りでは、砂浜には野生のアザラシの群れが昼寝をし、浅瀬には野生のラッコが浮き、ボードウオークから海を臨めば沈む夕日がクジラの息吹に包まれました。

このモンテレーの再建の旗を振ったのが、モントレーベイ水族館です。今はこの水族館、"Seafood Watch"という、持続可能性や環境負荷を考えた魚選びができるお買い物ガイドを発行し、そのガイドを周辺のシーフードレストランに浸透させています。また水族館の中でも、スタッフが水槽の前で「この魚は乱獲されている」「この魚は資源管理がされてない」といった説明をお客さんにしている、とても先進的な水族館です。

その水族館が年に一度開催する“Cooking for Solutions”。夜は上品にライトアップされた館内に100を超える飲食ブースが並びます。オーシャン・フロント・テラスには"Seafood Watch"に沿ったサステナブル・シーフード・レストランのブース、熱帯魚が鮮やかな水槽の前にはオーガニック・ワイン・バー、マグロの泳ぐ大型水槽の前には立食用テーブル…といった具合です。

来場客にとっては、「美味しく魚を食べながら子どもたちの海と食卓に魚を残していける」ことを実体験できるイベント。ブースを出展したレストランにとっては、サステナブル・シーフードに大きな需要があることを確認する場であり、サステナブル・シーフードに取り組む自らのブランドバリューを高める機会です。会場は来場者で溢れていました。

私は、サステナブル・シーフードの思想がモントレーに集まる方々にこんなに深く浸透していることに驚き、お魚大好きの日本にその思想があまりにもないこととのギャップに衝撃を受けました。それに、次世代を考え持続可能性を優先しながら美味しい魚料理を食べることは「我慢」ではなく「気持ちいいこと」だということを体感し、ライフスタイルのレベルアップだと感じました。和食に魚介類は欠かせない。日本でこそこの消費者ムーブメントを作り出す!"Seafood Watch"のような分かりやすいお魚ガイド・アプリを日本でも!!

 “Cooking for Solutions”に集まった多くの専門家と日本の現状を共有し、モントレーの成功を学び、"Seafood Watch"の担当者からたくさんの情報やアドバイスをいただきました。アプリのコンテンツやその使い方の構想が、一気に固まっていきます。

 

 

当初リストアップされた魚は「赤」ばかり…

アプリ作成、まずは日本で突出して多く消費されている魚や、スーパーで広く売られている魚のリストアップから始めました。国立図書館やネット等から情報をひっぱり出して統計と「にらめっこ」です。また実際にたくさんのスーパーを訪れ、どのような商品が売られているのかを目視確認もしてきました(目視確認の習慣で今や、プライベートでスーパーに行ってもつい鮮魚コーナーばかり目が行ってしまいます)。

アプリに載せる魚が決まったら、次は、リストした魚の資源量や資源管理の有無を、国際漁業管理機関や日本政府等の情報を基に、専門家と共に評価して、緑・黄・赤の3色に色分けしていきます。「この魚は赤か…」「この魚も赤か…」「この魚まで赤か...スーパーの魚って赤ばかりだな」という悲しい現実にぶつかり、チーム一同うつむいた時期もありました。「赤い魚ばかりではアプリユーザーに選択肢を提供できない、もっと緑の魚をリストに入れなきゃ、お買い物ガイドとして機能しないでしょ!」「そうは言っても、実際にスーパーで売られている魚は赤い魚ばかり。どうしようもないだろ!」「これじゃあ消費者に『スーパーで魚を買うな』といっているようなものだ…」「そもそも『どれだけたくさん食べても大丈夫』な魚なんていないんだし、緑の魚なんてあり得るのか?」……夜遅くに荒れた会議もありました。 

調整を重ね試行錯誤の末ようやく完成したお魚リスト、複数のグリーンピース外部の専門家にも確認をしていただいた後に、フォトグラファー、イラストレイター、デザイナー、プログラマーなどの手によって、見やすく使いやすいアプリの形となり、2013年12月にandroid版が先行配信。そして今月になってようやくiPhone版もリリースに至りました。

 

噛めば噛むほど味が出る するめのようなアプリ

このアプリ、お魚お店をサクサク選べるスグレモノですが、それだけではありません。使い込んでいくと、自分の中に選択基準の塩梅の感覚が根付きます。問題もクリアに身近なものになってきますし。例えば…

  • マグロにも色々あって、クロマグロやミナミマグロは選ばない方がいいけど、太平洋で獲られたビンナガ(ビンチョウマグロ)なら、まあ、食べてもいいかな。たまにはクロマグロも食べたいなあ、なんでちゃんと資源管理してくれないのかなあ。
  • サバにも色々あって、日本のマサバは選ばない方がいいけど、資源量を見るとゴマサバなら大丈夫そうかな。もしマサバを買うなら日本より北欧のもののほうが資源管理されているんだね。日本のマサバは資源管理されてなくて成長する前に獲られるから小さく脂ノリも悪い。それで北欧から資源管理された大きいマサバを輸入しているなんて、せっかくマサバが近くの海に豊富にいるのに、もったいなくない?
  • あれ、日本の周りで獲られる魚って、ほとんど資源管理されていないんじゃん?誰の管轄?農林水産省?農業や林業を守れていないことは聞いたことがあるけど、漁業も全然守れてないじゃん。いったい何やってるの?
  • 海外ではエコラベルがついたものがごく当たり前に出回っているのに、何で日本のスーパーは乱獲されていたり資源管理されていない魚ばかり売ってるの?販売者は商品の原料の持続可能性や環境負荷に責任を持ってほしいよ。

これから、どんどん魚の数も増やしていきます。その他のコンテンツも一層充実させていきます。構想から半年以上の時をかけてようやく形になったこのアプリ、家族で食卓を囲み美味しい魚が食べられるように、私たち消費者の『選ぶ力』で海と食卓の魚を子どもたちに残せるように、スーパーで魚を選べずに「うーん…」となっているたくさんの方々に、ぜひ使っていただきたいです。