こんにちは、気候変動・エネルギー担当の高田です。東京では桜が終わり、ケヤキの新緑がすがすがしい頃ですね。

4月11日、安倍政権は新しい「エネルギー基本計画」を閣議決定しました。この先約20年、どのエネルギーをどれくらい使っていこうかを示すもので、日本のエネルギー政策の基本となるものです。

 

電力会社と原発産業のための「経営支援基本計画」?

東京電力の福島原発事故後、初めての改定で、世界的にも注目されていたのですが、驚くことに、原発を『重要なベースロード電源』と位置づけ再稼働を進めると書いてあります。

「燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる低炭素の準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である。」(4月11日に閣議決定されたエネルギー基本計画より抜粋)

事故前の文書かと目を疑うほど、原発を絶賛しています。

この他にも、核燃料サイクル推進など、新しいエネルギー基本計画はまるで電力会社と原発産業のための「経営支援基本計画」のようです。

 

二酸化炭素削減のために、原発は必要なの?

この基本計画、気になる問題点はいくつもあるのですが、ここでは「『温室効果ガス(二酸化炭素など)の排出もない』ので原発は重要な電源」と書かれていることを考えてみたいと思います。ちょうど、3月月末の横浜に引き続き、先週はドイツで国連の気候変動についてのIPCC会議が開催されていました。

壊滅的な気候変動の被害を避けるために、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を、できるだけ早く、大きく減らすことが重要です。(気候変動についてはこちらをどうぞ

でも、原発に頼ることは、温室効果ガス削減にむしろ大きな障害となります。

 

原発は役立たずでむしろ障害=危険、高い、間に合わない

原発は放射能汚染の危険と常に隣り合わせ。そして、建設・運転そして廃棄物処理のコストが超高額となります。また、建設計画から発電を始めるまでに長い時間がかかるので「できるだけ早く減らす」には間に合いません。

それにもかかわらず温室効果ガス削減の当てにすると、原発という間違った解決策にお金と時間と政策支援が使われ続けることになってしまいます。そうすると、省エネと持続可能で安全な自然エネルギーの拡大を進めるという実際に有効で必要な政策を遅らせる原因になります。原発はここでも(やっぱり)必要ないのです。(詳しくは、『原子力は地球温暖化の抑止にならない』2008年グリーンピース発行をどうぞ)

 

原発事故後、二酸化炭素はそれほど増加しなかった

東京電力の福島原発事故で原発が止まった分を化石燃料で代替しているので、二酸化炭素の排出が大幅に増えているのでは、という話を聞くことがあります。実際はどうなのでしょうか。

上記のグラフは、日本の二酸化炭素の排出量推移を表しています。(日本エネルギー経済研究所Energy Indicators of Japan 2013年度より作成 )
実際、福島原発事故後の排出量はそれほど変わっていません。

2009〜2010年の二酸化炭素排出量が約7%増加しているのに対し、2010〜2012年は8%未満の増加でほとんど差はありません。日本のエネルギー部門からの二酸化炭素の排出量は、原発事故の以前も以後もあまり変わらず、事故前からの(持続不可能な)増加傾向が続いていることがわかります。

原発が止まっているから二酸化炭素の排出量が急激に増えているわけではないのです。

 

省エネのチカラ

原発が止まった分、海外から化石燃料をたくさん輸入しているから燃料代が増えて大変だ、という話も聞きますよね。こちらは実際はどうなのでしょうか。

上記のグラフは、原発が止まった分の日本の電力をどうやって埋め合わせているかを示しています。(資源エネルギー庁電力調査統計等をもとに計算・作成。火力発電についてはIEA World Energy Outlook 2012をもとに推計)

おもに省エネと天然ガスによる火力発電を増やして埋め合わせていることがわかります。天然ガスは外国から輸入しているので燃料代が増えることになります。ここで注目したいのは、天然ガスと同じくらい大きな埋め合わせ効果を発揮している省エネ。しかもこちらは、エネルギーをより効率よく使う取り組みなので、外国に支払う「燃料代」はかかりません。原発が止まった分の燃料代のことを話すなら、増えた分だけでなく、省エネで節約できた分も忘れずに話したいですよね。

 

目標掲げて挑戦を

これからのために今必要なのは、省エネと、持続可能で安全な自然エネルギーの拡大を進めること。原発からの電力がなくてもやっていけることは、すでにはっきりしています。原発に逆戻りは必要ありません。温室効果ガスと燃料代のことを考えるなら、外国から輸入してくる化石燃料も段階的に減らしていくべき。

原発事故後、省エネは大きな政策支援がほとんど何もなくても浸透していきました。省エネに積極的に取り組む企業・自治体・家庭をもっと応援する施策があれば、クリエイティブで効果的な取り組みがどんどん広がるのではないでしょうか。

自然エネルギーの利用は、2012年に始まった「固定価格買取制度」をきっかけに、全国で拡大しています。ドイツの同様の制度と比べて抜けているいくつかの重要なルール(自然エネルギーの優先給電など)を補って改善していくことで、もっと持続可能で安全な自然エネルギーの拡大を進めることができます。

放射能汚染をせず、温室効果ガスを出さず、燃料代も安くて、安定していて、地域や日本が元気になるようなエネルギー。理想が高すぎ(?)と思われるかもしれませんが、実際、省エネと自然エネルギーはかなり理想に近いところまできています。

今回のエネルギー基本計画では、省エネや自然エネルギーの導入について具体的な数値目標が示されなかったことはとても残念でした。政府が何度も繰り返す言葉の通り、自然エネルギー利用の拡大に本当に本気なら、数値目標を含む明確なビジョンを掲げて挑むべきだと思います。そうすれば、たとえ困難な目標でも、一緒に挑戦したいと手を挙げる人は多くいるはず。私はぜひ参加したいです。あなたはどうですか?

 


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参考資料


 ◎原発立地県知事と安倍首相あてのとめよう再稼働オンライン署名にご参加ください。(以下の画像をクリック)