こんにちは、気候変動・エネルギー担当の高田です。横浜で開かれていた気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が今日閉幕し、気候変動による人や環境への影響についての新しい報告書が公表されました。ほぼ6年おきに発表されるIPCC報告書。地球の気温上昇(温暖化)や気候変動の基本的なことについて、一緒に考えてみませんか?


■温暖化のしくみは?
地球がたくさんの命が息づく「生命の星」であるのは、地球の平均気温が暑すぎず寒すぎない気温(約15度)だから。これは、太陽と地球との距離が、近すぎず遠すぎずちょうどいいことと、地球を冷たい宇宙から守ってくれる「温室効果ガス」の膜がちょうどよく地球を保温してくれるおかげです。

この温室効果ガスが増えると、「温室効果」が高まり、平均気温が上昇します。温室効果ガスとは、私たちの身近に存在する二酸化炭素やメタンなど。産業革命以来、工場や自動車、発電所などから排出される温室効果ガスが増え続けており、地球の平均気温が上昇(温暖化)しています。(さらに詳しくは、日刊温暖化新聞が参考になります)


■気温が上昇すると何が問題?

では、気温が上昇すると何が問題なのでしょう? 単純に「暖かくなる」ということではないのです。たとえば、

  • 気温が上がると、海水の温度も上昇します。海水の温度が上昇すると、蒸発する水蒸気が増えます。すると、そこから生まれる台風やハリケーンはより強力になります。熱波や大雪など極端な気象が増えることも心配されています。
  • 気温が上がると、氷が溶けます。特に北極圏の氷はすでに溶け始めています。また、グリーンランドなど陸地にある氷が溶けてその水が海に流れると、海面が上昇します。海面の高さの変化はすでに世界各地で報告されています。
  • 気温が上がると、食料と水の確保に影響をおよぼします。小麦やトウモロコシの収穫量が減ったり、これまで収穫できていた作物の栽培が難しくなったり、魚が小型化したりすることが予想されています。日本ではお米やミカン栽培への影響が懸念されています。また世界各地で真水の確保が難しくなる地域が増えます。

このように、地球の平均気温が上昇する気候変動は、国境に関係なく地球全体に影響が及ぶため、科学者たちは、気候変動の影響を受けない人は世界中に一人もいないと警告しています。(地域によっては短期的に、気温が下がったり、作物の収穫が増えたりすることも予測されていますが、今世紀末までを見れば、弊害の方が大きいと分析されています。)


■ほんとうに気温の上昇が起きているの?
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、大気中の温室効果ガスが増えており、世界の平均気温が上昇していることは99%以上確実だとしています(出典: IPCC AR5 WG2 Chapter1)。そして、温室効果ガスが増えている原因は、95%以上の確かさで私たち人間の活動によるものだとしています(出典:IPCC AR5 WG1 SPM)。


■そもそもIPCCって?
IPCCとは、1998年に国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)によって設立された機関で、気温上昇・気候変動について研究する世界中の約1000名の科学者の集まりです。IPCCの役割は、世界中の気温上昇や気候変動に関する文献(約1万2000点)を集めて分析、各国政府の政策決定の土台や、国際的な目標や方向性の基礎とすること。

集められた文献には、様々な結論のものがあります。場合によっては、結論が真逆なものも。IPCCは、様々な文献を比較分析し、文献ごとの結論の「振れ幅」を踏まえたうえで「集められた文献に共通して言えることはこれだ」ということを報告書にまとめます。

この報告書は、科学者や各国政府からの意見募集とそれに対する回答を経て最終化されます。この最終報告書(数千ページ)をもとに、政治家向けの要約版(数十ページ)がつくられるのです。要約版完成のために、言葉の定義や言い回しについて、一文一文、ひとこと一言、各国政府代表者が一堂に集まって確認・合意し、やっとできあがるのです。

(写真:横浜で行われたIPCC総会の様子)

■必要なことは?
気温上昇と気候変動の影響を減らすためには、2つのことが必要です。ひとつは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を減らすこと。二酸化炭素の大量排出の最大の原因となっているのは、石炭火力発電所。省エネによって電気の使用量を減らしたり、持続可能で安全な自然エネルギーへの転換を進めることが解決策となります。

もう一つは、気温上昇によって起きる気候変動の影響に備えること。高潮に備えて防潮堤を補強したり、沿岸の都市部での洪水への備えを強化したり、気候変動の影響をより受けやすい貧しい地域への技術や財政的な支援をおこなったりすることが解決につながります。


■実際、気候変動の影響はどんなことを意味するの?
私の同僚で、フィリピン人のアマリ・オブサンに話を聞きました。

アマリは2人の子どもの母親。彼女は数年前の台風で義父を失いました。仕事を終えて家に戻る途中、川にかかる橋を渡る最中に鉄砲水に襲われ、車ごと流され亡くなったとのこと。当時2才だった息子は、大好きな祖父を失い、ひどいショックを受けたそうです。


(写真:2013年11月にフィリピンを襲った巨大台風ハイヤンによって壊滅的被害を受けた町)

アマリは「経済指標や世界のGDP値に惑わされ、大事なことを見失わないでください」と訴えます。「昨年フィリピンを襲った巨大台風ハイヤンで死亡・行方不明となった8,000人の命に金額をつけられるでしょうか? 台風の暴風雨のなか、家族を失った子供の心の傷はお金に換算できるでしょうか? 気候変動による実際の損失とは、こうしたことなのだと思います」と話します。

日本でも、夏の猛暑や台風による大雨で大きな被害がでています。世界の気温が上昇し、気候変動が大きくなれば、こうした自然災害の被害も大きくなることが考えられます。どこか遠い国だけで起こることではありません。

気候変動は、私たちのエネルギーにまつわる身近な問題。
まずは、知ることから始めてみませんか。


(写真:気候変動から影響を受ける人を助ける政策(救命浮き輪)は政治家の手にある――各国リーダーに対し決断を求める日本と世界のNGO)