2017/03/7 グリーンピース報告書、政府の帰還政策は原発事故被害者の 人権侵害と指摘 ーー女性・子どもへの被害は深刻

プレスリリース - 2017-03-07
国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは、「国際女性デー」を前にした本日7日、報告書『格差ある被害: 原発事故と女性・子ども』を発表し、東京電力福島第一原発事故からこれまで6年間の日本政府の対応が、数多くの人権侵害を引き起こし、特に社会的弱者であり、かつ放射能の影響をより強く受ける女性と子どもに深刻な被害を及ぼしたと指摘しました(注1)。グリーンピースは同日、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ及び原発事故被害者の松本徳子さんと日本外国特派員協会で記者会見を行い、安倍政権に原発事故被害者の人権侵害是正を求めました。
本報告書は、日本の文化的・社会的・経済的な状況を背景とし、特に弱い立場に置かれる女性や子どもに原発事故が与えた影響について、既存の研究からの視点と理論を紹介するものです。

報告書『格差ある被害: 原発事故と女性・子ども』の要旨
原発事故後、ドメスティック・バイオレンスと性的暴力の増加、正式な支援ネットワークの不足、避難所の管理と復興計画の策定に意見が反映されないこと、婚姻家庭では概して男性世帯主に対して賠償金が支給されること、パートナーとの別居と離婚、放射能という汚名による結婚差別などにより、女性は男性よりも著しく大きい事故の社会的、経済的、心理的、身体的代償を背負ってきた。

原爆の被爆者に関する疫学的研究などで、放射線被ばくによる健康リスクが、女性、乳幼児、子ども、胎児において、成人男性よりも高いことが確認されている。

正確で包括的な情報の入手についての女性と子どもの権利は、事故以降、繰り返し侵害されてきた。これは、日本が批准した数々の国際人権条約で規定された人権の侵害にあたる。

女性たちは沈黙する被害者にとどまることなく、大きな苦難の中でも、日本政府や東京電力への法的異議申し立て、原発再稼動反対の運動への参加、情報共有の仕組み構築、市民放射能測定所の設置などの活動を率いてきた。

 

本報告書執筆者のグリーンピース・ジャパン シニア・グローバル・エネルギー担当ケンドラ・ウルリッチは「原子力産業がチェルノブイリから学んだことがあるとすれば、広大な立入り禁止区域は『原発事故は取り返しがつかない』ということを常に人々に思い出させ、同産業の妨げになる、ということです。だからこそ、安倍政権は帰還を促進してきました。自主避難者の住宅支援打ち切りは1万世帯以上に影響を与えます。中には、意思に反して帰還を選ばざるをえない家庭もあるでしょう。この3月の住宅支援の打ち切りや来年の賠償打ち切りは、安倍政権による帰還推進メカニズムに他なりません。明らかに、原発事故被害者に対する人権侵害です」と非難しました。

 

会見に同席したヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子弁護士は、「日本は、市民の健康への権利を謳った複数の国際人権条約の締約国です。2013年、国連『健康に対する権利』特別報告者アナンド・グローバー氏は、日本政府に対し、原発事故被害者の基本的な人権に対する侵害を是正するよう勧告しました。しかし、政府は勧告に従わないばかりか、人権侵害をもたらす政策を進めています」と指摘しました。

 

福島県郡山市から神奈川県に避難している松本徳子さん(避難の協同センター代表世話人)は「4月から、避難は自己責任とされ、私たちは『国内難民』となります。国策として進めてきた原発が引き起こした原子力事故の責任を、国は果たしていません。原子力緊急事態宣言は発令されたまま、私たちは見棄てられていきます」と訴えました。

 

グリーンピースは、2月17日付けでヒューマンライツ・ナウ、国際環境NGO FoE Japan、グリーン・アクションと連名で、国連人権理事会特別報告者に東電福島第一原発事故被害者が直面している人権侵害について、検討を加えるように求める書簡を送っています(注2)。2月21日には、福島県飯舘村で実施した放射線調査の報告書『遠い日常:福島・飯舘村の民家における放射線の状況と潜在的生涯被ばく線量』(注3)を発表し、3月末の同村避難指示解除で帰還するには「被ばくリスクはなお高い」と警告しています。また、日本政府に向けて、賠償の継続や、住宅支援の継続および帰還政策の意思決定への住民参加を求める「原発事故被害者の人権をまもる国際署名」(注4)を2月14日から展開しています。グリーンピースはまた近日、被害者の窮状を伝える文書を国連の日本に対する人権状況審査に向けて提出する予定です。

 

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