世界中が新型コロナウィルスとのたたかいを強いられている中で、プラスチックごみが増えています。日本でも、東京都の江東区や杉並区など容器包装プラスチックを分別回収している11区では、平均の回収量が4月には10%増え、横浜市でも12.5%増えました。大阪市でも、去年に比べて3月は6.8%、4月は8.4%、5月は7%、回収された容器包装プラスチックが増えています!*1

プラスチックは医療現場では必需品ですし、介護や医療などの分野で、社会で必要不可欠な業務に携わる労働者(エッセンシャル・ワーカー)が、ウイルスから身を守る個人保護具(PPE)としてプラスチックを使うのはやむを得ないことです。

でも、食品の包装や容器の使い捨てプラスチックはどうでしょうか?

実は6月に、世界中の衛生専門家は、新型コロナのパンデミック下でも、基本的な衛生対策をとっていれば、リユース製品は安全に使用できるという共通の見解を発表しました。

18カ国の119名の科学者、学者、医師などが、この声明に署名しました。硬い表面を持つ何度も使えるコップや容器については、家庭用の消毒剤で十分な殺菌効果が得られるとしています。この声明の内容を詳しくご説明していきます。

1) 使い捨てプラ包装が、特に衛生的というわけではありません

病院のような水準を求めるなら別ですが、プラスチックは本質的に衛生的というわけではありません。細菌やウィルスはプラスチック上でも、他の物質上でも、同じように生きのびることができます。プラスチックの表面や包装容器の中にも、とどまることができます。プラスチックが特に優れた素材というわけではないのです。

実際、ニュー・イングランド・メディカル・ジャーナルに掲載された研究では、新型コロナウイルスはプラスチックの表面では2-3日間、段ボールの上では24時間生きられるという結果が発表されました。

つまり、果物でも野菜でも、何かしらの食品を購入して、それがビニールで梱包されていても、使う前にしっかり洗いましょうと、研究結果は示しています。

2) 食品や包装から新型コロナに感染することは、めったにありません

新型コロナウイルスは多くの場合、人と人との接触で感染します。アメリカのCDC(疾病管理予防センター)によると、食品やそのパッケージから感染することはめったにありません

食料品店やスーパーは、厳しい衛生基準を守って野菜などを取り扱っているので、使う時に流水で洗ったり、しっかりと火を通したりすれば、それだけで安全です。

世界中でロックダウンが始まろうとしていた時、カフェやコーヒーチェーンは従業員の安全への配慮からリユースのカップの利用を停止しました。しかし、リユースのカップは洗剤とお湯で洗えば(あるいは食洗器で洗えば)、きれいにウイルスを除去できると各国の衛生専門家が指摘しています。持参した金属やセラミック製の容器に飲み物を入れてもらい、それを自分のリユースのカップに移し替えるようにすれば、自分以外は誰も容器や飲み物に触れることなく、飲み物をテイクアウトでき、店員さんの安全を守ることもできます。

布製のエコバックも同じことです。アメリカでは感染症拡大に伴い、多くの州がリユースできるバッグを禁止するようになりました。しかし、エコバックに付着した細菌は、お湯でさっと洗えば除去できるのです。

では、こんな間違った情報はどこから来ているのでしょうか?

危機に乗じる石油会社とプラスチック産業

アメリカではこの危機に乗じて消費者の不安をあおり、化石燃料業界やプラスチック産業による、脱使い捨てプラスチックを阻害するためのロビー活動が行われています。自分たちがお金を出している研究機関などを通じて、食べ物、飲み物、その他色々な製品はプラスチックで包装されているほうが安全だ、といった情報をメディアに流したり、政治家に使い捨てプラスチックを再び認めるよう働きかけたりしています。プラスチックの製造で利益を得ようとしているのです。

気候危機を抑えるために世界が化石燃料から距離を置こうと動いている一方、シェル、BP、サウジアラムコ、エクソンといった世界有数の石油会社は、プラスチック事業を将来の収益の柱とし、何十億ドルもプラスチックに投資をしています。

プラスチック・石油化学産業は、各国が新型コロナウィルスに何とか対処しようとしているのに乗じ、自分たちの製品を社会にとって「エッセンシャル(必要不可欠なもの)」と位置付け、政府に対し巨額の救済措置や環境規制の緩和を要求しています。

グリーンピースUSAによる最近の調査で、こうしたプラスチックに関して誤解を招くような記事の提供元や配信元が、プラスチックメーカーや石油会社つながっていることがわかっています。

EUは全域で一部の使い捨てプラスチック製品を規制しています。ヨーロッパのプラスチック産業は欧州委員会に対し、公衆衛生を理由にこの規制の撤廃を求めましたが、欧州委員会の副委員長は「個人保護具(PPE)の必要性を根拠に、使い捨てプラスチック製品の規制撤廃を要求してくるのは理解できません。(個人保護具と使い捨てプラスチック製品は)全く関係ないのですから」とコメントしています

プラスチック汚染の被害者は、地球と貧しいコミュニティ

ここ数年、世界中で、レジ袋やプラスチックのストロー、スプーン、フォークなどに規制を設け、使い捨てプラスチックを避けるようになってきました。

しかし悲しいことに、プラスチック汚染はいまだに世界に大きな影響を及ぼしており、特に貧しいコミュニティや有色人種のコミュニティにしわ寄せが行っています。プラスチックは石油を採掘し、製造され、最後に廃棄されるまでのすべての過程で有害なのです。

詳しく読む:なぜプラスチック汚染は人権問題なのか?

毎年、何十億トンものプラスチックが海に流れ出ているだけでなく、プラスチックの製造や焼却が、気候変動を悪化させています。ある予測では、2050年までに温暖化を一定レベルに押さえるために私たちに残された温室効果ガスの限度のうち、最大12%が、プラスチックの製造から廃棄までのライフサイクルに由来するとされています。これは、石炭火力発電所615基の排出量に相当します。プラスチックが地球にとって、クリーンでも衛生的でもないのは明らかです。

NGOティアファンド(tearfund)の調査では、発展途上国6カ国に展開する大手飲料メーカー4社から出るプラスチック廃棄物は、一日あたりサッカー場83個分にもなることが分かっています。

また日本は、世界第2位の廃プラスチック輸出国です。輸出先のマレーシアなどのごみ処理場では、あふれるプラスチックごみを処理しきれず、プラスチックごみが野焼きされたり、放置されたりしています。そして、地域の人々が焼却によるガスで呼吸器系の疾患や頭痛などの健康被害に苦しめられたり、川が汚染されたりしています。

詳しく読む:私たちのプラスチックには、もう行き場がない

私たちが耳を傾けるべきなのは?

使い捨てプラスチックは、大量消費・大量廃棄を促進し、多くの害をもたらしてきました。

私たちが現在のこの危機の中で色々な決断をするとき、耳を傾けなければならないのは使い捨てプラスチックを増やそうとする産業界のロビイストではなく、私たちと地球の健康のために研究する、医療と衛生の専門家ではないでしょうか?