
ロシア政府によるウクライナ侵攻で、これまでに124万ヘクタールの自然保護地域が影響を受けていることがわかりました。
攻撃により、自然の風景や動植物のすみかが破壊され、汚染が進んでいます。ミサイル攻撃が森林火災を引き起こし、工業施設や給油施設などへの砲撃が、化学物質や化石燃料による汚染を悪化させているのです。
自然を破壊して汚染を拡大し、気候変動対策の歩みを止める戦争は、最大の環境破壊です。
▼この記事を読むとわかること > ウクライナ戦争による自然環境への影響は > 爆発の生成物が、気候変動や酸性雨の原因に > 黒海で石油流出、軍艦の影響で5万頭のクジラ類が死亡 > 砲弾に使われる物質が土や地下水を汚染 > 砲撃が森林と生態系を破壊 > 攪拌されたチョルノービリ高度汚染地域の土壌 > 戦争は最大の環境破壊 |
ウクライナ戦争による自然環境への影響は
ロシア政府がウクライナへ軍事侵攻を開始してから、2023年2月24日で1年です。
両軍で20万人、民間人4万人以上といわれる死傷者を出し*1、1986年の原発事故以降今でも放射性物質が充満するチョルノービリ原発の占拠ではヨーロッパのみならず各地に恐怖と不安を与え、エネルギーと食糧の価格高騰といった波紋を起こし、世界を混乱させてきたこの戦争。
加えて、ウクライナの物言わぬ自然や動物たちも、被害者となっていたことがわかりました。
グリーンピース中・東欧は、ウクライナのNGOエコアクションと共同で、ロシア政府のウクライナ侵攻によって引き起こされた環境破壊の事例をまとめた「環境被害マップ」を発表しました。

去年の2月24日以降、戦争は124万ヘクタールの自然保護地域に影響を与えました。
軍事侵攻によって、自然の風景や動植物のすみかが破壊され、汚染が進んでいます。
ミサイル攻撃が山火事を引き起こし、工業施設や給油施設などへの砲撃が、化学物質や化石燃料による汚染を悪化させているのです。
爆発の生成物が、気候変動や酸性雨の原因に

ロケットや大砲の原料となる化合物(一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、一酸化窒素、二酸化窒素、ホルムアルデヒド、シアン化水素蒸気、窒素)は爆発後に酸化し、生成物が大気中に放出されます。
生成物の大部分を占める二酸化炭素と水蒸気は毒性はありませんが、気候変動の要因となります。
硫黄酸化物や窒素酸化物は酸性雨の原因となり、土壌のphを変化させます。酸性雨は特に針葉樹の植物に被害をもたらし、人間を含めた哺乳類、鳥類の粘膜や呼吸器官に影響を与えることが懸念されます。
黒海で石油流出、軍艦の影響で5万頭のクジラ類が死亡
海の生態系も深刻な影響を受けています。特に黒海地域の汚染は、隣国のジョージア、トルコ、ブルガリア、ルーマニアにも影響しています。

また、科学者による報告では、少なくとも5万頭のクジラ類が、戦争の間に死亡しました。音波によって物体を探知するソナーを搭載したロシアの戦艦が大量死の原因になっていると考えられます。ソナーがクジラ類のエコーロケーションを司る器官に影響し、視力を失ったり、位置を把握することができなくなったりする上、水雷※を避けることができなくなってしまうからです。
※水中に仕掛け、爆発させて艦船を破壊するための兵器
砲弾に使われる物質が土や地下水を汚染
砲弾の金属片も安全ではありません。
弾薬ケースの材料として一般的な鋳鉄は、鉄や炭素だけでなく、硫黄や銅も含み、これらの物質が土壌に入り、地下水に溶け出すと、やがて食物連鎖を経て、人間や動物に影響を与える可能性があります。
砲撃が森林と生態系を破壊

去年の2月24日以降、300万ヘクタールのウクライナの森林が影響を受け、45万ヘクタールの森林が占領下または戦闘区域にあります。
ウクライナ東部のトリョチズベンスキー草原(Tryochizbensky Stepp)は、大半が火災によって焼失してしまいました。ここには、絶滅のおそれがある生きものが多く生息する特殊な生態系が広がり、ウクライナのレッドリスト(絶滅のおそれが野生生物の種のリスト)に掲載される7種の生きもの、ヨーロッパのレッドリストに掲載される3種の生きもの、そしてベルン条約で守られている1種の生きものが生息していました。
攪拌されたチョルノービリ高度汚染地域の土壌
ロシア軍は、去年の2月24日にチョルノービリ原発の立ち入り禁止区域に進入し、施設を掌握しました。占領は3月30日まで続きました。

グリーンピースとマッケンジー・インテリジェンス・サービスによる衛星分析では、ロシア軍がチョルノービリ区域内の高濃度汚染地域に塹壕や要塞をつくり、何らかの意図をもって何度も敷地内に火をつけ、ロケット砲を発射したことが確認されました。
グリーンピースが2022年7月に現地で採取した土壌のサンプルを調べたところ、サンプルによってセシウム137の濃度に大きな差が見られ、高いところで1kgあたり45,000ベクレル、低いところでは1キロあたり500ベクレル以下と、数値の違いが目立ちました。ロシア軍はこのように土壌にかたまっていた高濃度に汚染された土の層を攪拌してしまったと考えられます。
原発事故以降30年以上の自然の生態系回復を後退させてしまったのです。
戦争は最大の環境破壊
私たちは、戦争による環境破壊にも目を向ける必要があります。自然を破壊し、気候変動対策の歩みを止める戦争は、最大の環境破壊なのです。

ウクライナの将来を議論するに当たって、自然の再生も重要な位置を占めるようにする必要があります。自然の再生には、専門知識や技術、そして資金とコミットメントが必要です。資金は、戦争後ではなく今すぐにでも割り当てられるべきでしょう。
自然の再生に取り組むウクライナのNGOはこちらで紹介されています。
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