第28回目放射線調査 ~福島県浪江町、飯舘村

記事 - 2018-03-01
 

東京電力福島第一原発事故により拡散した放射性物質の汚染状況調査報告

第28回目調査
福島県浪江町、飯舘村で測定した空間放射線量

 

レポートの表紙

グリーンピースでは、東京電力福島第一原発事故発生直後の2011年3月26日から27日の第1回から継続的に28回、おもに福島において放射性物質および放射線調査を行っています。

今回の第28回目調査は、2017年9月20日から10月4日に、福島県浪江町と飯舘村で実施しました。浪江町と飯舘村で、政府が2017年3月31日に避難指示を解除した地域とそれぞれの「帰還困難区域」の状況を調べ、浪江町の帰還困難区域においては、住民が居住できる「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)に認定された津島地区の空間線量を測定しました。

浪江町では、帰還困難区域の同町住民の協力を得て、同区域の民家3軒、それら民家周辺の農地や木が生い茂った部分(森林部)、および2017年9月に通行規制が解除された国道114号線(浪江町を東西に走る)沿い、そして2017年3月末に避難指示が解除された地域を調査しました。飯舘村では2017年3月末に避難指示が解除された地域の6軒の民家を調査しました。
(詳しくは調査報告書『原発事故の写像:浪江町と飯舘村における放射線調査』をご覧ください)

写真: © Christian Åslund / Greenpeace

 

地図1

 

調査結果から言えること

東京電力福島第一原発事故発生から7年、浪江町中心部や飯舘村の避難指示解除から1年が経ちました。しかし、それらの地域の放射線レベルは人が暮らすには、「依然として高過ぎる」というのが、グリーンピースの第28回の放射線調査の結論です。

今回調査した地域においては、政府が膨大な人員を投入して行っている除染作業では、避難者が帰還して安全に暮らせるレベルにまで効果的に放射線量を下げることができていないと言えます。今回測定された放射線線量がもし原子力施設内で検出されたなら、緊急対応が必要なレベルです。日本政府は、個人の追加被ばく線量の長期目標である「年間1ミリシーベルト」が、いつ達成できるのか、明らかにしていません。
また、年間1ミリを達成するために日本政府が定めた除染基準値は毎時0.23マイクロシーベルトですが、2018年3月現在、その上限値の引き上げの検討がされようとしています。今回の調査結果から予測してみると、目標の達成には数十年かかると思われます。しかし、だからといって上限値を引き上げるのではなく、除染方針、帰還政策の見直しにより、どのように住民をまもれるのかを考えるべきです。

写真 レポートの扉のハインツ

【調査方法】

下記の方法を組み合わせて実施。

1. 歩行サーベイ:一定パターンで歩行しながら測定。

地表から高さ1メートルの空間放射線量率を高効率のエネルギー補償型ヨウ化ナトリウム(NaI)シンチレータ(Georadis RT30:Cs137計数率2000cps/μSv.h-1)で1秒ごとに測定。

民家の敷地・周辺をゾーン分け(畑、道、家屋周囲の森など)し、それぞれのゾーンで測定。1つの民家あたりおよそ10のゾーンを設定し、1ゾーンあたり最少で100、中央値で200から300の測定値を得た。測定地点の総数は1つの民家あたり3,000から5,000カ所。

1つの民家の全ゾーンの平均値は、各ゾーンに同じ重みを加味して、加重平均として計算。それにより年別比較も可能になる(年によって測定地点数が異なるため)。

 

2. ホットスポット:空間放射線量が高いホットスポットと要注意箇所を特定し測定

  • 地表から高さ10、50、100センチメートルにおける空間放射線量率を NaIシンチレータ(Radeye PRD-ER)で測定。GPS位置座標は手持ち型のGarmin Montana 650 で取得。

 

3. 車両による走行サーベイ

より広い範囲を測定するために自動車の外側、地表1メートルの高さにGeoradis RT30と位置座標収集用GNSS受信機(GNSS Trimble R1 )を積載し、交通事情が許す限り時速20キロメートル(最高でも時速40キロメートル)で走行。

浪江信号機のあるところ

今回の調査をふまえ、グリーンピースでは報告書『原発事故の写像:浪江町と飯舘村における放射能調査』を2018年3月に発表し、国連人権理事会の作業部会で提出された東電福島原発事故についての各国の勧告*の受け入れ、どこに住むかについて選択の自由を行使できるように、支援を継続すること提言しています。
(詳しくは調査報告書『原発事故の写像:浪江町と飯舘村における放射線調査』をご覧ください)

【調査の日程】

2017年9月20日から9月29日

帰還困難区域

“map1”

浪江町帰還困難区域において、津島地区の菅野氏宅、民家Y、民家Z、津島地区中心部、大堀地区および国道114号線を調査した。

【調査結果】

・浪江町下津島の菅野氏宅

グラフ1 (2011年12月から2012年2月に除染が行われている)全測定地点(5.105地点)の平均値は毎時1.3マイクロシーベルト、最大値は毎時5.8マイクロシーベルトで、全測定地点で政府の除染基準である毎時0.23マイクロシーベルトを上回った。

・民家Y

グラフ2 全測定地点(4,368地点)の平均値は毎時1.6マイクロシーベルト、最大値は3.7マイクロシーベルトだった。全測定地点の95%で毎時1マイクロシーベルトを上回った。

・民家Z

グラフ3

・津島地区中心部

グラフ4 平均値は毎時1.2マイクロシーベルト、最大値は毎時2.6マイクロシーベルトだった。

・大堀地区

グラフ5 平均値は毎時1.2マイクロシーベルト、最大値は毎時2.6マイクロシーベルトだった。 全測定地点(3,143地点)の平均値は毎時1.3マイクロシーベルト、最大値毎時6.5マイクロシーベルトだった。

・国道114号線

グラフ4 

 

【結論】

これらの地域は、いまだ居住禁止となっています。グリーンピースの調査結果は、それが今なお正当な措置であることを示したと言えるでしょう。しかし政府は、この地域に対しても、除染して避難指示を解除する方針です。今回調査をした津島地区以外に、室原、末森、大堀の各地区に、「復興拠点」を設ける計画があり、2023年3月の避難指示解除を目指しています。

なお、浪江町は2035年3月の帰還困難区域全域の復興を目指していますが、今回の調査結果から得られた線量、放射線減衰のスピード、そして除染の効果がそれほど見込めないことを考えれば、帰還困難区域が2035年までに居住に適する安全な場所になるとは言えません。

大堀

大堀

 

浪江町の避難指示が解除された区域

map3

全測定地点(6,844地点)の平均値は毎時0.3マイクロシーベルト、最大値は毎時2.1マイクロシーベルトだった。森の中には、毎時5マイクロシーベルトのホットスポットがあった。

【結論】

避難指示が解除された地域では、大規模な除染が行われたにもかかわらず、放射線のレベルは、公衆被ばく限度から日本政府が導き出した除染基準の毎時0.23マイクロシーベルトより一貫して高いものでした。特に道路脇や森の周辺の線量は、放射線防護の観点から、安全とはいえません。
(詳しくは調査報告書『原発事故の写像:浪江町と飯舘村における放射線調査』をご覧ください)

【調査の日程】

2017年10月1日から10月4日

【測定地域】

同村小宮地区、草野地区など、村の北部、南部、中心部にある合計7軒の民家、民家の所有者の敷地(田畑や森林)、周辺道路の空間線量を測定した。飯舘村の調査は2015年、2016年も実施しており、経年調査となっている。前回の調査はこちら

・安齋氏宅

図表1

飯舘村の南部に位置する。除染が行われた2015年から2016年にかけて放射線量は低下したが、2016年から2017年では変化がないか、ところにより増加した。 家の背後に森が迫っており、森から放射性物質が移動した可能性が考えられる。

・民家A

飯舘村中心部に位置する。測定された放射線量は、2015年、2016年、2017年と減少している。周辺に森などがなく、平坦な土地であることが影響していると思われる。 2016年にひきつづき、民家B、C、Eでも調査を行った。なお(民家Dは、2017年の調査時には解体されていたため、調査は行わなかった)
(詳しくは調査報告書『原発事故の写像:浪江町と飯舘村における放射線調査』をご覧ください)

 Iitatemura

【結論】

飯舘村住民の帰還率は高いものではありません。放射線レベルが高いことが、その要因の1つと考えられます。飯舘村住民が帰還後の安全について憂慮しているとするならば、それは正当なことであると今回の調査から言えます。

  

 

ホットスポットについて

網羅的な歩行サーベイや経年調査に加え、放射線量が抜きん出て高い場所であるホットスポットの調査も行いました。ホットスポットは、調査対象地の放射線状況を代表するものではありません。しかし、ホットスポットの調査により、毎時0.23マイクロシーベルト基準の数十倍もの放射線量の場所や、さらには浪江町のある場所では、基準の50倍以上もの線量の場所があることがわかりました。

 

浪江町

浪江町

最も高い放射線を計測したのは、浪江町の民家Zだった。また国道114号線沿いの倉庫周辺で毎時11マイクロシーベルトのホットスポットが見つかった。この地点は10センチメートルの高さでは毎時137マイクロシーベルト、地表では毎時200マイクロシーベルトを超えた。

飯舘村

飯館村

飯舘村のホットスポットは、浪江町の帰還困難区域内で見つかったものより値は低かった。2016年以降、これらのホットスポットの上限値は大幅に低下した。これには気象の影響、特に大雨や融雪、風などの寄与、およびホットスポットに的をしぼった除染が寄与していると思われる。いずれの場合も、放射線レベルは基準の毎時0.23マイクロシーベルトをはるかに上回っている。

調査報告書『原発の写像:浪江町と飯舘村における放射能調査』

2017年11月、スイス国連人権理事会UPR作業部会で日本政府に対し217もの勧告がだされました。そのうち、オーストリア、ポルトガル、ドイツ、メキシコは原発事故被災者対応について勧告しています。グリーンピースは、これまでの調査によって得られた知見を国連や人権関係機関にも報告してきました(くわしくはこちら)。

>プレスリリース
>関連ブログ「除染しても下がらない - 2018年最新放射線調査」

今後とも、人と環境をまもることに役立つ調査を行っていきます。


原発事故被害者の人権をまもって

原発事故被害者の人権をまもって

住宅支援をうちきり、復興の名のもとに被害者に帰還を強いる政策は、原発事故被害者に対する人権侵害です。 昨年10月、グリーンピースは避難されている原発事故被害当事者の方とともに国連人権理事会加盟各国に現状を訴えました。11月には、4か国から日本政府に対し状況改善の勧告が出されました。
現在、この勧告を受け入れるよう政府に求める署名を実施中です。ぜひご協力をお願いします。

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大切なご支援ありがとうございます。

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