こんにちは。エネルギーチーム広報担当の城野です。

本日は、8月27日に行われた関西広域避難訓練の様子をお伝えします。

この訓練は、福井県にある関西電力の高浜原発が事故を起こしたことを想定した、住民参加の避難訓練です。国と福井県、京都府、滋賀県などが合同で開催。避難先の兵庫県も協力し、原発から30キロ圏内の7000人もの住民が参加するとされた大規模なもの。訓練場所はこまかく枝分かれして、いろいろな場所でさまざまな訓練が同時並行で行われました。

 

美しい若狭湾に密集する原発

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私は前日に、東京から福井県高浜町をめざしました。京都から、あの「もんじゅ」がある敦賀へ入り、原発銀座と言われる若狭湾沿いを各停の電車にゆられること2時間。初めて来ましたが、若狭湾はとても風光明媚なすてきなところですね。日本三景の一つ、天橋立もあります。

この若狭湾には、原発がなんと計15基、日本の原発のほぼ3分の一が集まっているんです(すべて福井県)。万が一原発事故が起こってしまえば、この美しい地域が一瞬にさま変わりしてしまうと想像すると、大変切ない気持ちになりました。日本の原発の多くが、こういう自然豊かな美しいところにあるんですよね。

 

悪天候でヘリや船が出ない!

訓練当日の朝。私たちが訪れたのは、高浜原発からほんの数百メートルのところに位置する福井県高浜町音海地区(下図の赤い囲み部分)。高浜原発は、その音海半島の付け根にあるため、避難が難しい場所。音海からヘリコプターを使った住民の避難訓練が予定されていたのですが、悪天候のためヘリが出せない、と知らされました。これをふくめ、高浜周辺からのヘリ2機と船舶3隻がキャンセルに。結局ヘリ1機だけが飛びました。

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お天気は曇りときどき小雨。海沿いのこの辺りは、確かに風が強かったです。でも、原発事故はどんなお天気の時でも起こり得ます。これでは台風や大雨のときにはどうなるのでしょう? 本当に心配になりますね。

 

誰のための避難訓練?

もう一つ驚いたことがあります。それは、実際に訓練に参加した住民の少なさ。原則として、原発から5キロ圏にいて避難できる人はすぐに逃げる、ということになっているので、より多くの人が訓練に参加して、避難計画の実効性を検証することが、訓練のそもそもの目的ではないでしょうか? でも、この原発から至近距離の音海で、実際にはごく少数しか訓練参加者を見かけませんでした。

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例えば、唯一飛んだヘリ。特別立派なヘリでしたが、乗り込んだ住民は2名。ほかに現場にいたのは報道陣や現場スタッフのみ。また、その近くに自衛隊の機動車も来ていましたが、大きな4台の車に乗り込んだのは全部でたった10名ほどの住人。もっと人が乗り込めそうでした。(ちなみに、自衛隊は金沢の駐屯地からはるばる片道4時間かけて来たとのこと。もし事故が起こった場合に間に合うのでしょうか?)

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救急車による救急搬送の訓練でも、見かけたのは要支援者役と付き添い役の方2名のみ。しかも、健康な方が「要援護者」というゼッケンをつけての訓練で、実際に支援を必要とする方は参加していませんでした。

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今回の訓練は、事前の報道ではかなり大規模と聞いていましたが、実際に現地に行ってみると、参加したのはほんのごくごく一部の住民だったということがよくわかりました。

高浜原発の5キロ圏内に約5000人が住んでいますが、ほとんどの方は”屋内退避”という想定で、実際に移動しての避難訓練に参加したのは、約230人(全住民の約5%)。最終避難場所まで行ったのは、さらにその3分の1。

30キロ圏内では、最大で約18万人の避難を見込みながら、今回、移動を伴う避難をしたのは、約1130人(全住民の約0.6%)にとどまったとのことです。

結局、誰のための、何を確認するための避難訓練だったのか、大きな疑問が残ります。ごく少数の住民だけが参加しただけでは、いっせいに移動する際の混乱やパニックを検証し、備えることはできません。でも事故の際には、そのパニックが現実のものになるということですよね?

 

最終避難先では

高浜町の80名の住民の方々は、バスや自家用車で、ひとまず京都府の丹波の森公苑に避難し、そこで自家用車の方はバスに乗り換え、さらに最終避難先である兵庫県の宝塚市役所に避難しました(高浜原発からおよそ車で2時間、約85キロ圏)。

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バス2台でいらっしゃった約80名の方々の顔ぶれは、ほぼ全員、男性、大人。だいたい40歳から70歳くらいの方が多い印象。女性や若い人、子どもなど、いろいろな方が高浜町にもお住まいのはずなので不思議でした。音海での救急車での訓練の参加者2名は、関西電力と自治体の関係者でしたし、この訓練の参加者は一般の方というよりも、組織的に集められた方が多いのではと感じられました。

 

「訓練で終わりたい」

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この宝塚市役所では、福井県知事、高浜町長、兵庫県知事、宝塚市長の訓練視察と記者会見が行われるということで、文字通りメディアが殺到していました。

各首長は、「今回は初めての合同訓練だったので、まずは第一歩」「今回はスムーズだったが、実践のとき落ち着いた対応ができるかが鍵」「客観的立場の意見を聞きたい」といった発言をしていました。

その中でも、宝塚市長の「訓練で終わりたい」という言葉が印象的でした。本当にそうですね。今回現場に行ってみて、そもそも原発事故の避難計画には無理があるということがよくわかりました。

 

ズバリ訓練にはいくらかかるの?

さて、この避難訓練にはどのくらいのお金がかかっているのでしょう?

福井県は県内の市町村や関係団体など、150機関2000人ものスタッフを動員したそう。京都府は500人を動員。ヘリや船、機動車、放射線チェック、会場設営費、その他もろもろ、相当な費用がかかっているはずです。

内閣府、福井県、京都府、関西広域連合に電話をして、聞いてみました。全部でいくらかかったかは、残念ながら「不明」です。府県は「全体は把握していない。かかった費用を後で国に報告して交付金で賄われる」との説明。内閣府や関西広域連合は、「あくまで府県が主体で、さまざまな関係機関がそれぞれの予算でそれぞれにお金の管理をしているので、全体としてはわからない」という回答でした。

でも、ひとつわかっているのは、私たちの税金が使われるということです。

 

原子力防災は、原発を止めることしかない

報道では「7000人が参加」とされていますが、実際に参加してみると、その大半は自宅に留まる「屋内退避」。熊本地震では、多くの建物が倒壊し、また倒壊の恐れから屋内退避ができないケースが多くあったにもかかわらず、そのような経験は生かされていません。

また、一人では避難できない要援護者の方々のほとんども、実際には移動の訓練に参加されておらず、いったい誰のための訓練かと思わざるをえませんでした。

さらに、少々の悪天候で船も出ず、ヘリも飛ばず。これでは実際に事故が起きた場合、果たしてちゃんと避難できるのか疑問です。

改めて、原子力防災は、原発を止めることしかない、と思いました。

 

ニュース報道でも、さまざまな課題が指摘されました

  • 計画で想定するマイカーでの避難もほとんど行われず、バスや自治体の公用車を利用。避難計画の想定とかけ離れた訓練内容に、参加した住民、受け入れ側の自治体職員の双方から実効性を疑問視する声が出た。<神戸新聞、8月28日>
  • 避難に使われた自家用車は約30台にとどまり、事故時の渋滞の検証には疑問も残った。<日経新聞、8月28日>
  • 国道27号と舞鶴若狭道は片側1車線の区間が長く、トラックやバスが多い。有事の際は、交通事故や土砂災害が起き、陸路で避難できない恐れもある。(訓練に参加した男性は)「避難する車が殺到すれば渋滞になる。別の避難路を整備してほしい」と不安を口にした。<産経新聞、8月27日>
  • 訓練は、広域避難計画の実効性の確認が目的だが、高浜原発の四キロ南側で有料老人ホーム「であいの郷」を営む山本勝則さん(62)は、計画とそれに伴う訓練を「絵に描いた餅」だと痛感した。<東京新聞、8月27日>

 

なお、今回の避難訓練を現地で監視した「美浜の会」などが、9月9日、国と質疑応答の場を持ち(グリーンピースも参加)、避難訓練や屋内退避訓練のあり方が議論されました。そのときの報告は以下をご覧ください。

<政府交渉報告>◆8月27日 福井・京都等の防災訓練(規制庁、内閣府) (美浜の会)

【9.9政府交渉報告:熊本地震で「屋内退避」は無理であることが明らかに!しかし規制庁は現場も見ず、従来通りの「屋内退避」方針堅持...「いろいろ検討」の中身は答えず (玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止めるプルサーマルの会)

 

グリーンピース・ジャパン エネルギーチーム広報担当 城野

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