2018/12/06 グリーンピース新報告書発表ーー日本企業がインドネシアで進める石炭火力発電事業の経済的、政治的リスクを警告

プレスリリース - 2018-12-06
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都新宿区、以下グリーンピース)は、本日12月6日、新報告書『不確実で有害 インドネシアにおける日本の石炭火力発電事業』(注1)を発表し、日本企業がインドネシアで進める石炭火力発電事業は、パリ協定に合致していないだけでなく、出資者や事業主にとっての経営リスクが高いと警告しました。

 日本の金融機関や商社は、今年の春から夏にかけて、石炭火力発電事業に関しより慎重な投融資方針を発表しましたが、石炭火力発電事業への資金の流れは今なお続いています。現在インドネシアでは、日本企業(銀行、商社等)が出資者および事業主である新規の石炭火力発電所計画が12基あります。


近年インドネシアでは、誤った需要予測に基づく電力の過剰設備の問題や、唯一の国営電力会社PLNの経営難、電力購入契約をめぐる規制の変更、気候関連の規制、太陽光発電とのコスト競争、大気汚染問題といった石炭火力発電所を巡る課題が山積しています。本報告書では、長い投資回収期間を要する石炭火力発電事業の競争優位性について問題提起をしています。

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 【報告書の要旨】
●インドネシアの電化率はすでに95.35%に達している。現在同国で日本企業の資金による新規計画・建設中の石炭火力発所の12基中8基が、もっとも電化が進んだジャワ・バリ系統地域(電化率は約99%)に位置する。日本の支援が同国民の電気へのアクセスを助けるという主張は当たらない。

●唯一の国営電力会社PLNの非現実的な電力需要予測のために、同国はすでに過剰設備の状態にある。2017年11月、PLNのCEOが電力の40%が未使用であると語った。PLNの2017年の事業計画では、年率8.3%増の売上が仮定されていたが、実際には3.1% であった。

●2017年、インドネシアの財務大臣がPLNの財政状況が国家予算の負担になっていると述べたことが明らかになっている。PLNや政府の財政難は、事業の将来性を危うくする。

●PLNの電力供給事業計画の年次の見直しで、2018年春、目標発電容量の大幅な削減が行われ、今後10年間の目標値が、78GWから56GWへと引き下げられた。

●同国の通貨の脆弱性も課題。2018年、インドネシア・ルピアが米ドルに対して大幅に下落し、石炭火力発電所向けの輸入資材が高騰したため、9月に政府は計画中の電力事業の半分を保留にすると突然発表した。

●いわゆる「クリーンコール技術」と呼ばれる超々臨界(USC)設備ですら、従来の亜臨界(SUB)に比較し、CO2の削減幅はわずか15%に留まる。にも関わらず、日本企業が計画中の12基には、旧来技術であるSUB4基が含まれる。

●同国は、深刻な大気汚染に悩まされているが、日本企業が同国で建設中の石炭火力発電所は、日本国内で建設・計画中のものより大量の大気汚染物質を排出する。例えば、建設中のバタン発電所は日本の約5倍量を排出。健康影響に悩む住民による抗議デモも行われている。


グリーンピース・インドネシア事務所  エネルギー担当のタタ・ムスタシャ
は、「日本は高い技術と知見を持った国です。日本の投資はインドネシアでは歓迎されていますが、エネルギーに投資するならば、気候変動問題やエネルギー動向に沿った最新のシステムの構築に期待します。石炭火力発電ではなく、需要管理、エネルギー効率、自然エネルギーへの投資を望みます」と訴えました。


グリーンピース・ジャパン  エネルギー担当ハンナ・ハッコは、「10月に発表された最新のIPCC報告書では、気温の上昇を産業革命前に比べて1.5度未満に抑えるために、2030年までに石炭利用の2/3を削減し、2050年までにすべての石炭火力発電所を廃止しなければなりません。日本とインドネシア両国がパリ協定の約束を守るためには、早急にエネルギーの取り組みを現代的なものにする必要があります」と語りました。


また、米国の研究機関、エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)のエネルギー金融アナリスト(インドネシア担当)エルリカ・ハムディは、「インドネシアでの日本の石炭火力発電事業の資金提供者は、過剰設備、事業計画の遅れ、大気汚染防止への要求の高まり等を背景に、経済リスクが増大していると認識する必要があります。一方で、太陽光と風力のコストは急速に世界中で下がっており、まもなくこの国でも石炭火力発電コストよりも低くなるでしょう。 世界の他の国と同様、クリーンな自然エネルギーへ移行すべき時です」と述べました。


(注1)

『不確実で有害 December 2018 インドネシアにおける 日本の石炭火力発電所事業への投資』

Uncertain and Harmful: Japanese Coal Investments in Indonesia(英語版)

 

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