©Kemal Jufri / Greenpeace


国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都新宿区)とグリーンピース・東南アジアは、本日20日、報告書『日本の二重基準ーー海外石炭火力発電事業が引き起こす深刻な健康被害』を発表しました(注1)。日本政府と政府系公的金融機関の国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、日本貿易保険(NEXI)の、海外の石炭火力発電所への資金提供をめぐり、海外の発電所が日本国内で許可されているよりもはるかに多くの有害な大気汚染物質を排出し、日本が現地での大気汚染や早期死亡を引き起こすと予測しました。

 

グリーンピースは、排出制限におけるこの致命的な「二重基準」により、日本の公的資金による海外の石炭火力発電所は、日本で建設される発電所の最大13倍の量の窒素酸化物(NOx)、33倍の二酸化硫黄(SO2)、40倍の煤塵(ばいじん)を排出すると推計しました。またそれによってもたらされる早期死亡は30年間で最大41万人と予測されます。

 

<背景>海外石炭火力に資金援助の唯一のG7国
8月24日から、フランスで開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)では、「不平等との闘い」がテーマで、気候変動は主要議題の一つとされています。しかし日本は、G7各国で唯一、気候変動や大気汚染に悪影響が大きい石炭火力発電事業を推進し、G20諸国の中で2番目に多くの公的投融資を海外石炭事業に対し行っています。2013年1月から2019年5月の間に日本の公的金融機関は、167億米ドル(約1兆7700億円)6カ国(インドネシア、ベトナム、バングラデッシュ、モロッコ、インド、チリ)、18の石炭火力発電所に提供しています。

 

グリーンピースの大気モデリングと健康影響評価2013年1月から2019年5月の間に日本の公的資金が投入された上位5カ国(インドネシア、ベトナム、バングラデシュ、モロッコ、インド)、17の発電所について、詳細な大気モデリングと健康影響評価を実施しました。地形・気象データ等を大気拡散モデル(SCALPUFFモデル)へインプットし、以下の2つのシナリオでモデリング(シミュレーション)を行い、その比較等から、以下が推計されました。

シナリオ 1:  資金受け入れ国の現在の排出制限値が適用される場合

シナリオ 2:  日本の一般的な排出制限値が適用される場合

 

(結果)

  • 日本の公的資金による海外の石炭火力発電所では、日本で建設される発電所に比べ、窒素酸化物(NOx)が最大13倍、二酸化硫黄(SO2)が33倍、粉塵が40倍も排出される
  • 受け入れ国の排出基準を適用すると、発電所から排出される有害なレベルの(WHOの基準を超える)二酸化硫黄(SO2)に約 330万人がさらされる。
  • 日本の投融資によって引き起こされる早期死亡は、30年の石炭火力発電所の稼働期間にわたって、合計148,000人から410,000人にのぼると予測される。微粒子状物質(PM2.5)および二酸化窒素(NO2)による大気汚染に長期間さらされることが原因。この早期死亡の内訳は年間で、インドで5343人、インドネシアで2481人、ベトナムで1223人、バングラデシュで485人である(モデリング結果の中央値採用の場合)。

 

グリーンピース・ジャパンのエネルギー担当、ハンナ・ハッコ
「残念ながら、高品質のインフラ『Quality Infrastructure』(注2)を輸出するという日本の約束と、低品質な石炭技術が輸出されている現実との間にギャップが見られます。日本は、人々の健康と地球環境を損なわないエネルギー技術に注力し、関係国とそれらの国の人々を尊重すべきです。 日本は自然エネルギーの分野でリーダーシップを発揮できる可能性がありますが、まずは大気汚染や気候変動を招く石炭技術の輸出をやめる必要があります」

 

グリーンピース・東南アジアのエネルギー担当、タタ・ムスタシャ
「日本にとって良い技術でなければ、インドネシアにとっても良い技術とはいえません。 石炭火力発電事業受け入れ国の政府は、より厳しい排出基準を設定し、石炭からクリーンで再生可能な自然エネルギーにすみやかに移行して、国民を守らなければなりません。人々の健康と地球環境のために、 政策と投融資における変革が、今すぐに求められています。」

 

注1) 
『日本の二重基準ーー海外石炭火力発電事業が引き起こす深刻な健康被害』(日本語要約版)

–  A deadly double standard — How Japan’s financing of highly polluting overseas coal plants endangers public health (英語全文版)

–  ベトナム語版プレスリリース要約版

 

注2)
Quality Infrastructure

 

参考)8月20日環境省記者クラブでの会見資料

 

※原文の「Premature death」について当初「若年死」と翻訳していましたが、見直しをして「早期死亡」に修正しました(9月5日)