九州を襲った豪雨から1年。

2021年も静岡県熱海市で大規模な土石流の原因となった豪雨をはじめ、災害級の豪雨が多発しています。
世界各地で、異常気象が「異常」でなくなりつつある中、スーパーコンピューターによる分析で、地球温暖化と豪雨の増加との関係も、より明確になってきました

グリーンピースは、熱海市伊豆山地区で土石流を引き起こした豪雨に関する分析を行いました。温暖化との関係は?そして、自然災害に対し、私たちはなす術はないのでしょうか?それとも地球温暖化と異常気象に備えることはできるのでしょうか?
静岡県熱海市伊豆山地区で発生した土石流(2021年7月)

強い長雨が引き起こした熱海の土石流

NHK静岡の報道*によると、7月3日に起きた熱海市伊豆山地区の土石流災害により住宅など約130棟が被害を受け、7月16日時点で死者は計12人、行方不明者は16人、避難者は521人にのぼっています。

お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々、ご遺族、地域の皆様には心よりお悔やみとお見舞い申し上げます。そして、現在行方不明の方々が一刻も早く救助されることをお祈りするとともに、警察や消防、自衛隊など献身的な救助・救援活動に当たられている方々へ敬意を表し、被災地域の一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

1カ月の平均降水量を上回る豪雨

熱海市伊豆山地区での土石流災害を受け、グリーンピースは、静岡県網代のアメダス観測所(土石流現場に最も近い観測所)の1940年から2021年までの最新の降水量データ*を調査しました。今回の大雨は、停滞していた前線によってもたらされ、7月1日から3日にかけての熱海の降水量は411.5ミリに達し、この3日間の降雨量は7月の歴史的な月平均値226ミリを上回るものでした

また、今回は短期間の集中豪雨というよりは、それなりの強さの雨が長時間降り続け、大量の雨が地中に浸み込んで地盤が少しずつ緩み、土砂崩れにつながったというのも特徴です。

地盤が緩んだ状態では、少しの雨でも、弱くなった斜面が突然崩れ落ち、今回のような土砂災害につながることがあります。そして、要因とされる大雨、長雨の強さや異常さは、人為的な気候変動の影響を受けていると考えられます。

長雨が要因である一方、難波静岡県副知事の会見によると、土石流の起点の不適切に造成された「違法な盛り土」が被害をさらに拡大させたという指摘もあり、静岡県は専門家による調査を進めるとしています。

なぜ地球温暖化で豪雨が増える?

日本の夏の気候は亜熱帯高気圧に大きく影響されます。

亜熱帯高気圧は、モンスーン、豪雨、台風、猛暑など東アジアの気象パターンを支配しています。中国気象局や広東省熱帯海洋気象研究所が中心になって発表した分析では、亜熱帯高気圧は、地球温暖化の影響を受けて対流圏中層で東に後退する傾向があり、それに伴って、東アジアの降雨帯が亜熱帯高気圧の北西側に沿って東に拡大することを示しています*

これにより、東アジア地域の気象パターンが変化します。日本でも、亜熱帯高気圧の一つである太平洋高気圧が気候変動によって勢力を拡大し、異常気象の被害を甚大化させていることが近年報道されています*

空気中の水分量は気温によって変化し、暖かい空気は大量の水蒸気を運ぶことができるため、地球温暖化の影響で降水量も増加すると考えられています。

雨は、大気に含まれる水蒸気が水となって地上に降るものです。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書は、気温が1度上がるごとに、大気が保持できる水蒸気は約7%増加し、世界の多くの地域ですでに大雨が増加していると結論づけています。気象庁も一般的に大気中の水蒸気量は、気温上昇とともに特定の変化率で増加する性質を持っていて、強雨が増加しているのは、気温上昇に伴って大気中の水蒸気量が増加するためであるとしています*

また、地表の気温上昇だけでなく、海水温の上昇も海水を蒸発させるので、海面から莫大な量の水蒸気が空気中に分散し、雲をつくり、雨となり降り注ぎます

スーパーコンピューターの分析で温暖化との因果関係はより明確に

それでは、なぜ温暖化との因果関係を否定する説があるのでしょうか?

日本では、春から夏に移行する過程で梅雨前線が停滞して降水量が多く、台風も地球温暖化が進む前からある気象現象なので、温暖化がどれくらい影響を与えていたのかを数字に出すことは難しいと考えられていました。しかし、近年スーパーコンピューターの発展が後押しし、温暖化が起こっている場合と起こっていない場合の、様々な気象現象をシミュレーションできるようになりました。

気象庁のスーパーコンピューターによるシミュレーションでは、積極的な温暖化対策をとらず温室効果ガスの排出が高いレベルで続いた場合、ほぼすべての地域・季節において1日の降水量が200ミリ以上という大雨や、1時間当たり50ミリ以上の短時間の強い雨の頻度が増え、ともに全国平均で20世紀末の2倍以上になるという結果が出ています。

つまり、温暖化が進めば大雨の強度・頻度はさらに増加し、今後更なる大雨リスクの増加が懸念されます*

インド西部グジャラート州で「気候変動は洪水がより頻繁に起こることだ」と書かれたバナーを掲げるグリーンピース(2007年7月)

大雨がもたらす問題とは?

近年の大雨災害では、河川の増水や堤防の決壊による水害(浸水や洪水)や、山・がけ崩れ、土石流などの土砂災害による犠牲者が、大きな割合を占めています

2020年7月に熊本県を中心に九州や中部地方など日本各地を襲った九州豪雨では、土砂崩れや河川の氾濫で80人以上が亡くなりました。

2018年6-7月に、広範囲で長期間にわたる大雨を降らせた西日本豪雨では、河川の氾濫、浸水、土砂災害により死者数は230人以上にも及び、2万棟以上の家屋が全半壊など甚大な被害を受けました。

大雨による水害から命や住宅を守るためには、雨が降ってから行動するのではなく、避難行動のシミュレーション、居住エリアのハザードマップや災害対策、情報収集手段を確立しておくなど、被害への備えをしっかり整えておくことが大切です。

九州北部の豪雨による冠水被害(2019年8月)

堤防や防潮堤だけでは守れない

同時に、水害が多発する日本で、堤防や防潮堤などの人工構造物で対応することの限界を、私たちは何度も目の当たりにしてきました

2018年9月に西日本で多数の死傷者を出した台風21号による高潮は、高さ5メートルにもなる防潮壁を越え、関西国際空港の滑走路を冠水させ、700便以上が欠航、関西電力によると約218万世帯で停電が発生しました。

2019年の台風19号でも、長野県千曲川の水位が約5メートルの堤防頂点を最大約80センチ上回り、堤防の増強工事が行われていたにもかかわらず、水圧増加と越水で、70メートルにもわたる堤防決壊を引き起こしました*。また、東日本では、140カ所以上で堤防が決壊するなど、多くの河川が氾濫し、浸水・冠水被害が発生しました。

温暖化によって異常気象が増えると、経済・社会活動全体に大きな影響を及ぼすだけでなく、将来的には全国で多くの人々が住まいを失うことにもなりかねません

災害応急対策だけでなく、10年後の異常気象を抑える行動を

気候危機は既に世界中で、深刻な影響を及ぼしています。気候の不可逆的な変化を防ぐために、残された時間はあとわずかです

今回の大雨や今後も多発すると考えられる気象災害の被害を軽減するためには、温室効果ガス排出量を、できる限り早く・大幅に削減しつつ、自然エネルギーへ転換するなど、長期的な視点に立った気候危機対策が不可欠です。

また、政府は、気候変動の影響を受ける可能性の高い地域を特定し、災害・気候リスクの分析やモデリングを再評価してインフラ整備を進めるなど、気候変動に適応していくことも必要です

自然エネルギーへの転換※は、地球温暖化対策として有効なだけでなく、分散型のエネルギーインフラを構築することになり、災害緊急時にもそれぞれの地域でエネルギーを確保することができるため、防災性の観点からも重要です。

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グリーンピースは政府や企業からの援助をうけず、独立して環境保護にとりくむ国際NGOです。 大切なあなたの寄付が、グリーンピースの明日の活動を支えます。

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※2021年5月、参議院で地球温暖化対策推進法の改正法案が可決され、今後は地域主体で、自然エネルギー発電所などの設置場所を選定することが求められます。グリーンピースは、自然エネルギー導入拡大が安定・継続的に進むためにも、自然エネルギーの導入ポテンシャルが大きい地域をはじめ全ての地域で、法規制を十分に整え、正しいゾーニングが行われ、自然エネルギー設備の建設が長期的に地域に雇用や収入を生み、地域住民が納得できる合意形成を進めていくことが不可欠だと考えます。自然エネルギー推進のための開発においても、地球環境や生物多様性保全を考慮し、生態系への甚大な影響が危惧される場所を避け、自然環境に大きな影響を及ぼさない立地や運営方法を選定することが必要です。