国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは(東京都新宿区、以下グリーンピース)、本日8日、放射線調査報告書『原発事故の最前線 : 労働者と子どもへのリスクと人権侵害、福島県浪江町と飯舘村における放射線調査』(注1)を発表し、現在除染等の作業が行われている帰還困難区域の放射線レベルは非常に高く、そこで働く労働者の権利が侵害されていると指摘しました。また大規模な除染後に避難指示が解除された地域で、国内外の基準年間1ミリシーベルトをはるかに超える高い放射線量が続いていること、放射線の影響をより受けやすい子どもを含め帰還させることは、子どもの権利条約などの国際条約やガイドラインに違反していることなどを指摘しました。国連特別報告者や国連子どもの権利条約委員会は、日本政府に対し、労働者や子どもの人権を守るよう勧告しています(注2)。

 

 

 

 

 

 

 

 

調査結果概要

放射線調査は、2018年10月11日から10月28日に、飯舘村、浪江町の避難指示が解除された地域、および浪江町の帰還困難区域で行い、民家や森、労働者が除染作業をしていた地域を測定。

  • 飯舘村、浪江町の避難指示が解除された地域、および浪江町の帰還困難区域の放射線レベルは、国際的に推奨されている一般人の被ばく限度(年間1ミリシーベルト)の5〜100倍で、子どもを含む住民への被ばくが大きく懸念される。来世紀に入ってもその状況が続くと見られる。
  • 労働者が作業していた浪江町の大堀地区(帰還困難区域)で測定した放射線レベルは平均値が毎時4マイクロシーベルトだった。1日8時間その場所にいたとすると、1年に100回以上胸部レントゲン(一回あたり60マイクロシーベルト)を受けた場合の放射線量に相当する。
  • 避難指示がすでに解除された浪江町の小学校と幼稚園の側の森では、平均値が毎時1.8マイクロシーベルトであった。測定した全1,584地点で政府の除染基準毎時0.23マイクロシーベルトを超えた。全地点の28%で、子どもの年間推定被ばく量は国際的に推奨されている基準の10〜20倍となる。

 

また、元除染作業員や原発労働者、その支援団体からの聞き取り調査や文献資料から以下を明らかにした。

  • 労働者の搾取が横行している。労働者には、貧困者層やホームレスも含まれる。放射線防護の教育が不十分で、身分証明書や健康診断書の改ざんもあり、被ばくに関して信頼できる公的なデータの蓄積がない


調査に参加し、報告書を執筆したグリーンピース・ドイツ、核問題シニア・スペシャリストのショーン・バーニーは、「除染作業員が作業していた場所は、もし、原発構内なら緊急措置が取られるほどの放射線レベルでした。しかし、労働者は十分な放射線防護の訓練も受けず、低賃金で、声を上げれば仕事を失うようなリスクを負っています」と語ります。

 

グリーンピースの調査に協力した元除染作業員の池田実氏は、「私は人間扱いされていないと感じました。奴隷に例える人もいました。現場に入った者として、何が起きているかを世界の人に知ってもらいたい。日本政府には、労働者の健康に配慮し、危険な作業をやめさせ、また、適切な補償をするようにと訴えたい」と話しました。

 

グリーンピース・ジャパン、エネルギー担当の鈴木かずえは、「日本政府は、原発事故の被害の規模や複雑さ、放射能のリスク、労働者の状況、子どもの健康などについて、何も問題がないかのように国連に説明しています。政府は国連の勧告を真摯に受け止め、高線量地域の除染作業や避難指示解除をやめ、被害者へ十分な賠償をし、労働者や子どもの人権を守るべきです。原発事故とそれに続く人権侵害の根本原因は、日本の間違ったエネルギー政策にあります。政府は原発の再稼働を急ぎ、同時に気候変動を悪化させる石炭火力も推進していますが、日本で多くの人々が求めているのは、持続可能な自然エネルギーへの転換です」と述べました。

なお本日、スイス・ジュネーブで開かれる国連人権理事会においてIADL(国際民主法律家協会)の代表がグリーンピースの代理として、東電福島原発事故をめぐる日本の政策による人権侵害についてスピーチを行う予定です。

 

※関連する写真と動画はこちら

 

(注1)『原発事故の最前線 : 労働者と子どもへのリスクと人権侵害 福島県浪江町と飯舘村における放射線調査』

 

(注2)ブリーフィングペーパー『国連人権理事会、特別報告者、子どもの権利委員会からの東電福島原発事故をめぐる政策への勧告・指摘』