本報告書では、投資家に対して、「福島第一原発を所有する東京電力にどこが融資していたか」、「金融アナリストと格付け機関はどのような早期警告を見逃したのか」、「この先、投資と社会が最良の選択をするための示唆とは」について論じています。


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「原発 – 21世紀の不良資産(原題:Toxic Assets-nuclear reactors in the 21st century)」に寄せて

 

藤井 良広氏
上智大学大学院地球環境学研究科教授

本レポートは、東京電力福島第一原子力発電所事故を契機に、原子力、電力会社に対する「金融のあり方」に初めて本格的なメスを入れた分析である。
「Toxic Asset(有毒資産)」のネーミングは、金融にとっての問題意識を極めて的確に表している。

すなわち、通常の不良資産なら、金融機関の損害は最大でも融資額止まり。
だが、原発向け投融資の場合、環境、健康の損害額は名目資産額を大きく上回りかねない。
電力会社の破綻だけではない。
資金を出した金融機関も回収どころか、自らも投融資額を上回る健康・環境被害の「原発債務」の共同責任を問われる。
まさに東電とメガバンクが現在直面する姿だ。

本レポートの警告は、コストの大きさにとどまらない。
本来、福島の事故は、市場のリスクを見定める金融機関が、格付け、分析、審査・評価等の諸機能を有効に働かせておけば、早い段階で防げたはずだ。
そうならなかったのは、電力、重電、金融の3者が独占構造下で、それぞれの本来機能を忘れ、「リスク無視」の超過利益を貪り合ったためではないか。
数字に裏付けられた本レポートの分析は、そうした実像を浮かび上がらせる。

福島事故にもかかわらず、原発は途上国向けに増設され、改善したとされる新型原発が喧伝される。
本当にそうか。
金融は、自らの資産の解毒のためにも、レポートの指摘に正面から答えるべきだろう。

田中 優氏
未来バンク事業組合理事長、天然住宅バンク理事長、ほかNPO理事、監事、代表
立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学 非常勤講師

原子力発電所はこれまでもずっと負債となっている。
電力自由化の進展によって初めて起きたことではない。
しかしアメリカでは、原子力発電は、自由化の進展で取り残された回収困難なコストである「ストランデッドコスト」とされ、需要家から競争移行費用として約10年間かけて回収された。
「原子力発電が最も安い発電方法」であるならば、このような扱いは不要なはずだ。
これまで原子力推進によって得た関係者の利益を吐き出させることが先のはずだ。

しかも原子力は、運転されるごとに処理費用のかかる使用済み核燃料を産出する。
これを日本では「幻の再処理計画」によって資産計上させ、「負債」を「資産」として計上させてきた。

そこに起きた福島第一原発事故により、虚構は崩壊し、国家を揺るがすほどの負債を抱えることになり、東京電力は実質的に倒産し国有化された。
ここにはしっかりとした分析が必要だ。そして本当の加害者たちに賠償させなければならない。
安易な国家依存が未来を無責任社会へと導くからだ。
責任ある社会を構築するために、誰が警告を無視し、誰が責任をどれだけ負うべきか決めなければならない。
その第一歩になるこのレポートに期待している。

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