国際環境NGOグリーンピースは、本日2月19日、報告書『福島原発事故 空白の責任――守られた原子力産業』(グリーンピース監修・発行、原題: Fukushima Fallout: Nuclear business makes people pay and suffer)を発表しました(注1、2)。
本報告書は、既存の原子力損害賠償制度の不備を分析し、原子炉メーカーなど原子力産業が原発事故時の損害賠償責任を免除されており、その代償を最終的に国民が負担するという「制度的不公平」を指摘しています。同時に国際原子力損害賠償制度と各国の事例を比較し、福島原発事故を経験した日本と世界が取るべき改善点を国際的視点から提言しています。本報告書は日本での発表後、約20カ国のグリーンピース事務所のウェブサイトなどをとおして公開される予定です。

本報告書を執筆した著者は、『クロニクル・オブ・ハイヤー・エデュケーション』誌の日本特派員であるデビッド・マクニール博士、イギリス王立国際問題研究所(チャタムハウス)の上級研究員であるアントニー・フロガット氏、そして原子力政策の専門家でイギリス・グリニッジ大学国際経営学部のスティーブン・トーマス教授です。本来守られるべき被災者の賠償の確約よりも、原子力事業者(電力会社)および原発関連企業の保護が優先されている現状を論点に、下記3章で構成されています。

第1章 福島原発事故から2年――苦悩する被災者と「責任」を逃れた原発関連産業
第2章 国際原子力損害賠償制度(パリ条約とウィーン条約など)のまとめと分析
第3章 原子力発電所のサプライチェーン――建設から廃炉まで

グリーンピース・インターナショナル 核・エネルギープロジェクトリーダーのアスリハン・テューマーは「福島第一原発事故では、およそ16万人もの人が避難を強いられています。国民が税金で賠償費用を負担していく一方で、原子力産業は歪んだ制度によって守られており、製造した原子炉が大事故を起こした福島第一原発の原子炉メーカーでさえ、事故の責任を一切問われていません。不公平な制度が引き起こした経済への打撃や、原発事故の被災者の方々が受けた被害は、日本だけでなく世界中で起こりうる問題です」と述べました。

グリーンピース・ジャパン 核・エネルギー担当の鈴木かずえは「本来守られるべきは、原子力産業ではなく、被災者と人々の安全です。福島原発事故の収束・除染費用、事故を起こした施設の廃炉コストなど事故の被害総額は20兆円ともいわれています。2013年夏に原子力損害賠償法が改正されます。制度による過ちの代償を市民が払うようなことは二度とあってはなりません」と福島原発事故から学ぶべき教訓を改めて訴えました。

グリーンピースは、2011年9月に『自然エネルギー革命シナリオ――2012年、すべての原発停止で日本がよみがえる』(注3)を発表し、「未来世代に安心・安全なエネルギーを提供すること、CO2を削減して気候変動を防ぐこと」をエネルギー問題の最終目標にしています。

注1) グリーンピースレポート『福島原発事故 空白の責任』:
注2) グリーンピース・インターナショナル、“Fukushima Fallout”(英語):
注3) グリーンピースレポート『自然エネルギー革命シナリオ』:
参考) ブリーフィングペーパー『日本の原子力損害賠償制度の問題点――福島原発事故被害を直視した改正へ』