こんにちは、エネルギー担当の関根です。

グリーンピースでは、原発メーカー(日立、GE、東芝、三菱など)の責任を問うキャンペーンの一環として、原賠法(原子力損害賠償法)が1961年に成立する過程で、「どのようにしてメーカー責任が除外されていったのか」ということを、調査してきました。

その結果、情報公開請求でグリーンピースが入手した原子力委員会の議事録により、当初の素案ではメーカーに「過失や故意」があったときには事故の責任を負う*1ということになっていたものが、メーカーの意向を受けて、「過失」の際の責任が削除されたことが明らかになりました。

 

 
<原賠法の素案から消えたメーカーの過失責任>

1950年代後半に、原賠法の素案は、原子力委員会と科学技術庁(現 文部科学省)で検討されていました。原子力委員会の中には、この原賠法がどうあるべきかを検討する専門家の部会「原子力災害補償専門部会」(我妻榮 部会長)がつくられていました。

1959年12月12日、この部会は、原子力事故に備えて被害者への賠償などをどうするかを検討した答申*2をまとめ、中曽根康弘 原子力委員長(当時)に提出しました。

この答申のなかにはすでに、事故がおきたときの賠償責任を電力会社だけが追う「責任集中」の原則が記されていました。
一方、事故の責任が原発の設備や燃料のメーカーや第三者(電力会社でも被害者でもない者)の過失や故意で起こった事故の場合は、電力会社がこの第三者に対して賠償を求められる権利(「求償権」)がある、となっていました。インドの現行の原賠法でも、このような形でメーカーの責任が規定されています。*3

[1959年12月12日 原子力災害補償専門部会の答申より、該当箇所を抜粋]
原子力事業者との間で燃料の供給、設備の請負等について直技間接 の契約関係にある者の故意または重大な過失によって原子力事故が生じたとき、およびこれらの関係のない第三者の故意過失によって原子力事故が生じたとき は、原子力事業者は、これらの者に対し求償することができるものとする。(1. 原子力損害賠償責任 (5) )

ところで、日本の現行の原賠法では、事故があったときメーカーに過失があってもメーカーは賠償しなくてよいことになっています。

[現行の原賠法より抜粋]
損害が第三者の故意により生じたものであるときは、同条の規定により損害を賠償した原子力事業者は、その者に対して求償権を有する。 (第5条より。ここではメーカーも第三者に含まれると解釈されています)

このような変化はどのようにおこったのでしょうか。

専門部会の答申が出された翌1960年の1月、2月に開催された第2回原子力委員会参与会(以下参与会。原子力メーカーなどもメンバー)と第六回原子力委員会の議論を境に、メーカーの「過失」は削除され、「故意」だけになってしまいました。

1960年2年17年  原子力損害賠償保障法案*4
原子力事業者は、当該原子力事業に関して資材または役務を供給するものがその供給に関して原子力損害を生ぜしめた場合は、前項の規定にかかわらず、故意により原子力損害を生ぜしめたときにのみその者に対して求償権を有する。

この委員会や参与会で何が話し合われたのか?調査を進めるため、この年度の参与会と第六回原子力委員会の議事録とその時に配布された資料の情報開示請求をしました。

その結果、開示された第六回原子力委員会の議事録では次のような会話がなされていたことが明らかになりました。

1960年  第六回原子力委員会議事録(今回情報開示請求入手したもの)

井上(政策課長)「供給者への求償は故意または重過失になっているが、重過失は供給者の不安を除くため削除することとした。」

石川(委員)「Dの求償権について重大なる過失は削除してもよいと思う」

佐々木(原子力局長)「Makerの立場からは故意以外のものは全て免責してもらいたいという意見をもっており、設置者、保険者、国の三者間で問題を解決していきたい。」

 メーカーが負うべきリスクが、住民、消費者、国に…

一方、参与会の議事録はどうでしょうか。実は、参与会の議事録は開示されませんでした。参与会は、原発メーカーや電力会社など、原子力産業の幹部が出席しています(当時の名簿*5)

代わりに、インターネットでは公開されている、参与会の議事要旨から、関連する会議の様子の一部を見てみましょう。

「原子力事業者と・・・・契約関係にあるものの故意または重大な過失によって原子力事故が生じたときは、・・・・原子力事業者はこれらの者に対し求償することができる・・・・」というのはどういう意味か。」

 

「原子力事業者とは原子炉設置者、濃縮ウラン等の加工業者、再処理業者等を意味し、普通の機器メーカー等を含んでいない。(中略) 実際に今度の原電とGEとの間では求償できない。」

メーカーの参加する参与会では、賠償の責任についてより具体的な意見が交わされていたとみられます。これらの会議を通じて、メーカーの意向は原子力損害賠償法案に強く反映され、結果として「メーカーの不安を取り除くために」メーカーの過失責任が消されていきました。

それは、メーカーが事故のリスクを現実的に認識していたことに他なりません。

本来なら、原子炉のようにリスクが巨大な装置であればあるほど、設計からメンテナンスまで切れ目なく、関わった企業の責任が伴わなければならないはずです。重い責任はそれだけ装置の安全性を強化します。しかし、メーカーの過失責任がなくなるということは、安全性の向上が期待できなくなるばかりか、事故や賠償のリスクが、住民や消費者、国に転嫁されることになっていったのです。

<「不存在」の文書の行方>

今回の情報開示請求では、参与会の議事録だけでなく、第六回原子力委員会で出された資料についても、請求していましたが、そのうち、「原子力損害賠償法案の問題点」という文書だけが開示されませんでした。

グリーンピースが情報開示請求をしたのは下記の3種類の文書でした。

(1)    原子力委員会原子力災害補償専門部会の第1回(1958年11月25日)から19回(1960年5月13日)までの各回ごとの議事録および配布資料
(2)    1960年 第六回原子力委員会の議事録および配布資料
(3)    原子力委員会参与会1959年の第11~12回、1960年の第1回~第5回の議事録および配布資料

このうち、(1)と(3 )はまったく開示されませんでした。
また、第六回原子力委員会の配布資料のうち「原子力損害賠償法案の問題点」という文書だけが開示されませんでした。

しかも、この「開示されない」状態は、普通とかなり違っていました。

通常、請求した文書が開示されない場合には、「不開示」とか、「一部不開示」、と書いてあります。しかし、今回は「全部開示」となっているのに、請求した文書の大半が開示されず、開示しない理由も書いてありませんでした。

不自然に思い、開示されない理由を電話で問うと、「なかったです」との回答がありました。
しかし、「無いから開示しない」、という場合にはその文書を「不開示」とし、その理由を「不存在」としなければなりません。

また、通常、会議の資料は一つのファイルにまとめて保存されます。開示されなかった「原子力損害賠償法案の問題点」は、第六回原子力委員会の資料の一部ですから、その一部だけが無くなっているというのもとても不自然です。

この全部開示の決定と不開示という現実には問題があるため、グリーンピースは、8月2日に、この決定を審査してもらうべく、情報公開法に基づき、安倍首相に対して審査請求を行いました。

審査請求書はこちら>>

審査請求書についての経過はまたブログ等でお知らせします。

<まとめ>

このブログの最後に、情報開示請求で開示された資料とインターネットから探せる情報から、原子力事故の際の「メーカー責任」が削除されていったプロセスを、少し詳しく、時系列にそって、PDFまとめてみましたので、ぜひご覧ください。

PDFを見る>>

1950年代、政府の専門部会の答申や、当初の法案で、メーカーは過失責任を負うという内容が弱まっていった過程には、参与会でのメーカーの発言がいくつもあったことが見てとれます。

これは、「事故」も「被害者」も架空のものであった時代の議論。
東電福島第一原発事故によって今なお政府が把握しているだけでも15万人もの方々が避難を強いられ、汚染水の被害が日増しに深刻になっている今日、このような原子力賠償の枠組みは根本的に変えなければなりません。

アラスカのバルディーズ号の座礁事件が企業責任の原則であるバルディーズ原則(現セリーズ原則)を生み、インドのボパール事件がメーカー責任を明記したインドの原子力損害賠償法につながったように、日本も、福島原発事故を教訓として、メーカーをはじめとする企業の責任と被害者保護の制度を作り直していかなければなりません。

 

情報公開された資料:1960年第六回原子力委員会議事録 28ページからが該当する議事録です。

*1  求償できる(電力会社がまず損害賠償を払うが、その分をメーカーに賠償請求できる)
*2  原子力災害補償専門部会の答申

*3  インドの現行の原賠法では、このような形でメーカーの責任が明記されています。
「原子力施設の運転者は、第六条が定める賠償を支払ったときは、以下の場合、求償権を有する」
(中略)
(b) 原子力事故が供給者又はその従業員の行為によって引き起こされたこと。これには、明らかな若しくは隠れた瑕疵を有する機器若しくは原料の供給又は水準に達しない業務の提供を含む。
インド原賠法ブログもご覧ください

*4 科学技術庁原子力局による損害賠償保障法案の右上に修正本と手書きあり。“保障”の字は原文ママ

*5 当時の参与会の名簿 日立製作所社長、東京芝浦電気専務取締役などの名前がある。

資料・関連ページ

・ ブリーフィングペーパー 「日本の原子力損害賠償制度の問題点――被害者保護のための改正を」・ 「主要国における原子力損害賠償制度の概要」

・ 【セミナー報告】モハンティ弁護士に聞くインド原賠法–インドでは、原発にも「メーカー責任」があるって本当ですか?」

・ じつは原子炉メーカーが嫌がるインドへの原発輸出 

 

ライターについて

グリーンピースは、環境保護と平和を願う市民の立場で活動する国際環境NGOです。世界中の300万人以上の人々からの寄付に支えられ、企業や政府、一般の人々により良い代替策を求める活動を行っています。ぜひ私たちと一緒に、行動してください。

グリーンピース・ジャパン

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