こんにちは。エネルギーチームの柏木です。
1月24日、新潟県の米山知事を東京に招いての講演会(*1)がありました。米山知事は、2016年に東京電力の柏崎刈羽原発のある新潟県知事に当選、原発の再稼働に関しては「皆さんの命と暮らしを守れない現状で認めることはできない」としています。
あまり東京での講演の機会は多くはない米山知事。そのダイジェストをご報告します。


原発事故のコスト=日本の1年間の税収

東京電力の福島第一原発事故の費用は、70兆円という試算が出ている(*2)。これは日本経済研究センターが行なったもので、特に脱原発を訴える組織ではなく、誇張したものとは言えない。ちなみに、日本の1年間の税収は約60兆円で、それに匹敵する。
かつて、原発推進だったが、原発事故後の状況を見て、反対に変わった。

原発、今すぐ動かさなくても特段の問題なし

原発の発電量は、年間1-2%とわずか。そもそも、必要な電気の量は、省エネ効果と人口減によって、ここ10年ほど減少傾向にあった。そこに、自然エネルギーが普及し、夏場の電力需要を太陽光がまかなっている。
原発は、今すぐ動かさなければならない、というものではない。

 

原発の安全を国だけに任せておけない

原子力規制委員会は、達成すべき安全基準として、下記の点をあげている。

  • 炉心損傷:1万年に1回
  • 格納容器機能喪失:10万年に1回
  • 大量放出:100万年に1回

しかし、日本に約50基、世界に約500基のプラントがあると単純化すれば、世界でみると計算上、炉心損傷は20年に1回ということに。
もし、また事故が起こったら、日本全体が終わってしまう。よくよく検証しなければならない。国に任せておけばいいということではない。国に任せておいて福島第一原発事故は起きた。

 

県は県民の生命財産を守る責務がある

県は県民の生命財産を守る責務がある。実効性のある避難計画を策定することは絶対に必要。原発事故のための避難計画が、地震発生時のものと同じわけにはいかない。地震の場合は(余震もあるが)、一回あれば終わる。ところが原発事故は、東電福島原発事故でわかったように、「これから何時間後に何万人逃げてください」という形になり、シミュレーションに近いような手順書をしっかり作らなければならない。
どういう事故を想定して、どんな避難計画を立てるのか。そのために、一度起こった東電福島第一原発事故をもとにし、検証、総括して報告書を作ろうとしている。まず検証して計画をつくるのに1年くらい、そこから避難訓練をすると、さらに1年かかる。きちんとした結論を出し、その上で民主的プロセスによって選択される。

新潟県の独自検証で、明らかになったこと

現在、新潟県では、1)事故原因、2)健康と生活への影響、3)安全な避難方法について検証を進めている。
事故原因については、東京電力の社員4200人にアンケート調査を行ない、その結果初めてわかったことがあった。

  • 約半数の社員が炉心溶融(メルトダウン)に至っていると考えていた
  • 対外的に炉心溶融という言葉を使ってはいけないと聞いた社員が複数確認された
  • 社内で炉心溶融の判定基準を知っていたのは5%、さらに判断基準に達していることを知っていたのはごくわずか(1.2%)

健康と生活への影響については、東電福島原発事故のあと、新潟県に避難されている方にアンケート調査を行った。その結果、避難世帯の月の収入は10.5万円減少、世帯人数も減り、無職や非正規雇用が増加、人間関係も希薄化するなど様々な影響があった。また結婚出産に関する差別に不安を感じている人も多かった。事故はそういうものを起こしうる。
私自身は放射線科医をやっていたので、病院内では10mSvという被ばく線量をあまり気にしない。ところが、そこに住むかと言われれば、うーんと考えてしまう。そういう意味で簡単に安全だとは言えないし、人によって、しきい値も違う。もっと許容値が低い人もおり、それをみんな一律に決めるのは極めて非現実的。人間の心理としてなかなか戻れないという心理になる、そういうことが起きるものとして事故を考えなければならない。

原発が動かないと地元経済が疲弊?

柏崎刈羽原発が動かないと地元経済が大変という話はある。柏崎刈羽原発6、7号機では新潟県の農業生産額と同じくらいの額を生み出しているが、それは東京電力としてで、新潟県に落ちているわけではない。農業生産額を2倍にできれば、それを賄える。
1人当たりの所得で見てみると、柏崎市の一人当たりの所得は、県の動向・景気の動向と同じように推移している。雇用情勢に関しても、柏崎は、ほぼ同じ立地条件にある新潟県の新発田市と同じ。これは当然のことで、柏崎市には東京電力しかないわけではない。みなさんが知っている菓子メーカーのブルボンもある。

 

技術を他の分野に活かす

世界的に自然エネルギーへの潮流がインパクトを与え、以前訪問したデンマークでは自然エネルギー産業が大産業となっていた。日本でも、原子力産業だけでなく、柔軟になる必要がある。また、原発が動かなくても、電力が足りなくなることはまずない。
柏崎市にも産業集積はあって、鉱工業や加工業が盛ん。その技術を別の産業に生かしていけばよい。新潟県でも、自然エネルギーを促進するために様々な取り組みを進めている。


柏崎刈羽原発でつくる電気は東京へ

知事の講演の前に、eシフトのメンバーや、来場していた国会議員の方、そして新潟からかけつけてくださった方も登壇しました。新潟でも、原発が危険だということがわかってきて流れが変わってきたそうです。柏崎刈羽原発は東京電力のもので、発電した電気は関東に送られます。だからこそ、立地している新潟県や柏崎市に住む人と、関東に住んだり働いたりしている人と、ともに考え、そして動く必要があると思います。
講演会のあった1月24日には、関東地方では数年ぶりの大雪となった雪がまだ残っていました。新潟では120㎝もの雪が積もっていたそうで「長靴で来ました」、とのご報告も。雪国で、実効性ある避難計画はほんとうにできるのか? 改めて感じました。

 

あなたにできること

具体的に、あなたにできることがあります。
その一:政府のエネルギー政策について意見を出す。
日本の電気やエネルギーに関する法律や政策は、3年に1度見直される「エネルギー基本計画」に基づいています。だからこそ、その中身が大事。
いま、専門家による見直しのための議論が行われています。
その議論に加えて、「できる限り幅広い国民からの意見を募集する」として、経済産業省は「ご意見箱」を設置しました。市民の声をちゃんと反映した政策にするために、多くの意見が集まることが大切です。
一言でも、ぜひ意見をだしませんか?

 

その二:「原発ゼロ基本法」のタウンミーティングに参加する。
立憲民主党がとりまとめた「原発ゼロ基本法骨子」(*3)は、「原発稼働をすみやかに停止し、原発ゼロを実現」といった大きな方向性を示していますが、「○○年までに」といった点は1〜2月にかけて実施される国民的な議論を経てとりまとめるそうです。
全国11カ所で、タウンミーティングが予定されています(日程はこちら)。あなたの声を届けるのも、そして同じ地域に住む方がどんな意見を持っているのか聞きに行くのも、いいと思います。参加してみるのはいかがでしょうか?

*1)eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)が主催しました。グリーンピースはeシフトのメンバー団体です。
*2)https://www.greenpeace.org/static/planet4-japan-stateless/2018/12/e43767e3-e43767e3-20170307_policy.pdf
*3)https://www.asahi.com/articles/ASL125J3FL12UTFK004.html

【ご参考】
eシフトのブログに、文字起こしがあります!こちらをご覧ください。
動画も、こちら(U-Plan)からご覧いただけます。


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