世界中で記録されている猛暑や大雨。なんだか増えている気がするけれど、どうなんだろう?私たちの暮らしはどうなるの?国立環境研究所地球環境研究センター副センター長の江守正多さんが、気になるポイントを解説してくれました!

Q. 世界各地で異常気象が増えているのはどうしてですか?

長期的な傾向として、猛暑や豪雨は、深刻化する傾向にあります。それには、いわゆる「地球温暖化」で地球の平均気温が上昇していることが関係しているといえます。つまり、人間活動による温室効果ガスの排出が影響しているということです。

温暖化により地球の平均気温は産業革命前からすでに1度上昇していますが、平均的には、気温が1度上がると、水蒸気量が7%くらい増えると考えられます。

大雨の雨量も、単純に考えると7%増えます。条件によっては、雨が周りの水蒸気を集めてきて、もっと増える可能性もあります。

異常気象はもともとランダムな現象なので、一個一個の異常気象がその年にその場所で起きるのは偶然です。年によって起こることは場所によって違うけれども、やはり地球全体を見ると、どこかで激甚な豪雨や猛暑が起きることが増えています。同じ場所でもより高い頻度で激甚な気象災害が起きるようになっているんです。

長期的な傾向として、異常気象がより強く、より頻度が上がるのは、人間活動による気候変動によって生じている「必然」といえます。

Q. 日本での異常気象の被害も、地球温暖化が関係していますか?

日本でいえば、気象庁気象研究所などによる研究結果では、2018年の猛暑は、もし人間活動によって温暖化していなかったらほとんど起こらないような現象だと結論されています。

大雨は不規則性が高いので、去年7月の西日本豪雨がどれくらい人間活動のせいだったというのは難しいですが、もし温暖化していなかったら、気温上昇1度分くらい水蒸気が少なかったはずです。水蒸気が少ないと雨量も少なかったはずです。

温暖化してなかったら”並み”の異常気象で済んでいたかもしれないものが、温暖化によって1度分底上げされて、記録的な異常気象になってしまった、といえます。

Q. 7月は暑くなかったので温暖化している実感がわきにくかったのですが…?

今年の7月は冷夏でしたね。

涼しくなると、「なーんだ」と思うかもしれませんが、それでしばらく暑かったのを忘れているうちに、もう何年かすると去年より暑い夏がやってくる。変動を繰り返しながら、じわじわと上がっていくことが、逆にいうと怖いんですよね。

温暖化しようがしまいが、気候は年々天候の特徴が違います。毎年変動があるというのが、昔からの自然のパターンです。その自然の変動に加えて、温暖化の長期的なトレンドを足し算して理解する必要があります。

Q. 日本では、これからも異常気象による被害が増えますか?

気象パターンはランダムなので、200年に一度起きるような気象パターンがあります。だから、温暖化していなくても、これまで生きていて経験していなかったような気象災害は起きうるんですね。

しかし、そうして気象がランダムに振動している中で、地球規模の気温上昇が続く限り、平均気温が上がり、それによって大気中の水蒸気量も増えていくので、極端な高温や豪雨がこれからも増えていくことが考えられます。

Q. 防災していれば大丈夫?

200年に一度の大雨っていうのは、大体の川は氾濫してしまうような強さですが、それがさらに1度温暖化すると、だいたい100年に一度、倍来やすくなることになります。

200年も生きていないから関係ないと思うかもしれませんが、毎年200分の1で起こる可能性があるということです。

200発に1発アタリが入っているロシアンルーレットを、毎年打っているようなものです。「今年は来なかった」「今年もセーフだった」って言うのを毎年繰り返していることになります。それが、さらに1度温暖化すると、アタリが2発になってしまいます。

東京の江戸川区のハザードマップでは、200年に一度の大雨が来ると、利根川、江戸川や荒川が氾濫してしまって、江戸川区一帯が水没してしまうので、ここにいてはダメということが書いてあります。もしそういうことになれば、広域避難といって、自治体を超えて避難しなければいけないことになります。避難するにしても、1日前だと渋滞して間に合わないかもしれないので、二日前には判断しなければいけない、など、そうした議論がされるようになっているんです。

防災にはみなさん関心を持っていると思うのですが、1度温暖化したらこうした大災害が約2倍起こりやすくなるので、やはり1度温暖化すること自体を止めなければいけない。温暖化を止めることを合わせて考えないと、防災の問題っていうのは不十分なんじゃないかと思います。

Q. このまま温暖化するとどうなるの?

パリ協定では、気温上昇を1.5度までに抑える努力をしようと合意しています。しかし、1.5度までなら安全、2度だったら危険だけど、と言っているわけではないんですよ。1度ですでに危険は始まっているから、せめて1.5度にしましょう、ということなんです。

IPCC1.5度の特別報告書でも言われていますが、今すぐ始めて、2030年までのこの10年どうするかは、人類の将来にクリティカルに関わっています。

1.5度を目指すシナリオでは、2030年までにCO2の排出量を今の半分にしなくちゃいけません。それを考えると、世界はCO2の排出量を減らし始めてもいないわけですよ。いかに「今やらなきゃいけない」ということ、必要なスピードが大きいかを理解できると思います。

Q. 温暖化を止めるにはどうすればいいの?

人類は、化石燃料を使わない文明に移行していく必要があります。

特に、石炭火力は、ガス火力に比べて二倍のCO2を出します。いま全力でゴールに向かっているときに、石炭火力を新しく立ててしまうということは、あまりにも後戻り感があります。いま石炭火力を作れば、30~40年の間ガス火力の二倍のCO2を出し続けることになりますから、どんなにもったいないことをしていることか、イメージがつくと思います。

国立環境研究所ホームページ

2030年までの10年間が鍵を握る

国立環境研究所の江守さんのお話を聞いて、いかがでしたか?すでに地球の平均気温が1度上昇して、大きな変化や被害が世界中で記録されています。もう危険だけど、最悪の事態を避けるために、ここ10年間でどれだけ緊急的に動けるか、が重要なんですね。

そんな中、日本政府は、G7で唯一石炭火力発電を国内外で新しく作ろうとしています。世界中がCO2を減らすために脱・化石燃料を進める中、これは”後戻り”なのではないでしょうか?

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